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シガレッツブルーム  作者: 相木秋人
愛とバッジ
33/34

ソフィア5

「まさか私がこんな感情を抱くなんて」


 シックスと別れたソフィアは、商店街の脇道で頭を抱えていた。


 自分はブロードの命令を聞くただのヒューマノイドなのであって、それ以外のことは不要のはずだった。

 それがまさか恋に現を抜かしているとは。


 ーー恋?


 これが恋なのかすらもわからない。ただ、シックスと離れたくなかったということだけは確かだった。


 以前ニコは、ソフィアのブロードへの感情は愛なのではないかと問いかけてきた。

 この感情は愛に似たようなものなのだろうか。愛、とは一体何なのだろうか。

 オメンタムで検索をしてみる。ある教えでは、見返りを求めず慈しむと定義されていた。


 見返りを求めないという点では、確かにブロードへの感情は間違っていないのかもしれない。

 ヒューマノイドとして『義務』を全うするというのは、見返りを求めない行為であり、そういった意味では間違ってはいない。

 間違ってはいないのだが、どこか違うのではないか、とソフィアは疑問に思った。

 この考え方では、全てのヒューマノイドが主人を愛しているということになる。


 ーー勘違いする人も多そうですね。


 ふと、赤い炎が頭の中でよぎった。頭のなかが燃やされているような感覚に苛まれる。

 その炎は身体へと燃え移る。身体が溶けてしまいそうなほどに熱い。


 近くにあった井戸水で顔を洗う。

 キイキイと音を立てながらポンプを動かす。

 天日干しされていた桶に水を溜め、手で掬う。


 燃えかけていた身体の中が鎮まっていく。熱が取り払われていく。


 止まり切れなかった水がぽたぽたと桶に落ちる。

 桶に落ちた水は、すでに中に入っていた水と合わさって、どれが今落ちた水なのかわからなくさせた。


 顔をふくものを、とソフィアはポケットからハンカチを取り出した。

 と同時に、あっ、と声を出す。


 シックスのハンカチだ。

 返しそびれていた。申し訳ないと思いつつも、ソフィアはハンカチで顔を拭った。

 シックスの優しい香りがまだ残っていた。


 ソフィアはその香りが消えない内に、ハンカチ越しに、ほんの少しだけ呼吸した。

 それを咎めるように、視界の端に電話マークが点いた。ニコだ。


 ソフィアは丁寧にハンカチを仕舞った後で、電話に出た。


「もう、遅いですよぉ。ソフィアちゃん。何してたんですかぁ?」

「いえ、なにも」


 ソフィアは感情が表に出ないよう、短く返した。


「私はですねぇ、さっきまでお昼寝してましたぁ」


 ニコが、電話越しにあくびをしたのが分かった。

 正確な情報を与えず呑気に昼寝をしていたとは、とソフィアは文句を言いそうになったが、すぐさま自身の行動を省みた。

 状況が状況だったとはいえ、結果だけを見れば少女と絵を描いて、シックスと映画を観ていただけだ。ニコよりも寧ろ悪いのではないか。


「仕方ありません。そういうときもあると思います」

「あれぇ? なんだか雰囲気違いますねぇ? 何かいいことでもありましたぁ?」


 鋭いニコの質問に、ソフィアは内心動揺したが、それを自分への嘘を使って隠す。


「いえ。それよりも、犯人の手がかりは何か見つかりましたか?」

「誤魔化すところが余計に怪しいですぅ」

「本当に何もありません」

「むー。いつものニコちゃんだったらぁ、質問攻めにするんですがぁ、今は諦めますぅ」

「何かわかったんですか?」

「研究所を爆破した方なら特定できましたよぉ。今リストを送りますぅ」

「本当ですか。お願いします」


 ソフィアは、今度は驚きを隠さなかった。

 防犯カメラは破壊され、バックアップデータも消されていたはずだ。

 それをこの短時間で修復したという事実に、流石ブロード様が選んだ方だ、とソフィアは素直に感心した。


「今送りましたぁ」


 視界の端にメールマークが表示された。開く。


 何かの間違いかと、スクロールをし、落とし、再起動もさせた。

 だが送られてきたデータが変わることはなかった。


「……本当にこの方が、犯人、なのですか?」


 ソフィアは質問しながら、しかし、口はそれを拒んでいた。

 このまま電話を切って、何もなかったことにしたかった。

 だが、自らの中にいる監視の目がそれを邪魔した。

『義務』がソフィアの本心の邪魔をした。


「そうですよぉ。カメラにもばっちり映ってますからねぇ。灰色の髪のヒューマノイド。名前は、シックス、ですぅ」


 ニコのその声は、とても嬉しがっているように、ソフィアには聞こえた。


 ヒューマノイド研究所を爆破させた犯人がシックス。

 映画を一緒に観ようと誘ってきたヒューマノイドがシックス。

 初めて他人の前で泣いてしまった相手。

 優しくハンカチを渡してくれた相手。

 もう少し話していたい、もっと名前を呼んでほしい、あなたのことを知りたい、そう、願った――。


 その結果が。


 やはり、感情は、不要だ。


「知り合い、なんですかぁ?」

「いえ。知りません」


 ソフィアは『義務』に答えさせた。


「あとぉ、これは不確かな情報なんですがぁ」

「何でしょう」


 ソフィアは身構えた。もうこれ以上シックスの話など聞きたくない。


「バンビーナを連れ去った犯人がぁ、そこで暴れる予定みたいですよぉ」


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