真実の愛を探求する者 Be Look
2話に続いてバカップルがバカなことをしています。
こんなくんずほぐれずのバカを見ていたら、きっと頭がおかしくなるでしょうね。
頭のおかしいバカップルは創作上の生物だけで十分だと作者は思います。
新しい朝がやってきた。
希望の朝だ。
ベッドを飛び出して待ち受けにした彼女の写真にキスをする。
ウェディングドレス姿の花嫁は世界で一番美しい。今まで沢山、彼女の姿をカメラに収めてきた。昨日の花嫁姿が輝いて見えるのは、その心の内に自分の存在がいたからに違いない。
一番大きく引き伸ばし、目覚めと共に飛び込むよう天井に張り付けたポスターは中学入学時のもの。あまり表情を表に出さない彼女のほがらかな笑顔は彼の心をいつも明るくしてくれる。
壁には時間軸順に彼女の成長が切り取られていた。生まれたての赤子の頃から今日に至るまでの経過の断面が映画のフィルムのように記録されている。
愛しい人の轍を辿るように敷き詰められたここはまさに愛の博物館。
どの時代のどんな表情も愛おしい。時間を追うごとにその魅力が増していくのを感じている。
生まれたて、病院で撮影された一枚。
はいはいができた記念写真。
家族で実家に帰省して、祖父母に抱きかかえられている笑顔の表情。
一年生になり、不安と希望で胸いっぱいになっている晴れやかな振舞い。
合唱コンクールで一番になった時の思い出。
何度見ても飽きない彼女の歴史が無限に広がる未来の希望を予感させていた。
机の上の写真立ては主に夏祭りや海水浴などのイベント時に撮った写真が飾られていた。西暦ごとにきっちりと並べられたそれは彼女が6歳の頃のものから始まり、今年の初詣まで鎮座ましましている。
年々着るものに変化があって、その時々の彼女の変化がみてとれる。幼い頃は親に与えられた服やアクセサリーを身に着けていた。自分で物事の判断がつく年ごろになってからは個性が現れ始める。
小学生時代には人気の女児向け番組に影響されて、年相応の女の子っぽいものが増えていく。小学生高学年になるにつれておしゃれを意識したものを身に着けるようになった。中学生からは質素でエスニックな小物に移り変わる。彼女の思考の変遷。当時の記憶を呼び起こしながら見ていれば飽きるはずもない。
そしてここに、記念すべきウェディングドレス姿の写真を置こう。いや、これはもう壁一面に、いやいや、掛布団にプリントするほかあるまい。そうすればいつでも彼女のプリティーでスイートな姿を抱きしめることができる。
よしそうしよう。次の休みは忙しくなりそうだ。
そんな計画を企てながら、愛の強すぎる男は満面の笑みのまま愛しい人の待つ桜並木を目指した。
今日の彼女は黒を基調にしたゴシックロリータ風の衣装。
赤いフリルのついたドレス、ハートのアクセントがついたチョーカー、長い髪を巻髪にして一本に結んだポニーテール。可愛いの権化。正義はそう褒めたたえて抱き寄せた。
彼にとっては愛する者がどんな服を着ていても、全てが可愛く見えている。ゆるふわ系だろうとボーイッシュ系だろうと、未来的宇宙人系だろうと、色眼鏡で補正の入った彼の脳にはあまねく可愛く見えていた。盲目がゆえに、彼の網膜には薔薇が咲き乱れている。
羨望と嫉妬の眼差しを受け、お姫様抱っこのまま教室に入ると昨日同様、黄色い歓声が木霊した。周囲の理解ある人間にも恵まれ、まさに彼らの青春は順風満帆。普段は気にも留めないモブキャラ共すら愛おしいと感じるほどに燃え盛っている。
「やぁおはよう。今日もお熱いようで素敵だね。自己紹介がまだだったよね。私の名前は求道 真愛実。真実の愛を探求する者だ。よろしくね」
「我が名はクロシェット・ブルタール。良きに計らえっ」
「あっはっは。クロちゃんは面白い人なんだね。でさ、正義君の」
「ザ・ジャスティスだっ」
「えぇ~、言いづら~い。正義でいいや。正義の隣の席がいいんでしょ。私の席で良かったら交換しない? 私は後ろで、二人の愛の波動の余波を受けていたいんだよね。ついでに二人が四六時中、イチャラブしている姿を見ていたい」
「いいのかッ!? 深く感謝するぞ、真実の愛を探求する者よ!」
「真愛実でいいよ。二つ名は長いからね」
「ちょっと待てぇ~いっ!」
色々とツッコミを入れるよりも先に変貌した旧友が声を上げた。
席替えをするなら俺の希望も通して欲しいと噛みつく。曰く、正義の隣にはこの天を割き闇を喰らう者たる・天津禍神こそが相応しい。とのこと。
すると何言ってんだって顔をして、道着少女は某愛と暴力が支配する世紀末の獄長のような仕草をした。
「はぁ~? 聞こえんなぁ~~~~~~」
綺麗な容姿をしている女の子がこんな悪い顔をしたら、マゾ男はさぞ興奮するだろう。
マゾ男ではない臥土はその圧に屈しまいと反論しようとする。しようとするもこのやり取りを見ていた女生徒が群れを成して集まり、新婚さんの仲を裂こうとするなんて最低だとか、馬に蹴られて百回死ねとか、とてつもないメンタル攻撃を仕掛けられてボコボコにされた小さな龍は半べそをかいて失神してしまった。
感情的かつ攻撃的な女の集団ほど怖いものはない。誰もがそう再確認し、その場にいる全ての男子は神の名を自称する男を助けなかった。それが世渡りのコツ。当然の理。実際、味方する理由もない。
それにしても求道真愛実。和風少女とでもいうべきか。本当に道着がよく似合う。後ろでにくくった細い黒髪ポニーテール、漆黒の瞳、ぴんと張った背筋、まさに大和撫子を地で行く美少女。彼女は中学の頃から弓道を始め、このヴァルハラ学園でも続けるらしく、放課後は熱心に部活動に励むことを誓っていた。
それにしても……凛として綺麗な女性と思った後、男子はそんな言葉を心に抱いて彼女の胸を見てしまう。大きいのだ。何を食べたらそんなに大きくなるのか知りたくなるほどにスタイル抜群。サバサバとした姉御肌的な性格。文武両道。アニオタ。いったい今までどれほどの人間の心を癒してきたのかと想像させられる美しさは高嶺の花。
しかもその花は見ているだけで脳を蕩けさせてしまいそうになるほど怪しい色香を放っている。それは例に漏れず胸にあった。
弓道は運動部というくくりではあるものの、激しい動きなどはないために装備品は身軽な物が選ばれる傾向にある。モノにもよるが弓道着は薄手の生地が多く、下着が透けて見えてしまう。
一般的には透けて見える下着は厚手のものか、そうでないならシャツを着ている。
しかし彼女の場合、透けて見えているのは素肌とブラジャー。
着エロを公共の場で披露する彼女は他人の目を気にしない性格なのか。
はたまた狙ってやっているのか。
どっちにしろ男子生徒にとって、彼女はとてつもなくありがた~い存在なのだ。
嫁を目の前にして闇龗正義。
所詮はオス。
谷間の誘惑に勝てるはずもなく、本能的に覗き込んでしまう。
すかさず嫁。可愛い嫉妬心が炸裂した。
「我が厳かな胸を見ろーッ!」
銀河を乱舞する妖精が如く深い谷間を遮るように前へ出て胸を反る。
それはゆっくりと弧を描く芸術。掌を当てるとすっかり収まってしまうそれは、数多の彫刻家たちが描いた理想の形に相違ない。
美しい。
彼は感嘆のため息をついて見下ろした。
そしてその後ろで、恥ずかしげもなく初々しいやりとりをしている二人を見て、求道真愛実はうっとりと蕩けている。
これが真実の愛。相互に思い合い、愛を語らう姿。
愛し合う男女の語らいを眺め、彼女はこれこそが真実の愛だと確信した。
同時にこの愛を『なんとしても手に入れたい』と羨望する。
真実の愛を探求する者故に…………ッ!
天妻に続き恒常キャラの登場です。
求道真愛実と書いてくどうまなみと読ませているわけですが、なかなかどうして良い字面だと自画自賛しています。しかしむりくそですね。
名前を考えるにあたってそのキャラクターの性格や属性に依ったものにしているので考えていて楽しいです。