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造花令嬢の婚約  作者: 石動なつめ
第三章 造花令嬢とはた迷惑な王子
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何故かやって来たお客様


 物事は障害があればあるほど燃え上がるという話がある。

 アリシアはそういう経験はした事がないのでよく分からないが、恋愛小説にはそんな事が時々描かれているので少し興味はある。

 けれどもそれを実際に体験してみると、燃え上がるのはともかく、とても面倒だなと思った。




 ◇ ◇ ◇




 その日、ダンヴィル領の天候は微妙だった。

 そろそろ雨を降らせるよと言わんばかりに、空を灰色の雲が覆っている。

 アリシアは雨が好きだ。災害や被害が出るほどの雨量は困るけれど、適度なそれは農作物を育てる上ではありがたい。

 それに何よりアリシアは雨の匂いと音が好きだった。しとしとと降る雨を見ながら木の下で、そして庭先で、妖精達と雨宿りした思い出がふわりと蘇ってくるからだ。

 雨の音を聞いていると不思議と自分達の声も小さくなって、内緒話をしているような楽しさが、あの空間にはあった。


(また会いたいな……)


 屋敷の窓の向こうに広がる空を見上げ、アリシアはぽつりとそう思う。

 先日、妖精の王アルベリヒが帰る際に「戻って来るのを待っていると、ちゃんと伝えるよ」と約束してくれた。

 だからきっと、ちょっとの勇気が芽生えれば、妖精達は戻って来てくれる。

 その日がとても楽しみだった。


「よぉし、気合いを入れて造花を作りますかねっ」


 妖精木を育てるのも大事だが、それまでにダンヴィル領を保たせる必要もある。

 そこに必要なのはやっぱりお金である。

 造花令嬢と呼ばれ、金にがめついとも言われるが、必要なものは必要なのだ。気持ちだけでは生活が出来ない。

 ぐっと拳を握って気合いを入れると、アリシアは作業机につく。そして造花を作り始めようとした時、ドアがコンコンとノックされた。


「姉様、ちょっと良い?」

「大丈夫よ、リュカ」


 アリシアが了承すると、リュカはドアを開けて部屋の中へ入って来る。

 弟は何とも複雑な表情をしている。何かあったのかしらとアリシアは首を傾げた。


「どうしたの? 何かあった?」

「あったと言うか、来たと言うか……」

「来た?」

「うん。姉様にお客様だよ」

「あら珍しい。どなたかしら」

「それが……」


 リュカは言い淀む。どうやらあまり良い客ではなさそうだ。


「……そんなにアレな相手なの?」


 アリシアが恐る恐る尋ねると、リュカはその表情のまま頷いた。

 アレ、と評するのは相手に失礼ではあるが、しっかり者の弟までこういう反応になるのだ。嫌な予感がひしひしとする。


「実はローゼル様が来ているんだよ」


 アリシアはぴしりと固まった。


「何で!?」

「僕だって分からないよ。胡散臭いくらい良い笑顔でドアの前にいたんだよ」

「怖……」


 思わず本音が零れた。表情がまるで仮面のようになる。

 本当にどうしてローゼルが訪ねて来るのだろうか。

 先日あったミモザ姫の誕生日パーティーの折に、彼は相当厳しくお説教をされたと聞いている。

 にも関わらず訪ねてくるなんて、ジニアの言葉は何一つ身に染みていないのだろうか。

 アリシアは遠い目になった。


「中に入れちゃった?」

「入れたくなかったんだけど、王子をドアの前でずっと立たせておけなくて……」

「だよね……。父様と母様が外出しているタイミングで……」

「本当だよ……」

「リュカ。申し訳ないのだけど、一緒にいてもらえる?」

「うん、任せて」


 婚約者でも家族でもない未婚の異性と同じ空間にいるのは、相手がどのような身分であってもさすがに外聞が悪い。

 なのでアリシアが頼むと、リュカは胸に手を当てて請け負ってくれた。

 弟の姿は頼もしいが不安もある。あのローゼルを弟に会わせる事についてだ。

 先日の彼の発言を思い出すとローゼルは「自分を叱ってくれる相手」や「叱ってくれそうな相手」に興味を惹かれる可能性がある。

 恋愛的な意味ではなく、人材的な意味で。

 つまり。

 アリシアよりしっかり者で、母ドロテによく似たリュカはその対象になりかねない、という話だ。

 そうなったら困る。可愛い弟をローゼルの面倒くさい性分に巻き込ませたくはない。


「リュカ。もしローゼル様が挑発してきたり、おかしな事を言いだしても、ぜったいに怒ったらダメよ?」

「分かっているよ、姉様。王族相手だもんね」

「それもあるんだけど、たぶん厳しく接すると興味を持たれるのよ」

「興味?」

「例えばそうね……リュカはローゼル様の臣下になりたい?」

「まったく」


 リュカは即座に首を横に振った。一考すらした様子が無い。

 はっきりとした弟の態度にアリシアは、自分がしっかり守らねばと決意した。

 立ち上がり、ぐっと拳を握る。

 ローゼル様の話を聞いて、可及的速やかにお帰り願って、その後でクロードや王族に連絡をする。

 今日の流れはこれで決まりだ。よし、とアリシアは頷くと、リュカと一緒に部屋を出て、ローゼルが待つ応接間へと向かったのだった。


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