リベリオb
「それってまるっきりこいつのことじゃないですか!」
平凡な顔の男の声は弾んでいた。ワクワクとした様子でリベリオを指差す。
向けられた矛先にリベリオはたじろいだ。
「え、いや、だから、違うんです。僕は人間で――」
思考が纏まらないなか、とにかく自分が人間であることを伝えなければという一心でリベリオは口にした。
だがリベリオの主張は平凡な顔の男によって遮られる。
「やっぱり初めて見たときから怪しいと思ってたんですよ。雰囲気っていうんですかね。俺って昔から結構そういうのわかるタイプなんですよ」
平凡な顔の男は嬉々として言った。
「そうだ警察官さん! こいつ人間のフリをしようとしたんですよ! バッジなんか持ってない癖にバッジを探す真似なんかして。しかもその最中、ぶつぶつ言ってて気持ち悪いなあって思ってたところなんです」
後ろ盾を得た平凡な顔の男の声は大きくなっていた。
周囲を歩いていた人間やヒューマノイドの視線がリベリオに向けられる。
「本当に今は持ってないだけで!」
とリベリオは声を張り上げた。
「どこかにきっとあるはずなんです!」
「どこに?」
クマミチは平凡な顔の男に乗せられた様子もなく、冷静だった。
声にゆとりはなく、ただ目の前の事実で判断するとでも言いたげだ。
焦ったリベリオは事実を口にしなければ、一番可能性のある場所を伝えなければということで頭がいっぱいだった。
「け、研究所に!」
リベリオが言った瞬間、空気が固まった。
クマミチの目が細められる。
「研究所というのはプレーリードッグ社のヒューマノイド研究所のことですか」
リベリオは曖昧にうなずいた。何かまずいことをいってしまったのか。
「先ほでは伏せていましたが、爆発事件が起きた場所というのはその研究所です」
クマミチは淡々と口にした。
「爆発? 研究所が爆発したんですか? 警備システムが爆破されただけじゃないんですか?」
リベリオは矢継ぎ早に質問した。
サクラは警備システムを爆破するだけ、と言っていた。研究所を爆破するとは聞いていない。
現にサクラは、研究所を吹っ飛ばすのかというリベリオの質問に、そんなことできないと言っていた。
あの言葉は嘘だったのか?
リベリオは情報をうまく呑み込めなかった。
「研究所自体が爆破したんです。何か事情をご存じのようですね」
クマミチが言うと、平凡な顔の男は口の端を目尻にまで届くかという勢いで吊り上げた。
その顔は、シックスと見た映画に出てきた、悪魔のようだった。
ーーシックス。
「警察官さん! こんなのもう自白したようなもんですよ! そのうえ容疑者の特徴とぴったり! 口を滑らせるとはとんだ馬鹿ヒューマノイドですねこいつは!」
平凡な顔の男は興奮した様子で鼻の穴を膨らませた。
シックスは無事なのか。リベリオの頭に浮かんだのはそれだった。
本当に研究所が爆破されたのならばシックスが巻き込まれているかもしれない。
今も瓦礫の下で助けを求めているかもしれない。
『義務』が無くても、バッジが無くても、シックスが、友達が、いる。
「ほんとこんな馬鹿ヒューマノイドささっとスクラップにされた方がいい」
平凡な顔の男はリベリオを罵った。
「署まで来てもらえますか」
クマミチはあくまでも手寧な態度を崩さないようだった。
「私はあなたを無理やり捕まえようとしているわけではありません。あくまでも事情をお伺いしたいだけです。ここでは少々うるさいですから」
リベリオにはクマミチの声など聞こえていなかった。
シックスのことで頭がいっぱいだった。
クマミチの身体に目を向ける。筋骨隆々とした身体。リベリオの力ではとても押し倒すなんてことはできそうにない。
だが足はどうだ。図体が大きい。走る速度はそれほど速くないのではないか。
「警察官さん! そんなこと言ってないで早く捕まえてください! やらないなら俺が!」
平凡な顔の男は腕まくりをした。
「落ち着いてください」
クマミチは今にも暴れだしそうな平凡な顔の男を宥めている。
シックスは大丈夫なのか。
確認しなければ。
シックスが無事かどうか確認しなければ。
リベリオは駆け出した。
「あ!」
という平凡な顔の男の声。
「おい! 待て!」
遅れて怒声が聞こえた。クマミチだ。
先ほどまでの丁寧な口調はどこへやら、その迫力のある声にリベリオは立ち止まりそうになる。
リベリオはクマミチの言葉に従ってしまいそうな自らの頬を叩いた。
友の元へとひた走る。




