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勘違い猫の呪いを受けたお人好し青年と、彼を一筋に慕う少女のお話  作者: 悠木 源基


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第二十一章

 マーナと共に大通りを歩いていたコーゼンは、ある建物の前で一瞬足を止めた。それはこの街で一番大きな建物で、ユーゼルの勤める商会のものだった。

 

 コーゼンとユーゼルは一卵性の双子だったので、容姿だけではなくほとんどの能力において大差なく、二人ともとても優秀な人間だった。

 しかし、上昇志向と要領の良さと人付き合いの上手さにおいては、二人には雲泥の差があった。

 

 ユーゼルはまだ二十代半ばだというのに、美容関係の大手商会において、大きなプロジェクトチームのリーダーを任される程優秀だった。その上元々整った容姿に社交的な性格のため、上の者からは可愛がられ、下の者からは憧れられる存在だった。

 

 そんな彼が商会長に目をかけられるようになったのも、当然と言えば当然の結果だっただろう。

 そして二ヶ月程前にユーゼルは、その商会長の一人娘と婚約したのだった。それはすなわち、将来の商会の後継者に選ばれた事を意味する事だった。

 

 ところが、つい先日、ユーゼルの華麗なる女性遍歴が婚約者及び彼女の家族の知るところとなり、婚約者に顔を叩かれ、引っ掻かれ、大喧嘩をした挙げ句に破談にされた。

 

 実は、マーナの祖母であるママが倒れたあの日、彼女が最後に占っていた紳士というのが、ユーゼルの勤める商会の会長だった。会長はあの時ちょうど、婚約したばかりの娘の将来を占ってもらっていたところだったのだ。

 

 結局占いは途中で中断されてしまったわけだが、彼にとってはそれでも十分な結果を得られただろう。

 見も知らぬ若い酔っぱらい女性によって、娘の婚約者の裏の顔というか、本性を知る事が出来たのだから。

 

 本来ならばユーゼルは商会にも居られなくなるところだろう。しかし、喧嘩の原因はともかく、彼女の暴力によって顔に酷い傷を負った事で、ユーゼルは婚約破棄になっても商会を辞めさせられる事にはならなかった。

 もっとも、それが彼にとって良かった事なのかどうかはわからない。会長に睨まれてしまった以上、商会に居辛くなってしまったし、もう出世の見込みもないのだから。その上、もし美容に関わるビジネスを続けるのであれば、あの傷跡が顔に残ったままでは仕事がしにくくなるの事は想像に難くない。

 

 今回の件について、コーゼンは弟に対してまだ何も言ってはいない。もちろん相談されれば真摯に応じてやるつもりだ。しかし、ユーゼルほまだ混乱していて、一人で悶々としている。

 ただ、コーゼンのアパートにやって来ては、何か聞きたそうにしている事には気付いていた。

 そう、コーゼンの頰の傷跡がどうやって消えたのかを知りたいのだ。

 

 しかし、今はまだそれを教えるつもりはない。弟はこの機会に自分を省みる必要がある。それは天から与えられたやり直しのチャンスなのだから。

 

「ふうっ!」

 

 一つ大きなため息をつき、コーゼンはマーナの後を追ってまた歩き出した。

 

 

 ママの入院している病院に着くと、やはり面会時間にはまだ間があった。コーゼンは待合室で何度も何度も、頭の中でマーナとの交際を認めてもらうための台詞をシュミレーションした。もう私が前もって話してあるから大丈夫だと、マーナは言ったが。 

 

 そうこうしているうちに、ようやく面会時間になり、コーゼンは大きく深呼吸をしてから、三階にある彼女の病室へと向かった。

 

 マーナの祖母は南向きの窓から外を見ていた。まずマーナが祖母の傍に近づいて、コーゼンの来訪を伝えた。するとママがコーゼンの方に顔を向けた。

 

 コーゼンは二週間ぶりにママの顔を見て絶句した。確かにさっきマーナが言っていた通り、ママはまるで別人のようになっていた。

 

 背中にクッションを置いて体を起こしていたママの姿は、かつての魔女ではなく、まるで絵画に描かれたような、それはそれは美しくて上品な老婦人だった。

 

「ママさん?」

 

 疑問形でコーゼンはようやくこう呼びかけた。何度も復唱してきた見舞いの言葉は、どこか遠くへ吹っ飛んでいた。

 

「コーゼン卿、わざわざお見舞いに来て下さってありがとうございます。そして、この度は大変お世話になりました」

 

 いつになく丁寧な話し方ではあっが、その声は間違いなくママの掠れ声だった。

 ママはマーナの手を借りてベッドから降りようとしたので、コーゼンは慌ててそれを止めた。すると、体の向きだけ変えて、床に両足を下ろし、両手を膝辺りに置いた。そしてコーゼンに深々と頭を下げた。

 

「長い間、本当に貴方には酷い事をしてきました。今更謝って済む事ではありませんが、心からお詫び申し上げます」

 

 コーゼンは慌てて彼女を制した。

 

「俺はママに謝られるよう事はされていませんよ。止めて下さい」

 

 しかし彼女は大きく首を横に振った。

 

「いいえ。私達は大きな誤解と思い込み、そして自己保身の為に、長い事理不尽に貴方を憎み、恨み、呪ってきたのです。

 貴方がずっと苦しんできた顔の傷や運の悪さも、みんな()()のせいなのです。

 しかも、貴方がマーナの命の恩人たった事も知らず、失礼な態度を取り続けてきました。本当に私は恩知らずの人でなしです」

 

「私達?」

 

 ママの言っている意味は全く理解出来なかったが、複数形だった事が気になった。

 

「ああ、誤解しないで下さいね。私達というのは私と、私の飼い猫『()()()()()()』の事で、マーナには全く関係のない事ですから」

 

 それから彼女はコーゼンとマーナに、自分と彼女の飼い猫『シュッタヘル』の話を始めた。

 

 

読んで下さってありがとうございました!

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