表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

執念シリーズ

追いかけた先

作者: 着津

0.


そのイラストを見つけたのは、偶然と言うには執念が強く、必然と言うには奇跡的だった。


1.


(軽やかなタッチで水彩画風の塗りながら、深みがあって立体的......!!!)


かのこはいわゆる2次元オタクである。漫画やゲームは大好きだ。


その中で何よりも重視している条件は、イラストが好みであること。具体的な好みは先程内心で叫んだ通り。


そしてそれは、大学の帰りに何気なしに覗き込んだカフェの、お客さんがテーブルに置いたスケッチブックの絵だった。そこに描かれていたのは、本来ならかのこのストライクゾーンに入らない美少女画で、ポーズもどこか扇情的な男性向けの絵だった。


(すご......、これ、絵柄と塗りがジャンルを飛び越えて好みだ......)


周りがかなり賑わっている繁華街でなければ、窓に張り付いていたかもしれない。怪しまれないようにチラ見を数回するになんとか留めたが、もっと眺め回していたかった。


(とはいえ、時間は有限だし、話しかけるなんてとんでもないし、帰ろ)


気持ちを切り替え、かのこは家路を急いだ。家に帰ってどんなゲームをしようか、あるいはマンガを読むか考えながら。


けれど、いつもならそれだけで満足するのに、あのイラストがチラついて仕方がなかった。


2.


「というわけなんです、あずささまぁ!効率のいいイラストさんの探し方教えてぇ!!」

「あいあい。ってかなんで俺?確かにイラスト探しは好きだけど、それって自分の好きなもん追っかけてるだけだし」

「だからこそです!あずさの探してる方法教えて!」


数日後、かのこは大学の休憩スペースで、あずさに頼み込んでいた。言わずもがな、例のイラストが気になりすぎて検索しようにも、イラストレーターの名前もわからないので、焦れているのだった。


ちなみに、イラストさんとはイラストレーターさんの略称である。さらに補足で、あずさは男性だ。男性向けのポーズだったので、あずさを頼ったのだった。


「おれはSNSで気に入った人のフォローして、その人のつながりからいいなって人をさらに追っかけてる。以上」

「うえぇ、もうそれ、何年かかるかわかんないじゃーん......」

「状況がイレギュラーすぎるから、効率いい探し方なんかわからん。地道に頑張れ」

「あうぅ......」


机に突っ伏したかのこは、情けない声で返事をした。


その様子を生ぬるく見つめつつ、あずさは代替案を提示する。


「薄らぼんやり覚えてるのって、カフェで作品の打ち合わせだったかもしれない、だろ?だったらコンテストとか出てるかもしれん」

「なんですとっ!?」


がばりと顔を上げたかのこは、輝かんばかりの笑顔で、あずさは、(まだ見つかっとらんのに)と苦笑した。


「ほら、こんなん、まず手始めに」

「なるほど......、こっちも時間かかりそうだけど、ジャンルが絞れるからまだ効率良さそう。開き直って、他にも好きなイラストみつけよっと」


あずさがスマホをいじって表示した過去のコンテストの情報サイトをガン見し、かのこはURLをSNS越しに受け取ると、次の講義に向かっていった。


ありがと~!と口とSNSで伝えて駆け去るかのこに、あずさは苦笑と共に手を振った。


3.


それから数ヶ月後のことである。かのこは恐るべき執念で、何作か好みドンピシャの例のイラストに特徴が似たイラストを見つけ出していた。恐るべき執念である。大事なので2度。


しかし、行き詰まってもいた。


「ぅぉおお、あずにゃん先生~!!」

「あいあい、今度は何?」

「めちゃくちゃ特徴が似てるのに、全部お名前が違いますぅぅ」

「あらら」


かのこの見つけ出したイラストは4つほどだが、あずさの目から見ても、確かに同一人物かな?と思うほどには似ていた。しかし、少しずつテーマに沿ってか、絵柄が違い、かつ、作者の名前が全く違っていた。


「へー、なになに、『夏季休業(サマーホリディ)』、『わさび』、『冬瓜(とうがん)』、『おえかき』......。うわ、わさびと冬瓜が植物(食用)ってところしかあってねえな」


それも、こじつけに思えてしまうほどの違いである。ちなみに、『夏季休業(サマーホリディ)』は微妙に訳し方が間違っているので、もしかしたら中学生かもしれない。


「はぁ~......、ネット上で検索してみても、この名前でユーザーネームにしているアカウント、なかったり、あってもまっっっっっったく違う絵柄だったり、絵なんか投稿してなかったりでさ......」


かのこは机に突っ伏した。腕を枕に横を向いて黄昏(たそが)れる。


「ああ、まあ、どんまい」


さすがのあずさも何も言えず、静かになったかのこの頭を撫でようとし......、空を切った。


「み、見つけたぁあ!?」


かのこがあずさの手に気づかず、がばりと起き上がったからだった。その視線の先には、大学内のイラスト募集結果が貼りだされていた。


大学のイメージイラストの募集だったが、その中に、一際かのこ好みな、軽やかなタッチで水彩画風の塗りながら、深みがあって立体的なイラストがあったのだ。

モチーフは満開の桜とキャンパス、小首を傾げた儚げな雰囲気の少女。男性向けの漫画のワンシーンにありそうな構図だが、POP過ぎず、大学のイメージからずれてもいない。


残念ながら、もっと写実的なイラストがイメージイラストに起用されたようだが、桜と美少女の絵も、佳作として挙げられていた。


「「こんなことってあるんだ......」」


2人揃って声を上げ、かのことあずさは顔を合わせて笑顔を見せた。


かのこは満面の、あずさはあきれを含んだ笑みだった。


「あ、絵の下にハンドルネームっぽいの書いてある!ネットで調べるよ!......、あったぁああ!イラストある!あ、例のイラストも!!!」

「おー、よかったじゃん」


こうして執念深いかのこは、最大のチャンスを掴んだ。


4.


尽きない執念で、例のイラストの作者のSNSアカウントを探し当てたかのこは、今まで縁がなかった、主にオタク共の冬の祭りに初参加していた。かのこの危なっかしさを心配したあずさも一緒だ。


お察しの方もいると思うが、かのこはSNSを通じて、例のイラストの作者がこの祭りに参加しているのをガッツリつかんだからである。あずさのアドバイスを受けつつ、祭りの際に邪魔にならない差し入れも用意しつつ、張り切っている。


「場所の確認は?」

「番号はバッチリ!」


ものすごい人波にもまれながら、2人は寄り道もせずに目的の場所へと向かった。予想以上に時間がかかった。


「こんにちは!」

「はいどーもー」


やっとたどり着いたその場所で、かのこは満面の笑顔で声をかける。それに応えたのは、爽やか系男子だった。


「あの、これ、よかったら」

「お、どーも、連れといただくよ。ありがとう」

「あの、実はーー」


かのこはここにたどり着くまでの執念(無自覚)を語った。爽やか系男子は、にこにこと黙って聞いていたが、かのこが話していたうちにどこからか戻ってきたらしい小柄な男性の服を素早くつかんで確保すると、口を開いた。


「いやー、俺ただのお手伝いでさー、イラスト及び漫画の作者はこいつ」

「ちょっと、やめろ、離せ、僕は今無理!」

「失礼な事言ってないでー、覚悟決めろー?せっかくの可愛いファンじゃんか」


爽やか系男子はその小柄な男性を椅子に無理やり座らせると、押さえつけるように肩に手を回した。かのこはぽかんと、あずさはひたすら気配を消してそれを見ていた。


「いやっ、でも!」

「あなたがすけふぁんさんなんですね!」


慌てふためく男性に構わず、かのこはぐいっと話しかけた。顔が近づきすぎていないのは、後ろであずさが抑えているから。


「あの!1年くらい前にカフェで絵を見かけて、それからずっとファンです。それから半年以上もアカウントを探せなくて、きちんとイラストを見られるようになったのは最近なんですけど......」

「......ぅ、あ、あり」

「すけふぁんさんが男性で安心しました。好きです、付き合ってください!」

「ありがとう......。ふぁ!?」

「わぁ、OKですか!?」

「い、いや待って、待って!みずしm......!」


浮かれてはしゃぎそうになるかのこの頭を軽く(はた)き、あずさはすけふぁんを見た。


「こいつもボケてて暴走しがちだけどな。そっちはどうなんだ?榊」

「ひぇ!?水嶋くん?え?いつの間に??」

「さっきからいたじゃんー、やばい、こっちもボケてるよ。水嶋」

「だな」

「まぁ、今はお互いに長話できないし、終わるまで待ってるから、榊を逃がさず連れてきてくれない?山崎」

「おーけー、だいじょぶ、コツはつかんでる」

「じゃあ任せたわ」


保護者が同盟を組み、イベント後に話し合い決行が決まった。あずさはいつの間にか抑えていたかのこの口をそのままに、(すけふぁん)の売り場から遠ざかった。


2人の姿が見えなくなり、山崎のスマホがぶぶっ、と音を立てる。


「お、りょーかいっと。榊ー、見せられる作品全部持って来いってさ。ちゃんとお金は払うって」

「(逃げられないなにこれ地獄?いやでも憧れの水嶋さんと)......、付き合う流れなの!?確保します!!」


この後、なんとか持ち直せなかった(すけふぁん)を山崎がフォローしてイベントを終えた。


5.


その後、イベント会場から程よく離れたファミレスで、4人はお話をした。


「そ、そりゃ、僕も水嶋さんは大学で見かけて、そ、その、つつ付き合えたらって思っていたので......(榊)」

「はっきりいいなよー、ヘタレ(山崎)」

「おれから言うか?(あずさ)」

「好きです!僕の方こそ付き合ってください、お願いします!(榊)」

「よろしくお願いします。すけふぁんさ......、榊さん(かのこ)」


とか


「というか、水嶋くんと水嶋さんはどういう関係......?(榊)」

「うわー気づいてなかったんだ。やばい(山崎)」

「きょうだいだ。同学年の(あずさ)」

「そうなんです、私がお姉ちゃんで(かのこ)」

「兄妹......、え!?姉弟(きょうだい)!??(榊)」


とかとか、様々な話をして、かのこは榊と付き合うことになったのでした。



6.(補足)


・かのこ

突っ走り気味の女の子。執念深いが明るい美少女。

各キャラより一言

榊「......実は大学入学当初から一目惚れです......。水嶋さんをモデルに大学のイメージイラストに応募しました......」

あずさ「ボケてて暴走気味な姉だな」

山崎「水嶋姉弟とは講義がよく被っててさー、榊もだけど。面白いよね、彼女」


・あずさ

かのことあまり似ていないため、堂々と虫除けになっている。シスコン。かのこ以外にはあたりが強い。

各キャラより一言

かのこ「頼りになる弟です。かっこいいし」

榊「もしや1番のライバル......(絶望の顔)」

山崎「いや、彼女にべったりで、面白いよね」


・榊

実はデビューしているプロイラストレーター。常に弱気なネガティブ。がりのちび。

各キャラより一言

かのこ「最初はイラストからだけど、人柄を知って好きになりました!」

あずさ「かのこ任せるんだからシャッキリしろ」

山崎「ヘタレなのにプロイラストレーターだし、面白いよね」


・山崎

面白いが行動基準の爽やか系男子。あずさとは保護者&鬼畜仲間。意地悪ではない。

各キャラより一言

・かのこ「そういえば、大学で見かけるような?よくわからないです......」

あずさ「課題とかでよく話すな。かのこが知らないのはずっと虫除けしてたから」

榊「僕、なんでこいつと友達やってんだろ.......?良い奴ではあるけど」


あらすじ見れない方へ

前の執念の話(榊と山崎)

https://ncode.syosetu.com/n5831gx/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ