悩めるオタク
前回︰これ以上、近付いてはいけない
レイグルとの訓練に断りを入れた翌夜。
何となく部屋を出る気にもなれず、
1日ベッドにうずくまる私を訪ねてきたのは、パパだ。
一言だけ「入るよ」と告げて、何も言わない私の隣に腰掛ける。
本当に隣で寄り添うだけで何も言わない。
根負けした私は、そっとパパの腕に頭を預ける。
「どうしたの?いきなりやめたいなんて」
「もう私は必要ないかなって」
「本心?」
「……うん」
「そっか」
それ以上は何も言わず、私の頭をただ撫でてくれるだけ。
しばらく撫で回された後、私を片腕で優しく抱きしめる。
「ティアは前に言ったよね?自分には前世の記憶があって、この世界の物語を知っていて、僕たちが好きだと」
「うん」
「僕達は秘密の共有者だったね。あの後もティアはニホンという国にいた事、年齢は18歳で、名前はイオだったって教えてくれたね」
「うん」
「ティアと出会って2年以上が経った。今では僕達の可愛くて仕方がない自慢の娘だ。今の君を形作ってるのは、前世のイオ?それとも今世のセレスティア?どっちだろうね?」
「あ……」
少なくとも2年、私はこの国で暮らしてきた。
愛情深く素敵な環境で。
前世の伊緒で過ごした18年には到底及ばないけど、
今を生きているのはセレスティア・フリューゲルだ。
伊緒じゃない。
私はセレスティアとして生きていくと思っていたのに、
心のどこかでまだ伊緒に引っ張られていたのか。
オタクだからレイグルにこれ以上近付いてはいけないというのは、前世の私だ。
今の私はどうしたい?
セレスティア・フリューゲルとして、私はどうしたいのか。
パパにそう問われているようで、ハッとする。
「パパ、ありがとう。私まだ心のどこかで伊緒に引っ張られていたみたい。今の私はセレスティアなのにね」
「それでもいいんだよ。前世のイオを捨てる必要はないんだ。
君の前世の記憶や経験はきっと今世でも役に立つ。学んだ事は何年経とうが、どこにいようが無駄にはならない。でも今の気持ちや行動を決めるのはセレスティア自身だ。
それだけは覚えておいて」
「うん、ありがとう」
「ゆっくり考えて。レイグルにはうまく言っておくから」
そう言って微笑むパパは、ゲームとは違った父の目をしていた。
今の私は、もちろん推しとしても好きだけど、
それ以上に親として大好きなんだとやっと気付く。
「でも懐かしいな。ティアの部屋は昔、僕の部屋だったんだ」
「そうなの?」
「僕もね、サリオンと出会ってから、この部屋で今のティアと同じように思い悩んだ。今のティアみたいにベッドにうずくまってね」
そういえば、ゲームにも出てこなかった2人の馴れ初め。
どんなものなのか聞いてみてもいいのかな?
「2人はどうやって今の形になったの?」
「ふふ。これはサリオンが恥ずかしいからって誰にも話していないんだ。だから、今から聞く話は内緒にしてね?」
そう言ったパパは、私にも見せる事がない自分の最愛を思う表情をしていた。
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次話は、キースとサリオンの馴れ初めになります。
ずっと書こうと思っていた話です。
BL要素は極弱めなので、すんなり読んで頂けると思います。
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