第9話「交わした約束」
「そろそろ…離れなきゃダメだよね…」
「ごめん…もう少しだけ…」
「え…?」
「あと5分…5分だけでいいから…」
「うん…」
もう少しと言って、最初の時より強く抱きしめる。奏海のお願いに驚いていたが、桜羽は本当は離れたくなくもっと腕の中にいたいと思う気持ちだった。
でも、その時間もあっという間だった。
「わがまま言ってごめん…」
「ううん…大丈夫…嗎都くんに触れられて嬉しかったし…」
「そっか。俺も同じ気持ちだよ。」
2人は、お互いに見つめ合い笑い合った。
桜羽は好きと気付いてから、奏海への想いが溢れていっぱいだった。
「そういえば…嗎都くんはどうして私がここにいるって分かったの?」
「クラスの女子が、コソコソと話してたのを耳にして…」
「噂になってたんだ……なんか、会ったら色々聞かれそうだな…」
「言いにくいのもあるだろうし、俺が話しておこうか?」
「え…いいの?」
「いいよ。だから、桜羽は気にしなくていいからね。」
「うん……って…もうこんな時間になってたんだ…っ。」
「ほんとだ…」
時計を見てみると気付かないうちに時間は16時を回っていて、廊下は部活動生と下校する生徒で騒がしくなっていた。
「あれ…そういえば、神崎さん最近見ないけど…」
「あー……ちょっと体調崩して、風邪を引いたみたい……」
「そうなんだ…神崎さん色々頑張ってるよね…休む暇もないくらいに…」
「仕事の手伝い、響空のお世話とかもしてくれてるから…」
「……響空?」
「あ…響空は俺の弟だよ。」
「嗎都くん、弟くんいたんだ。どんな子か会ってみたいな…」
「じゃあ…桜羽の事話してみるよ。返事聞けたら、教えるから。」
「うん、ありがとう…」
奏海の弟:響空がどんな子か気になって会ってみたいと言う桜羽に奏海は話してみると約束をしてくれたのだ。
「桜羽は、兄弟はいるの?」
「妹がいるよ。名前は紅華だよ。」
「いい名前だね。もしかしたら、響空と気が合うかもしれない。」
「じゃあ…私も話してみようかな…返事聞けたら教えるね。」
「うん。」
桜羽も奏海と同じように、妹:紅華に話を聞いてみると約束したのだ。
「あ、そろそろ…帰らないといけないよね…」
「そうだね…」
「嗎都くんの方は、神崎さんの代わりに誰かお迎えが来るの?」
「ううん…来ないよ。」
「そうなの?」
「仕事関係での手伝いで手一杯らしくて…」
「大変なんだね…」
「まぁ……仕方ないんだけど…」
仕事の事で、慌てるのはいつもの事らしく仕方ないと思っている奏海だが本当は両親や執事達にはゆっくり休んでほしいという気持ちがあった。
「その…っ…嗎都くん…」
「ん?」
「お迎えないって事は、一緒に帰れたりするのかな…?」
「……一緒に帰る?」
「うん…」
いつも帰りは別々で、一緒に帰るなんてなかったが今日は遅くまでいたのもあり送り迎えがないのもあって初めて並んで帰ることになった。
「今日は、ありがとう…こんな時間までいる事になっちゃったけど…」
「うん。大丈夫だよ。」
桜羽は時間とか関係なく、奏海と一緒にいれた事が何よりも嬉しいこと。
胸が張り裂けそうなくらい嬉しそうだった。
「あ、アネモネが咲いてる。ちょっと見に行って来るね。」
「うん。」
桜羽はアネモネが植えられた花壇へと走って向かう。っと、その時…
「きゃ…っ!」
「…っと。君、大丈夫?」
「あ…はい…」
「桜羽、だい……っ…天翔……」
奏海が桜羽の元へ駆けつけると、謎の男性が桜羽を助けていたのだ。
「おや?奏海じゃないか。久しぶりだね。元気してたかい?」
「帰ってきてたのか……」
「今日帰ってきたばかりだけどね。」
「あ…っ…あの…っ…」
「あーごめんね。走ると滑るから気を付けてね。」
「すみません…助けてくれてありがとうございます。」
「お礼なんていいよ。その代わり…君のその可愛い唇が欲しいな…」
「…え…っ!?ちょ…っ!」
突如現れた天翔という名前の男性は、桜羽の顎を掴んでキスをしようとしていた。
桜羽は、腰を引き寄せられてるあげく顎を掴まれていて身動きが取れない。
さて…この状況に一体、奏海はどうする…!?