出会い③(キース視点)
前回︰離れる事を決意
連絡は最小限。
会談もなるべく早く切り上げるようにした。
呑みの誘いも予定があると言って断り続けた。
私達のお互いの呼称や、敬語がないのは既に知れ渡っていたから、それだけはそのまま、距離が戻っただけ。
「キース様。お食事のお時間です」
「いらない」
自分で決めたはずなのに、日を重ねる毎に心に暗い影を落とし続けた私は、遂に何も食べる気にもなれず、ベッドにうずくまっていた。
こんなに女々しかったとは。
というか、今までこんな感情を誰かに抱いた事がなかった。
俗に言う、これが初恋。
こんな気持ちになるなら、もう一生しない。
「……サリオン」
「呼んだか?」
「……っ!」
誰の気配もしなかったはずなのに。
独り言は拾われること無く、霧散するはずだったのに。
何故そんなに優しい声で受け止めるんだ。
「何で……気配しなかった……」
「俺を誰だと思ってる。こんなの朝飯前だ」
「どうやってここに?」
「普通に?火急の用があるからって通してもらった」
「……火急?何かあった?」
「あぁ、緊急事態だ」
「え!ごめん!連絡見逃していたかも!」
急いでベッドから飛び起きて、身支度する私の腕を掴んだサリオンは私をベッドに座らせた。
私を見つめる瞳は、今まで見た事がないもので思わず息が詰まる。
「緊急事態……」
「そうだ」
「……行かなきゃ」
「好きだ」
突然の脈略のない発言に固まる。
今、サリオンは何を言った……?
「お前が好きだ、キース」
「え……」
「何だ?お前は違うのか?俺と同じだと思ったんだけどなぁ」
「……」
「もう1回言うか?」
「ま、まって!!!!」
手首を掴んで、ぐいぐい距離を詰めてくるし、その見た事ない瞳で見つめてくるし、もう許容量を超えてしまう。
「なぁ、キース。お前はどうしたい?」
「なにが」
「魔法師団長としてのお前じゃなく、1人のキース・フリューゲルとしてお前はどうしたいんだ?」
「私は……」
「あ、それはなしな。私って言い方。それわざと言ってるだろ?」
「なんでそれを……」
「無意識だろうが、呑みの席で僕って言ってたからな」
無意識だった。
魔法師団長としての威厳を保つ為に、僕では弱そうに見えるだろうから、私と言う事にしていた。
それをサリオンの目の前では戻っていたなんて。
「何がお前をそんなに悩ませる?」
「……怖い」
「怖い?」
「この関係が変わるのも、君の気持ちが変わるのも、全部。こんな気持ちになるのは初めてなんだ。君と離れるって決めたのも僕なのに、このザマ……」
「じゃあ、結婚するか」
「は?」
「何驚いてんだよ。別に同性婚も認められてるだろ」
「いや、知ってるけど……え?」
さっきまで凄くしんみりしてたはずなのに、雰囲気が一気に壊れる。もし仮に僕がお茶飲んでたら吹き出してた。
「俺はお前と公私共に一緒にいたい。お前が好きだって気持ちは一生変わらない。俺だってこんな気持ちになるのは初めてだ。信じて欲しい。……それでもお前が不安なら結婚しよう。ただし、結婚したら後戻りできないからな?返品不可だ」
「サリオン……君って人は……」
月明かりに照らされたサリオンは、これまた見た事ない程に赤面していた。耳まで真っ赤だ。
出会った日もそうだった。
僕が躊躇した事を、サリオンは飛び越えてきてくれた。
君はそうやって、今回も飛び越えてきてくれるんだね。
「ずっと一緒にいたい……僕もサリオンが好きだ」
「おう」
「サリオンこそ返品不可だからね」
「任せとけ」
指先を優しく絡め、近づく視線。
目を閉じた後に感じた感触は、新しい関係の始まりを告げた。
◇◇◇◇◇◇
「で、今はこうして2人で一緒にいるんだ……って、ティア!?」
「よかったねぇ……パパ……ほんとによかったねぇ……ずびっ……」
そんな話を聞き終えた愛しい愛娘は、
顔をぐしゃぐしゃにしながら大号泣していた。
「父様もかっこよすぎるよ……父様ぐっじょぶ!!!!」
「だろ?」
「……っ!」
デジャブ。
「……どこから聞いてた?」
「さぁな」
これはきっと最初からだ。
……ダメだ。さっさと切り上げよう。
「ティア。そういうわけだから、ゆっくり考えてね」
「リィナ、後頼んだぞ」
「かしこまりました」
「サリオンはまだここにいてもいいんだよ?」
「ティアは寝る時間だ」
「はぁ……」
泣き止まないティアを残し、2人で廊下を歩く。
どちらも何も発する事なく、靴音だけが聞こえる。
突然するりと絡められた指先に思わずビクッとすると、
サリオンは立ち止まり、耳元に唇を寄せた。
「 」
「……っ!!!!!」
満足気にククッと笑ったサリオンは、指を解く事なく
また歩き始める。
――出会った時からオトすって決めてた。
いつもご覧頂き、ありがとうございます!
いかがだったでしょうか?
ティアにどうしたい?と聞いたキースも、
サリオンにどうしたい?と聞かれていました。
あんなに自信満々そうに言ってたサリオンも、内心はバクバクでした。
次話からは、またティアのターンです!
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