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勘違い猫の呪いを受けたお人好し青年と、彼を一筋に慕う少女のお話  作者: 悠木 源基


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第十三章

 それにしても・・・

 キャサリンの話を聞いて、コーゼンは弟ユーゼルの事を思い浮かべた。

 

 弟が誰と付き合って別れようと、それは当時者同士の問題だから一向に構わない。自分の事を話のネタにするのも今更だ。

 しかし、公衆の面前で他人の悪口や失敗談などを話題にするのは止めて欲しい、そうコーゼンは思った。

 確かにそんな下世話な話を好む輩(やから)もいるだろうし、実際その場だけは盛り上がるかも知れない。しかし、嫌な気分になる人も少なからずいる筈だ。そんな人達に対する配慮もして欲しい。

 弟には人の上に立ちたいという野心がある。それならば尚更・・・

 

 

「そもそもあんたが全部悪いのよ、コーゼン=スギータ!

 あんたがお人好し過ぎるから、私はユーゼルに乗り換えちゃったのよ。あんな奴に乗り変えなきゃ、こんな惨めな思いをしなくても済んだのに・・・」

 

 あまりにも自分勝手で恥知らずなキャサリンの発言にコーゼンは絶句した。

 

「いくら美人で仕事が出来ても、家がただの庶民で後ろ盾がないんじゃ駄目なんですって。

 多少不細工で仕事が出来なくても、金持ちの商会長の一人娘の方がお得なんですって」

 

 キャサリンが大声でこう叫ぶと、店内は一瞬シーンとなった。そしてその後ざわめきが一層大きくなった。

 コーゼンは周りの人達に平謝りしながら、さすがにキャサリンに向かって声を荒らげた。

 

「いい加減にしろよ。他のお客に迷惑だろう」

 

 しかし効果は無かった。

 

「なによう。本当にあんたがお人好しだから悪いんじゃない。

 大体あんたの人生にケチをつけたその顔の傷だって、元々はあの弟のせいだったんでしょ。それなのに、弟に文句一つ言わないなんて、絶対に変よ。おかしい……

 弟に一度ギャフンと言わせてやりなさいよ!」

 

 キャサリンは今度は椅子に座ったまま、空のワインのボトルを振り回しながら喚いた。

 彼女の話を聞いたマーナが顔色を変えて彼女の傍に近づこうとしたので、コーゼンは慌てて立ち上がってそれを制した。

 

「危ないよ、マーナちゃん、離れて!」

 

 すると今度はママまでキャサリンに近寄ると、彼女からボトルを取り上げた。

 ママの怒りが爆発するぞ! コーゼンは身構えた。ママは酔っぱらいには容赦ない。酒で理性を無くすような輩は怒鳴られ罵られた後、即追い出され、その後出禁となるのが通常なのだ。

 

 ママはキャサリンの両肩を上から掴んで抑え込んだ。そして彼女を激しく揺さぶりながらこう叫んだ。

 

「この男のこの傷が弟のせいだとは、一体どういう事だい? 私にわかるように説明しておくれ!」

 

 魔女、いや鬼のようた恐ろしいママの形相に、キャサリンもさすがに驚いて、少し真面目な顔を作った。そして呂律(ろれつ)が回らない口でこう説明した。

 

 

 ✽ ✽ ✽ ✽ ✽ ✽ ✽

 

 

 コーゼンの左頰の傷は彼がまだ幼かった頃、井戸の中に落ちていた猫を引き上げた時、その助けた猫に爪で引っ掻かれて出来たものだ。

 しかし、そもそもその猫を井戸の中へ投げ込んだのは、コーゼンではなく彼の弟のユーゼルだった。コーゼンは弟のした事を知って慌てて助けに行き、とばっちりを受けたのだった。

 しかもその傷からばい菌が入って死にかけ、一命を取り留めた後も、その傷跡が残り、何度手術で消してもまた戻ってしまった。

 その傷跡のせいで呪いだの悪霊だのと忌み嫌われ、コーゼンはずっと辛い思いをしてきた。ずっと理不尽な扱いを受けてきたのだ。

 

「世の中おかしくないですかぁ。好き勝手ばかりしている弟は、順調どころか輝かしい未来を手に入れようとしておるのに。

 納得出来ない! 腹の虫がおさまらない!」

 

 キャサリンは右の手をヨロヨロと突上げ、雄叫びを上げた。自分のした事はすっかり棚に上げて。

 

「ま・ち・が・え・た・・・」

 

 小さな呟きとともに、ママはズルズルと崩れ落ちた。そして『猫の目』の店の中にはマーナの悲鳴が響き渡った。

 

 

 ✽ ✽ ✽ ✽ ✽ ✽ ✽

 

 

「本当に俺が見舞いに行ってもいいのかな?」

 

 カフェ『猫の目』のママが倒れてから二週間程経った土曜日の朝。

 コーゼンはクローズの看板が下がったカフェ『猫の目』の前でマーナと待ち合わせをした。

 これから一緒にママの見舞いに行く事になっていたのだが、往生際が悪く、まだ迷いがあった。嫌われている自分が本当に行ってもよいのだろうかと。また興奮して具合が悪くなったら大変である。

 

 ママが倒れたあの夜は、濃い霧の為に馬車を使えなかった。そこでコーゼンがママを背負って、マーナと共に病院へ向かった。

 そして震えているマーナの傍に一晩中寄り添った。子供の頃に両親を亡くしたマーナにとって、ママはたった一人の身内である。どんなにマーナが心細いか、不安か……それを思うと、コーゼンは彼女が可哀想で仕方がなかった。

読んで下さってありがとうございました!

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