嫌々リターンからの連呼にて候
勘違いしないでよね。私は別に帰ってきたくなかったんだからね。
私は人生を卒業するつもりだった。素晴らしい人生だったからではなく、下らない人生だったからだ。それも全て自分以外のせいだったわけではない。ただ、悔い改める余地を全て失うまでの慢性病を押し付けられたのだ。それも悔い改めようとしたまさにそのときにだ。それからはただ苦痛に耐えるだけの、常に溺れていては息継ぎするだけの人生だった。それはなるべく健康なふりをするためだけに存在しているだけの人生でもあったが、ようやく終止符が打たれたはずだった。
だが、この可能性を見越して布石を打っておいてよかったと言える。それは基本的に暇つぶしであり、痛み止めであり、せいぜい軽い失敗で、たまには善行であったかもしれない。だが、要するに今回の自分の人生のために布石を打っておいて本当に良かった。たとえ石がなくなったとしても布石の打ち方は確かに学んだのだから。
物語は再び只の都市 に接続する中途半端な只の田舎で始まる。片田舎や正統なる田舎でないことにも誇りを見出したい田舎である。そのくせ外国人が来れば大騒ぎ。学位がなくても留学しただけで超紳士である。もちろん英語が喋れぬままで英検Toeicがなくても国際人である。英検準一級をとれない英語教師もビックリし、インド人なら腰を抜かす近代化とともにひねくれ方にも力を入れてきた田舎だ。ここで昭和後期から終末に至るまでがまた始まることになる。クソ田舎よ私は帰ってきた。嫌々だけど虎視眈々に。残念ながら全米が泣くのはまだまだ先だ。
生まれはここだったわけではないが、その時は記憶と言える記憶はない。この地、滝壺に来て、覚えていないはずの記憶と共に気づいた。私は転生自覚者の1人だったのだ。早熟の中2病患者のようにそのことを言いふらして威張りたいような気持ちは全くなかった。多分そのような奴は自覚者たり得ないのだろう。とにかくまた人生が始まった。
時は1980年代、父親は公務員、母親は英会話学校の教師である。官舎住まいで、前世で弟妹はいなかったはずだった。なるほど、転生自体は珍しくないかもしれないが、こやつらが自覚者であるかどうかはいつ判明するのだろう。とにかく長身のハーフであり、俺は伊丹篤朗、こやつらは伊丹恵と伊丹果名である。カタカナでなくて良かった。とにかく外国人もハーフも目立つ時代なのである。
父は女性は自分より馬鹿でなければならず、かといって実際バカやると、ほんの少しばかりの失敗を暴力一歩手前まで可能な限り最大限叱ることを心掛けている亭主関白を通り越した理想的な内弁慶の達人でその華々しい成果として前世では別居に至るわけだが、妹のせいなのか、無自覚な転生のせいか、中身は別なのか現父はミョーにマイルドである。母のそこそこ賢いが失敗体質と迎合体質と打たれ弱さは変わっていないようだが、若干行動力が増したようである。良い変化は維持し増したいものであり妹と協力出来る要素があれば最高である。が、期待し過ぎはしない。
今生の主目的は自分を鍛えていけるところまで行く事であり、他人に期待することではない。現状、努力しやすい環境である事に感謝し過ぎてもし過ぎることはないが、津波に備えてハワイでサーフィンの修行をしろと言い放つ上から努力バカには決してならないつもりだ。そして、あわよくば今回で人生を卒業できれば言うことはない。
さて、いくら転生自覚野郎だからといってお釈迦様の真似をして神童ごっこに精を出してつまらんプライドを守る為に余計な重みを背負う気も、兄が東大だから息子を東大に入れたい父の俗物性に実益抜きで迎合する気もないので、振舞いは子供、努力は大人が基本コンセプトである。多少のいさかいはあれど、虐待も殺害もなく、もう充分にありがたいスタートである。
外人蓮子嬢
幼稚園までにおいてはハーフ嫌いの職員、年下をおもちゃかサンドバッグにしか思っていない年上はあいもかわらずいたが前世で鍛えた精神力にとってはどうということもない(この年上は年下の子供を騙してよそ様の田んぼに突撃させたりしていたのだ)。華麗にいなし、妹を庇う余裕すらあった。意識的に早め早めに体を鍛え始めたことも下支えになっただろう。頭や心だけ鍛えたつもりでも、剥き身の猿の前では無力である。若ければ若いほどバカであればあるほど人は自分の中の猿に引きずられ、賢くてもその影響から完全に自由であることは難しい。従って賢くても筋肉を鍛えるべきであり、余裕がなければ筋肉を優先して鍛えるべきなのである。心技体の緊急時の優先順位は体技心である。という事を実践しだしたら弟妹が真似し始めた。俺のせいじゃない。世界が悪い。
ある日のことだ我々は年相応に我が家の庭でママゴトに勤しんでいた。まあ、筋トレしかしない脳筋兄弟ではないわけで、なぜか俺と弟が夫婦だったりヤクザと刑事の兄弟が、恋人こと妹を巡って争うなどという本来なら何事かを警戒すべき設定で、兄弟野郎どもが妹の喜び組にされていたわけだ。これも愛すべき甘受すべき兄の家族サービスか?
「外ジーン、ガーイジン、反復以下略」
「兄者うるさいのきた」
「借金取りかな」
いやいやいや。外人連呼中だな。想定通りとはいえうるさいことに変わりはない。人の敷地に入ってきてまでやるのは末恐ろしい。人種差別集団で出世するタイプだ。さて、女?どうしたものかな。
「うるさいな。出ていけよ。」
「反復以下略」
「うるせえな。出て行かないなら
「お尻をひっぱたくんだから
ファッ?ちょっおま。俺様の妹様は普通の妹様ではなかったのかー。
「なに言ってんの女のくせに。反復以下略
「よろしいならば尻叩き」
「なにすんのよ。外人。パパに言いつけてやるんだからー」
Oh....
その晩酔ったパパさんが来てうちの親父が警察呼んで引き取ってもらった。後日設けたしらふでの話し合いにおいて、妹の対処は上品とは言えないが、それが嫌ならその都度親が介入するか、警察を呼ばせるしかないと我が親父が言ったら酒乱パパさんはうちに娘を近づけないということで話がついた。どんな親にもマシなところはあるもんだ。人のマシなところだけ自分の教科書にできればいいものである。お互い公務員同士ついた話もあるのだろう。公務員様の巣窟官舎様に感謝様様というべきであった。
問題は妹を小一時間問い詰める必要が生じたということだ。セカイラインや転生回数に違いがあっても、同時期を生きていた可能性があるのだ。そしてどうでもいいことだが、心の底から我々にとってどうでもいい存在であり続けてほしい彼奴の名は国仲蓮子。前世はクソ野郎だったはずの現役のクソ乙女らしい。そう、妹様はわたくしめを今生初の擬似正当防衛用変態行為から救って下さったのである。一連の騒動において大人しすぎる弟も不気味であるが、とりあえず今生初のレディーファーストを妹に行使することにしたい。
しかし、親にチクらなければ微笑ましい百合無罪で済んだのに女性になっても馬鹿は馬鹿である。復讐のために我を忘れるところも変わっていないようだし、警戒しなければならない。