#053 運命に抗う者
病院に着いた私はすぐにお医者さんに診てもらった。
「軽い捻挫ですね、すぐ治りますよ」
そう言って湿布を張ってもらって治療は終わった。
さて⋯⋯このまま帰ろう。
しかし。
「せっかくだから留美のお母さまにご挨拶していかないと」
と、真樹奈さんが余計なことを言い出す。
「そうね、一緒に住んでいるんだからご挨拶は大切よね」
⋯⋯映子さん、あなたは隣の部屋の住人でしょう?
こうして母に会わずに帰るという選択肢はつぶされた。
「留美さんのお母さんか⋯⋯どんな人なんだろう?」
ヤバい⋯⋯すっごく恥ずかしい!
私いまアリスケ君の事意識しちゃってる!?
別に特別な人ってわけじゃないよ?
⋯⋯でも大切な家族で⋯⋯って、これじゃまるで──。
そんな私の思考は、母の病室に近づいた時止まった。
「──そろそろ娘さんに伝えておいた方がいいです。 私たちも全力で治療にあたりますが、万が一の時のためにも」
⋯⋯病院の先生の声だ、いつも優しい母の主治医の。
「今は留美の邪魔をしたくないのよ、あの子の一番大切な時期だから、夢に向かって力をつけるために。 だから私の事は内密のままでお願いしますね、先生」
⋯⋯お母さん? 何言ってるの?
私は病室のすぐ外で足を止めた⋯⋯。
「今は比較的安定していますがいつ急変しないとも限らないのです、芹沢さんの現状は」
私は足を止めたままその母と先生のお話を黙って聞いていた。
え⋯⋯?
どういうこと?
お母さん⋯⋯死んじゃうの?
── ※ ── ※ ──
僕の目の前で留美さんは足を止めた。
それは今から入ろうとした病室の中から聞こえてきた会話のせいだった。
まさか留美さんのお母さんの病状がそこまで悪いなんて知らなかった。
⋯⋯いやきっと留美さんも今まで知らなかったのだ。
だから留美さんは膝が震えて立ちすくんでいた。
さっきまで見ていた留美さんの頼もしさは完全に消えていた⋯⋯。
僕らは全てを察して留美さんに声をかける事すらできない。
あの姉でさえ⋯⋯。
そんな僕らの前に病室から出てきた先生と⋯⋯目が合った。
先生は留美さんを見ると⋯⋯察したようだ、会話を聞かれていたことを。
「ここではなんですので⋯⋯ついて来てください留美さん」
「⋯⋯はい」
こうして僕らは先生の後について行って全てを知ることになるのだった。
白血病⋯⋯それが留美さんのお母さんの病気だった。
現状は小康状態を保っているが根本的な治療には骨髄移植が必要との事だった。
そしてそのドナーの適合者は現在現れていないとの事だった。
「⋯⋯私たちは最善を尽くして看護にあたっています、留美さん決して悲観しないでください」
「⋯⋯」
留美さんはなにも応えなかった。
完全に放心状態だ。
「あの先生! 骨髄移植なら僕のを調べてもらえませんか?」
「⋯⋯アリスケ君?」
僕に言えるのはこのくらいだった。
僕の骨髄の敵合格率がどれだけ低いかくらいわかっている、でも調べもせずに放っては置けない!
「⋯⋯君はまだ未成年だね? 駄目なんだ、骨髄の提供者は未成年からは禁止されているんだ」
「そんな⋯⋯」
僕は絶望する⋯⋯なんて無力なんだと。
今の僕には命を賭ける資格すらないのかと。
「なら私の検査をお願いします」
「私もお願いします」
「ねえさん、それに映子さんも」
二人は20歳を超えているから条件は満たしている⋯⋯しかし。
「⋯⋯他人からの適合確率は数万人に一人と言われています、それでも良ければお願いします」
そう先生が頭を下げた。
適合検査のため姉と映子さんは別室に行った。
それを留美さんは無言で見送った。
適合検査は約1時間くらいで終わるらしい。
僕はきっと姉ならどんな理不尽な確率もねじ伏せる豪運を発揮してくれると⋯⋯期待していた。
結果は⋯⋯不適合だった。
「ごめん留美」
「ごめんなさい、力になれなくて⋯⋯」
そう言って姉と映子さんは留美さんに謝った。
「⋯⋯いいんですよ、元々無理だと思ってたし⋯⋯期待なんか⋯⋯して⋯⋯なかった⋯⋯から」
その時留美さんの目から涙が溢れだした。
「やだぁ⋯⋯お母さん死んじゃうの⋯⋯やだぁ⋯⋯」
「落ち着いて留美! ほら薬物治療とかで先生が何とかしてくれるよ!」
そう言って姉が留美さんを抱きしめる。
それを僕は黙ってみている事しかできなかった⋯⋯。
僕は⋯⋯無力だ。
僕は留美さんを姉に任せて飲み物を買うために部屋を出た。
「あ⋯⋯私も行くよ」
シオンもついて来た。
自販機の前で飲み物を選ぶ⋯⋯。
「きっと暖かい甘いのがいいな、今は」
そう思ってホットココアを選んだ。
「なんか大変なことになったね」
「⋯⋯うん」
ついさっきまでバスケで盛り上がっていたのが嘘のようだった。
現実ってこんなにもあっけなく壊れるものなのだろうか?
「こんな飲み物を買いに行く事しかできない⋯⋯僕は」
「アッ君⋯⋯仕方ないよ」
仕方がないで済ませられない問題だ。
何かないのだろうか?
僕でも出来る方法は──。
その時、僕の目の前にそのポスターが目に入った。
「シオンのポスター?」
それはVチューバーネーベルの絵の入ったポスターだった。
「ん⋯⋯? ああコレか、献血コラボのポスターだね」
「シオン、こんな仕事もしていたんだ」
「んーと私さ、事故にあっていっぱい輸血してもらったんだ⋯⋯他人から。 父さんと母さんはぺしゃんこだったからさ。 その恩返しって訳じゃないんだけどね」
Vチューバーで輸血の呼びかけ?
そう珍しい話じゃない。
オタクの集まる大きな会場ではよく献血バスが来ているし⋯⋯。
「僕には無理でも、アリスになら⋯⋯」
「アッ君?」
「戻るよシオン!」
「え!? ちょっと待ってよ!」
僕たちは急いで戻って今のアイデアを話すのだった。
「──つまり私たちVチューバーとして骨髄提供者を呼びかける⋯⋯ってことね」
「そう」
「できるかしら?」
「出来るかどうか、見つかるかどうかはわからない! でも何もしないよりは可能性がある!」
そんな僕の熱弁をみんなは黙って聞いている。
「立って留美さん! この作戦には留美さんの、Vチューバールーミアの力だって必要なんだ!」
「⋯⋯私の力が?」
「登録者数50万人くらいの僕じゃ効果は薄い! でもここには100万人くらい登録者を持っているVチューバーが他にも居るんだ! ⋯⋯だからきっと何とかなる」
「⋯⋯そうね、私がしないといけないことなのよねそれって⋯⋯ありがとうアリスケ君」
ようやく留美さんの目に光が戻って来た。
「その作戦とりあえず木下さんと打ち合わせが必要ね、私たちだけで勝手には出来ないわ」
こうして僕らはあわただしく病院を後にした。
向かう先は僕らの事務所だ。
「絶対助けて見せる! お母さんを!」
僕らは決意をして動き出したのだった。
留美さんのお母さんを救うために!
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