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シガレッツブルーム  作者: 相木秋人
愛とバッジ
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リベリオe

『あなたに懐かしさを与えるテーマパーク、その名もノスタルジア。24時間365日浮かぶ夕日が、あなたの心を照らします。懐かしさというものがわからない? ノスタルジアはそれすらも覆します。身体に刻み込まれているその懐かしさは、あなたをノスタルジーの世界へと誘うことでしょう』


 ホログラムで映し出された巨大な広告を、リベリオは、列に並びながら眺めていた。


 クマミチから逃げ、夜通し歩き続けたリベリオ。

 ノスタルジアにようやく着いたと思ったところで、入り口には長蛇の列ができていた。


 リベリオは最初、この列がノスタルジアに入るためのものだとはわからなかった。

 辺りを見回してもそれらしき建造物が見当たらない。

 だがオメンタムのマップはリベリオがいる地点をさしていた。

 というより、マップ上では既に、リベリオはノスタルジアに入っていた。


 一体どういうことだと疑問に思っていると、老人型の男性ヒューマノイドが寄ってきて「ノスタルジアは地下にあります。ここが入り口なので並んでください」と案内してくれた。

 リベリオは教えてくれたことに感謝し、相手の目を見て、ありがとうございます、と言って列に並んだ。


 列の先頭はまだ見えない。

 広告が流れている最中にも、ホログラムの右上には現在2時間待ちと表示されている。


 我が物顔で照らす昼間の太陽がリベリオの体力を削る。

 顔から漏れ出た汗は、首を伝って作業着を濡らした。


 あと少しでシックスに会えるという希望を胸に、リベリオは疲労困憊の状態で待ち続ける。

 列に並ぶ人々は、リベリオとは対照的に、待ちきれないといった様子だ。


 周りの人々がどうしてそれほど楽しそうなのか、研究所以前の記憶がないリベリオには理解できなかった。




「私ここに来るの初めて!」


 リベリオの前に並ぶ若いカップルの女性が、はしゃいだ様子で口にした。リベリオは耳をそばだてる。


「そうなんだ。きっと楽しめるはずだよ」


 女性の隣に立つ、爽やかな雰囲気の男性が言った。


「どこ周ろうかなあ」

「俺は何回も来たことがあるから色々案内するよ」

「誰と?」


 女性の質問に、全く関係ないはずのリベリオでさえ身の毛がよだった。


「と、友達だよ」


 焦ったように答えた男性を、女性はじっと見つめた。

 男性が目を逸らす。

 女性は腕を組んだ。


「ま、良いけど。どこが一番おすすめ?」


 事情聴取から逃れられた男性は顔を綻ばせた。


「えっと、色々あるんだけどまずノスタルジアの説明から――」


 男性の話をリベリオは頭の中でまとめる。

 ノスタルジアは花火が打ちあがる噴水広場を中心に、東西南北それぞれ大きな道が1本通っている。

 その道には電車が走っていて、観光客は基本的にそれに乗ってノスタルジアを周るらしい。


「でもそれは初心者がすることで、俺くらいになるとレンタカーに乗るんだ」とも男性は得意げに話していた。今流行りの流線型の車ではなく、昔ながらの、地面を走行する四角い車が沢山あるそうだ。


 方角ごとにそれぞれ特徴があり、東が商店街エリア、西が海エリア、南が田園風景エリア、北が居住エリアと4分割されている。


 女性の「住んでる人なんているの?」との問いかけに「過去に縋りたくなる人もいるんだよ」と男性は物憂げな表情で答えていた。


「ーーそれで今並んでいる場所は南側の田園風景エリアの入り口。このエリアは景色を楽しむところだから、商店街エリアみたいに派手さはないんだ。でもやっぱり最初はここから入るのがおすすめかな。個人的には一番ノスタルジーを感じられる」


 ああそれと、と男性は付け加える。


「一押しはあそこかな」

「どこ?」

「占い老婆の館」

「占い老婆の館? マップにも載ってないみたいだけど」


 女性は空中で手を動かす。オメンタムを使っているのだろう。


「そう、マップにも載ってない穴場スポットなんだ。居住エリアの端にひっそりと建ってるんだけど。その占い老婆は、当てるんだ」

「何を?」

「過去を」


 ーー過去。


 女性はなんともいえない、といった表情をした。


「こういう時ってさ、当てるって言ったら未来じゃないの? 過去を当てられても別に嬉しくない」


 それに、と女性は続ける。


「私たちの過去なんてデータで管理されてるんだから、当てるも何もそれを見たらおしまいでしょ?」

「それは確かにそうなんだけど……」

「穴場スポットじゃなくて、ただ人気がないだけなんじゃない?」


 男性はしゅんとした。


 それを見た女性が「まあデータを覗き見るっていう技術はすごいのかもしれないけど」とよくわからないフォローをする。


 男性はまだ落ち込んだままだ。


 見かねた女性が「でも田園風景のなかを車で走るのは気持ちよさそう」と言うと、男性が「でしょ! まさにノスタルジアの醍醐味だよ!」と嬉しそうな顔をした。


「前にも来た時も車に乗ったの?」

「そうだよ! 暖かな風が田畑の香りを運んでくるんだ。空気はおいしいし、前に一緒に来た子なんて、この風でご飯を食べられるとか言ってて思わず笑っちゃったよ」


 リベリオが思わず目を背けた。


「前に一緒に来た子?」


「あっ」と男性は大きな声を出し「えっ、いや」と戸惑い「なんていうのかな、言葉の綾というか」と声を震わせながら誤魔化そうとした。


「帰ったら詳しく聞かせてね」


 女性の朗らかな声とは対照的に、男性の怯えた子犬のような声が、リベリオには印象的だった。



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