(70)数値
血糖値を計っていると、普段は正常な数値にもかかわらず、その日に限ってとんでもない数値が出て驚くことがある。何が原因だろう…と昨日の食事を思い出せば、チョコレートの食べ過ぎか…と気づき、ニンマリと哂う訳だ。まあ、一過性なら、さほど驚くこともないのだが、小心者だと、ついつい心配になってしまう。^^
とある医院である。朝の開院直後から、バタバタと駆け込んだ老人がいる。
「…今日は、どうされました?」
常連の患者らしく、医者は欠伸を堪えて呑気な声で訊ねた。
「せ、先生っ! 今朝、とんでもないことにっ!」
「…とんでもない? どういうことです」
「け、血糖値がっ!!」
「んっ? 血糖値が、どうしました?」
医者は要領を得ず、もう一度、訊ねた。
「今朝、とんでもない数値がっ!!」
「とんでもない数値?」
「はい、322がっ!! いつもは110くらいなんです…」
「妙ですな…。何か心当たりは?」
医者は、どこも悪くなさそうな元気な老人を訝しげに見た。
「いえ…」
老人は小さな気弱な声で答えたが、次の瞬間、思わず驚くような大声を出した。
「あっ!! 先生、思い出しました、思い出しましたっ!」
「…何をっ?」
「夜、孫が卒寿祝いにくれたチョコレートを鱈腹食べましたっ!!」
「ああ、そうでしたか…。はい、次の人…」
医者は馬鹿馬鹿しくなったが怒る訳にもいかず、女性の老看護師に次の患者を呼ばせた。
まあ、とんでもない数値が出たとしても、驚くことなく、よぉ~~く、その訳を考える必要があるようです。^^
完




