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造花令嬢の婚約  作者: 石動なつめ
第二章 造花令嬢と妖精の王様
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魔力の肥料


 それから直ぐにアリシア達は妖精木の種を植える事にした。馴染ませるために、なるべく早い方が良いと言われたからである。

 どこが良いかなぁとアリシアは考えて、この屋敷の庭に植える事にした。ここならばいつでも魔力を注げるし、何かあっても直ぐに駆けつける事が出来る。


「アリシアに近い方が安定するから、良いと思うよ!」


 とミアキスからも言って貰えたので、よし、とアリシアは決断した。

 植えるのはアリシアの部屋からも見える、一番日当たりの良い場所だ。

 そこに穴を掘り、その中にちょこんと種を置く。


「埋めたら水をやりながら、魔力を注いでくださいね」

「分かりました!」


 クロードの言葉の通りに土をかけ、水を与え、それから魔力を注ぐ。

 頭の中で浮かべるのは造花魔法を作る時のような魔力の動きだ。布を織るように丁寧に魔力を練って、そっと被せる。そんなイメージでアリシアは魔力を注いだ。

 しばらくそうしていると「そのくらいでいいよ~」とミアキスが声をかけてくれた。

 よし、と思って魔力を止めてからそこを見ると、妖精木の種を植えた土が、うっすらと光っている。


「うん、良い感じですね。妖精木の種に土が合った(・・・)証拠ですよ。頑張りましたね、アリシアさん」

「良かったぁ……。お二人共、ありがとうございます」


 どうやら最初の一歩は上手く行ったらしい。アリシアはホッと胸を撫でおろした。


「後はどのくらいの間隔で、魔力を注げば良いでしょうか?」

「とりあえずは朝と夜で二回ですね。もう少し育って来たら、昼にも必要になります」


 クロードが言うには、アリシアの身長くらいになってきたら三回、そこからもう少し育ったら自ら魔力を作り出せるようになるので必要なくなるらしい。

 妖精木の成長速度はまちまちだが、クロードの時は一カ月くらいでそうなったそうだ。

 頭の中に想像しながら、なるほど、とアリシアは頷く。

 ひとまず一カ月は遠出はせずに屋敷周辺で活動していた方が良いだろう。造花の納品もあるし、ちょうど良いかなとアリシアは思った。


「そう言えばアリシアさん。先日パーティーで見せていただいた、造花魔法の事なんですが」

「何でしょう?」

「一つ確認したい事がありまして、物があれば見せていただけないでしょうか?」

「構いませんよ。今、作っちゃいますね!」


 まだまだ魔力は残っているので、アリシアはそう言って両手の上で造花を作り始めた。

 どんな花が良いかなと考えて、せっかくなのでこの間と同じくクロードの髪と同じ銀色にしよう、とアリシアは魔力を練る。

 少しして薔薇のような花弁を持つ銀色の花が出来上がった。

 なかなか良い仕上がりである。アリシアは満足しつつ、それをクロードに手渡した。


「……素晴らしい」


 クロードがぽつりと呟いた。眼鏡が光っているように見える。


「やはり魔力の練り方が繊細でとても美しいですね! 素晴らしいです!」

「あ、ありがとうございます!」

「もう一度この目で見られて……良かった……」


 クロードは胸に手を当てて、じーん、と感動している様子でそう言った。

 何だかとても喜んで貰えたようだ。こういう反応は新鮮なので嬉しいな、とアリシアが思っていると、ミアキスがこっそりと「クロードってね、魔法大好き過ぎて、モテるのにモテないんだよ」と耳打ちしてくれた。どうやら彼が婚約出来ない原因はミアキスだけではなかったらしい。

 なるほどなぁと思いながら見ていると、クロードはハッとした顔になった。そして誤魔化すように小さく咳をし、片手で眼鏡を押し上げる。


「失礼、取り乱しました」

「いえいえ。面白かったので、またぜひ」

「おや、そう言われたのは初めてですが、お言葉に甘えたいところですね」


 冗談交じりでアリシアが言えば、クロードもちょっとだけおどけた調子でそう返して来た。

 最初の頃と比べると、少しずつだが会話の距離が近付いて来ただろうか。そう思ってアリシアは嬉しくなった。


「それでクロード様、その花をどうするんですか?」

「ええ、これは仮定の話なのですが……この造花はアリシアさんの魔力で出来ていますよね」

「はい。混じり気のない私の魔力ですねぇ」

「ですよね。つまり、これは魔力の塊です。基本的に魔力というものは、こういう風に保存可能な状態にする事は出来ないんですよ」


 そう言いながらクロードは手の中の造花へ目を向ける。


「ですが、これは造花という形をとって出来ている。つまり……」

「つまり?」

「妖精木を育てている間、離れる用事が出来た場合、これを根元に植えれば魔力の補充が出来るのではないかなと」


 クロードの言葉にアリシアは、

 ピーン!

 と思いついた顔になった。


「つまり肥料ですね!?」

「そうです、言わば魔力の肥料です!」

「出来たらすごい!」

「ええ、すごいですよね!」


 アリシアとクロードは目を輝かせ、お互いに頷きあう。

 そんな二人を眺めていたミアキスは「意外と似た者同士だった」と呟いたのだった。


 さて、そうと決まれば早速チャレンジだ。

 けれども造花を肥料に――という方法は、最初に妖精木で試すには心配なので、まずは実験をしてみる事にした。

 魔力で育つ植物は数が少ないけれど他にもあり、それでやってみようという話になったのである。

 父ドナに相談すると「これなら良いんじゃないかな」と苗を一つ分けてくれた。

 色は白色で、トマトの苗によく似たものだ。どんな植物なのかアリシアが聞くと「雪トマトだよ」とドナは教えてくれた。


 雪トマトとはその名の通り、真っ白な実をつけるトマトだ。常にひんやりと冷たいのが特徴で、その実には解熱作用がある。

 痩せた土地でもしっかりと魔力を与えれば育つ植物で、ドナが研究の一環で取り寄せていたのだそうだ。多めの魔力を必要とする段階で育てるには難しいものだが、何かのヒントになれば、と考えたらしい。

 ちなみにこの雪トマトだが、与えた魔力で味が変わるため狙った味にする事は困難で、そういう意味でも難しい植物なのである。

 けれどもとても面白いなと、話を聞いた時アリシアは思った。


 では早速この雪トマトの苗の植木鉢に造花を埋めてみようと、アリシア達は空き部屋へ移動する。

 庭でとも思ったが、妖精木から何かしらの影響があった場合困るので、そことは一番離れた屋内で育てる事になったのだ。

 ダイヴィル家の屋敷には幾つか使っていない部屋があり、その中で最も日当たりの良い場所を選んでいる。


 部屋へ到着するとすぐに、アリシアはウキウキと造花魔法を使い始めた。

 土に埋めやすいように、今回はちょっと長めの方が良いだろうか。そう思って、アリシアは房状に花が並ぶ細長い造花を作り出す。

 アリシアが造花魔法を使っていると、今回もクロードは眼鏡を押し上げ興味津々に見つめて来る。本当に魔法が好きなのだろう。

 好きなものがあるのは良い事だ。アリシアは微笑ましい気持ちになりながら作った造花を植木鉢にさした。


「あとは先ほどと同じように、少し魔力を注いで土と馴染ませましょう」

「分かりました!」


 クロードの言葉に頷いて、アリシアは霧吹きで水をかける程度の量の魔力を注ぐ。

 すると造花をさした付近の土が、妖精木と同じように淡く光り始めた。

 それを見てミアキスが翅をパタパタ動かして近づいて、じーっと観察したあと、アリシアに向かってサムズアップして「大丈夫だよ!」と教えてくれた。


「アリシアは筋がいいね! やっぱり造花魔法いっぱい使ってたからかな」

「貴重な収入源でしたので、頑張って作った甲斐がありましたねぇ」

「数をこなすのは大事ですねぇ」


 三人はそんな事を言って、うんうん、と頷き合う。

 こうして自分の気持ちを分かってくれる相手がいるのは嬉しいものだ。


(……支え合うって、こういう気持ちなのかな)


 どちらかと言えば今のところは共同研究という感じではあるが。

 それでも自分が理想とする両親の姿と少し近付けた気がする。

 そう思って、アリシアは嬉しくなったのだった。

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