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ふり~だむ・はいすく~る  作者: 星火燎原
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入学式 Re:Start

近年は厨二病キャラは脇役ではなく、主人公として、そしてトラブルメーカーとして脚光を浴びています。表出した非日常性は過去のトラウマから逃れる、あるいは立ち向かうためのものであるという流れが主流だと思います。多分。


まぁとにかく、ハイテンションなキャラが織りなす面白可笑しい学園ラブコメを書いてみたかったんですよ。作者的には個性的なキャラクターに巻き込まれたり巻き込んだり、ぶん投げたり投げつけられたり、勢い任せで描写したキャラクターって破壊力があって面白いんじゃないかって思うんです。

この作品はそんな感じでノリと勢いでやっていきます。

少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 いつも見る部屋の天井を見上げ、少年はタイピングにいそしんでいた。

 外を出歩けば夜桜がライトアップされた桜並木がある。

 空は晴天。空気も澄み切って都会とは思えないほどに星々も輝いていた。

 それなのにスマホをじっと眺めているようでは、情緒のない現代っ子と呼ばれても仕方がない。だけど彼にとって、液晶の向こう側にいる相手と言葉を交わし合うことは、舞い散る桜の花びらよりも、瞬く天を仰ぐよりも甘美な瞬間なのだ。


 だというのに、少年の顔はいまいち芳しくない。

 明日から始まる高校生活に不安を抱いているのか。

 かつて負った事故の後遺症に悩んでいるのか。

 はたまた両親が海外出張で一人暮らしが始まると思ったのに、年の離れた姉が同居することになってがっかりしているのか。


 否。

 仮にそれらに不安を抱いていたとしても、今の彼には些末に思える理由がある。

 恋心を抱いている幼馴染と同じ学校に通う少年にとって、未来は明るく、幸福な将来が約束されているようなものなのだ。だからこそ、この幸福を守るために、闇龗(くらおかみ)正義(まさよし)はついに彼女に愛の告白をすると決意している。


 桜舞い散る愛を約束された春風の中で、正義は愛を告げる。


 予定だったのだが、数日前に起きた交通事故に巻き込まれ、想い相手は入院。幸い後遺症もなく順調に回復に向かっている。幸中の不幸というべきか、入学式初日には参加できなかった。

 仕方がないと諦めて、告白は彼女の体調が元に戻ったらということになる。

 事故を起こしたやつをぶっ殺してやりたい気持ちに襲われるも、彼女が無事だったことを喜ぼうと努めていた彼は辛抱強い。

 夜10時。おやすみなさい、の言葉を送って眠りについた。




 神立(しりつ)ヴァルハラ学園。

 なんだかエロゲーとか恋愛系のゲームの中に出てきそうな名前の学校がこれから高校生活を謳歌する楽園。学習指導要領を超えた自由な教育が良くも悪くも有名で、個性的な校風が生徒の支持を得ている。


 どれくらい自由なのか。

 まず入学試験がなかった。定員オーバーをした時はクジで入学者を決めているらしい。

 テストなし。

 宿題なし。

 昼休憩のあとはお昼寝タイム。

 恋愛推奨。

 バイト推奨。

 遅刻自由。

 早退自由。

 服装自由。

 などなど、脳動脈瘤を大切にしている教育者が見たらクモ膜下出血を起こして卒倒しそうなほどに自由奔放。過去に培われてきた聖域に反逆する悪鬼羅刹の所業である。


 入学式が始まるまでは半信半疑だった。

 しかし学園長の一発目の挨拶が放たれた瞬間、とりあえずこの学園は普通ではないと思わされた。

 学園長と紹介されて身長120cmほどの幼女が登壇しただけで空気がざわめいたというのに、この子ったら神をも恐れぬ一言を恥ずかし気もなくマイクに叩きつける。


「私が神だッ!」


 今なんてった?

 疑問符が呼び起こされると同時に喝采とブーイングの嵐。

 相反する二つのストレスにさらされた少年は、乾いた拍手をすることで、静かに朱に溶け込むことを選んだ。他人との摩擦を生まず、ぬるぬると人生を歩み、君子危うきに近寄らないライフスタイル。それが彼の処世術。その中で意中の人と一緒に寄り添って暮らす。

 それが彼の至上命題。

 それ以上の幸せなど望まない。

 いざこざに巻き込まれるだなんてもってのほか。

 だから闇龗正義は周囲の人がどんな人だろうと動じず、己を貫くのみと決心していた。


 していたのだが…………。


 同じ釜の飯を食うと思しきクラスメイト達の様子がおかしい。

 いや様子がおかしいというよりは、様相がおかしい。

 随分とカラフルな髪色をしている人が多い。黒髪は当然として、金髪はまぁ留学生というのなら問題ない。銀髪に赤髪も……百歩譲ってよかろう。しかし緑とか青とか紫とか、複数の色をした髪を持つ者までいるとは何事か。地毛なのか、ウィッグなのか。一発で生活指導に引っ掛かりそうな人たちばかり。

 極めつけは眼帯。眼帯使用率が6割を超えているんだけど、みんな目にまつわる病気にでもかかったのだろうか。感染症でも流行っていただろうか。もし重篤な病気だったら悪いので話題には出さないでおこう。ということにして眼帯少数派の君子(チキン)は重箱の隅を放置した。


 厨二病アイテムとして漫画やアニメで大活躍の眼帯。

 個性出しにしても痛々しすぎるそれがこれほど多くの人間に愛用されているとなると、さりとて逆に自分が流行に後れているのではないかと疑ってしまう。当然、流行っていたとしても自称常識人の正義はそんなものをつけたりはしない。事故に遭ってお医者さんに装着するように言われるぐらいしなければ、そんな物を好き好んで装備しない。


 さて、笑撃ロリババア学園長の演説が終わって各々に割り振られた箱に収まる。

 クラス人員は全部で24人。中学は4クラス30人前後がデフォルトだったから、教室が随分と広く感じる。ということは大好きな幼馴染と隣同士となっても少し距離があく。いやいや、物理的な距離なんて問題じゃない。大事なのは心の距離だ。


 と虚勢を張ってはみるものの、やはり寂しいものは寂しい。

 早く会いたい。

 合って抱きしめたい。

 愛を告白したいッ!

 彼の頭の中は愛しい天使への想いでいっぱいいっぱい

 ちょっと変わったアイテムをしている人が何人いようがどうでもよいのだ。


「おぉ、我が前世から盟友よ。今宵、再び出会いたもうたのは我が神・禍津日神(まがつあまつち)の導きよのう」


 天然物の金髪ハーフバック眼帯厨二キザ野郎が現れた。

 こんな馴れ馴れしくてムカつくしゃべり方をするヤツ、前世どころか現世ですら面識がねぇ覚えがねぇ。無理をして体をのけぞらせてポーズをとっているけれど、姿勢がきつくてお腹をピクピク痙攣させている。ドン引きです。できればあまり関わり合いたくない眼帯族から声をかけられてしまった。

 とはいえ応えぬわけにはいかない。これから3年の間は彼らとともに蟲毒の中を生き抜かねばならぬのだから。


 頭の上にハテナマークを浮かべている正義の記憶に金髪眼帯(笑)キザ野郎の姿はない。

 なんども首をゆすってみるがリンゴは落ちてこない。

 誰だこいつ。できれば関わり合いなりたくねぇ。

 そればかりが思考を支配していた。


「クックックッ…………まぁ分からぬのも無理はない。天を割き闇を喰らう者・天津禍神(あまつまがつち)へと覚醒したこの俺は、以前の天妻臥土(あまつまふしと)ではないのだからなッ!」


「――――――ふっしーッ!?」


「ふっしー言っちゃダメっ! 今の俺は天を割き闇を喰らう者・あまt」


「お~い、お前ら席につけ。これから自己紹介をしてからレクリエーションの説明するぞ。早く家に帰りたかったら…………私に従えッ!」


 ナイスなタイミングで現れた担任教師。スーツ姿の黒髪ストレートの20代女性ははきはきとした口調と、某名作アニメの銘台詞をもじり、ポーズまでバッチリと決めて壇上へ上がる。これが最近の人心掌握術。常識人にはとても信じられないが、若い女教師の言葉通りに動くクラスメイトを見ると、少なからず受けは良いようだ。

 正義も例に漏れず席に座り、嵐が去ったことを喜んでいた。

 ただ、問題が一つなくなると、また問題が沸き上がってくるというような事態に冷や汗を流している。

 教鞭を振るい仁王立ちしている彼女こそ、誰あろう闇龗正義の姉、闇龗刹那(くらおかみせつな)


 今年から市内の小学校からヴァルハラ学園に移籍するとは聞いていたが、まさか弟の担任になるとは思ってもみなかった肉親。暗雲立ち込める高校生活を予感する。

 アニメオタクな変人の弟だなんて評判がたったら自分の立ち場が悪くなるは必定。彼が姉と同じくらい堂々とぶっ飛んだ性格をしていれば、面白いキャラとして受け入れる可能性もあったかもしれない。かもしれないが、弟はそこまでおっぴろげに己の趣味を披露するような破天荒な性格をしていない。

 保守的な男はこれ以上、姉が暴走しないことを心の底から祈っていた。


 祈りが呪いに変わるが如く、憑りつかれたようにブツブツとざわめく男の意識だけが異世界転移していたために誰の自己紹介も耳に入っていなかった。

 ただ一つ、切に願うは自分と幼馴染との楽しい学園生活。

 ただそれだけを望んで鉄仮面は帰路へつく。




 茫然自失のまま自室に戻り、ベッドに仰向けになって深呼吸をする。

 今日の出来事を反芻して今後の立ち居振る舞いを考えていた。

 制服を着た怪物とスーツを着た変人の群れにどう馴染むか。自分はいい。しかし引っ込み思案で人見知りで超絶可愛くて何を置いても守りたい幼馴染が、あの外道魔道の巣窟でまともにやっていけるビジョンが思いつかない。

 さいあくの場合は彼女の性格に合う学校に一緒に転校するか。

 さもなくばクラス全員を洗脳するか。

 鈴子は学校生活を楽しみにしている。中学の頃はあまり友達を作れなかったから、高校生になったらいっぱい友達を作って、楽しい学園生活を送りたいという彼女のささやかな願いを叶えなければならない。

 天井に張り付けたA0サイズの想い人のポスターを仰いで決意を新たに確かめた。

 天井だけではない。壁に、机の上の額に、待ち受けに、ありとあらゆる場所に可愛い可愛い幼馴染の姿を投影している。本当は家に招いて、いっそ同棲したい。姉がいなければそれも叶ったかもしれないのに…………。


 怨念を振り切ろうとして、ちょうど怨念そのものが玄関の扉を開いて闊歩している。

 まずは教師からだ。己が楽園を守護するために、まずはハイテンション暴走教師に釘を刺しておかねばなるまいと、自然な流れで会話を始めた。


「姉さん、お疲れ様。まさか俺の担任が姉さんだなんて思わなかったよ」


「おう、私と正義の行動特性は似てるから、多分こうなるだろうなとは思ってたよ」


「行動特性?」


 曰く、この世には4種類の人間がいて、それぞれ青、緑、黄、赤の性格を持っていると仮説づけられている。その中で正義のクラスは第一優勢が黄色の行動特性を持つ人間で構成されていた。

 黄色の特徴としては、革新的、チャレンジ精神旺盛、問題を見るとゴールが見える(経験量に依る)、飽き性、会話が飛ぶ、衝動的などなど。語尾に『~みたいな』『~感じ』と付けるのも黄色に多い傾向にあるという。


 通常であれば学力別に振り分けられる場合が多いが、ヴァルハラ学園で(行動特性)によってクラス分けがされている。

 理由は単純明快、人間が派閥的になりやすいから。逆にいうと、固定された閉鎖空間において少数のグループができにくいようにするための対策である。

 その上で、聖徳太子が仰ったありがた~いお言葉を実践するように相互理解を心掛けるようにと言われていた。


 ちないに聖徳太子のありがた~いお言葉とはかの有名な、『和を以て貴しとなす』というもの。意味としては、人は派閥的になりやすいから、お互いが違う存在であるということを認めたうえで受け入れ仲良くしていきましょう。といった具合。

 学力優先の教育の現場に反した考え方かもしれないが、なかなかどうして合理的。

 あらかじめ類友を集めておいて、対人関係でストレスを軽減できれば心の余裕も生まれる。無用な争いや相互不理解が起きにくくなればいじめも減るかもしれないという試みだ。


「てゆーか、入学式の後に集まって説明したけど、聞いてなかったでしょ。ぬぼーっとして。おおかた鈴子ちゃんのことしか頭になかったんじゃない?」


「当たり前じゃん。俺は鈴子のことが宇宙一大事だから」


「それはいいけど、自由な環境とはいえ集団生活が前提なんだから、変ないざこざを起こさないでよ?」


「いやいや、どう考えても俺は巻き込まれる方でしょ。なんかカラーウィッグとか眼帯付けてる人ばっかりだったし。…………性格が変貌した旧友にも絡まれたし」


「ま、面倒なことにならなきゃいいけど」


「そうだ、面倒といえば今日のファーストインパクト。オタク趣味なのはいいけど公衆の面前で公開すんなよ。弟の立場も考えてくれ」


「ええっ!? 受け良かったじゃん。大丈夫大丈夫。入学前に生徒のプロファイリングは把握してるから。あんた以外、全員アニオタだから」


「なん……だと…………ッ!?」


 大人になるとみんな超人になる気がする世界の住人になってしまっていた。

 驚愕のあまり言葉が出ない。いくら日本人の大多数がアニメ大好きとはいえ、クラス全員がアニオタとかどうなってんだ。むしろそっちでクラス決めしたんじゃないのか。

 だとしたら正義はまさに朱の中の黒。まじろうとすると微妙に汚い色になる存在。なぜ自分はそんな孤立無援四面楚歌な世界に放り込まれなければならないのか。納得のいく理由を述べよと詰め寄って、納得のいく理由が飛んできた。


「行動特性が同一たけど趣味が違いすぎるからって議論になったよ。けど、鈴子ちゃんもアニオタで、あんたはあの子にゾッコンだから、一緒のクラスにしても馴染めるだろうって説得したんだよ」


「ね、姉さん…………どこまでもついて行きますッ!」


学園ラブコメの鉄則。権力者は有能で何が起こってもなんとかしてまとめられるキャラ。ストッパーがいないとどこまでも行って収集がつかなくなってしまうので、こういうのが一人いると安定しますね。

私は神だ。

何か凄い良いことがあったり、宝くじが当たったりした時に使うフレーズです。受け狙いで。

登場するキャラクターにはいかに面白い言葉を出させるかは大事だと思います。今回はスタンダードに上記のフレーズを使いました。公衆の面前で言ったらドン引きな台詞。


そして学園長という立場の人間が幼女成人。

ファンタジーはありえないことをやるべきだと思うんです。

だってファンタジーなんですもの。

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