第8話「温かい感触」
「奏海、浮かない顔してどうした?なんかあったのか?」
「……いや…っ…まぁ、ちょっとね……」
奏海は、階段の出来事で去ってしまった桜羽の事を気にしていた。
なんて言ったらいいか、どういう顔して会ったらいいかと色々考えてしまっていっぱいいっぱいだった。
「何があったかは、無理に言わなくていい。」
「夢也……」
「でも、もしその相手に伝えたい事あるならちゃんと言った方がいいぞ?」
夢也は無理には理由を聞かず、奏海とその相手の気持ちを理解して伝える事はちゃんと伝えた方がいいと言ってくれたのだ。その言葉を聞いた奏海は拳を握りしめて……
「そうだな……ちゃんと伝えた方がいいよな。夢也、悪い…心配かけて…」
「気にするな。頑張れよ。」
「ああ。ありがとう。」
「今…俺にありがとうって言ったか?」
「…っ!い…っ…言ってない…っ!」
「いや、言った…っ!言ったよ…っ!」
「言ってな…っ…ん?なんか話し声が聞こえる…」
「話し声……?」
話し声がする方に耳を傾けて澄まして見ると……
「瞹瀬さん、授業中に倒れたらしいね…」
「みたいだね…なんか、胸を押さえて苦しそうだったし…」
「っ…!」
(桜羽が…倒れた…!?まさか…っ…もしかして…っ)
「夢也…悪い…ちょっと、俺行ってくる…っ!」
「お、おい…っ!行くってどこ…っ…って…行っちゃったか…」
桜羽が倒れた事が噂になっていて、クラスの女子が小声でボソボソと話していた。
その会話を聞いた奏海は、夢也に行くところがあると告げて話も聞かずに走って行ってしまった。
数分後…ある場所に辿り着く。そこは保健室。
(すー…っ…はぁ…っ)
奏海は、切れていた息をゆっくり深呼吸して落ち着かせる。
桜羽がいるのを確かめるため、ドアを開けた。
そして、そっと中に入る。
「はは…っ…それは面白いね…」
「でしょ…っ?もう、笑いが止まらなくて…っ。」
中へ入ると桜羽と虹菜の2人の会話と笑い声がカーテンの奥から聞こえてくる。
奏海は、その声がする方へ歩み寄る。
するとその時……
ガタッ…
足元を見ていなかったため、ベッドの車輪に足を過ってぶつけてしまった。
物音に気付いた虹菜がカーテンを開ける。
シャーッ…
「あれ?嗎都くん?」
「……っ!」
(ま…っ…嗎都くんが来るなんて…っ…心の準備が…っ。)
「桜羽、私は教室に戻るね。」
「え…っ?ここにいるんじゃ…っ。」
「せっかく嗎都くん来てくれただから、2人で話さないとダメでしょ?」
「…っ!そうだけど…っ」
「大丈夫。ゆっくりでいいから頑張れ。」
虹菜は、桜羽と奏海を2人きりにさせるため空気を読んで教室に戻るという。
不安がる桜羽に"大丈夫"と"頑張れ"と言葉を耳元で囁いて保健室を後にする。
「……えっと…良かったら……」
「……ごめん…っ…」
「え…っ?な…っ…なんで謝るの…っ?」
桜羽の言葉を遮るように、奏海がいつもと違って暗い表情をして突然謝ったのだ。
ごめんという言葉にどう反応したらいいか分からず戸惑ってしまう。
「……その…屋上の階段で…あの後…走り去ったから…嫌だったのかと思って…」
「あ……」
奏海は、階段で足を踏み外した拍子に抱きしめる形で受け止めたのが嫌だったのではないかと気にしていた。
それで自分が申し訳ないと思い謝ったのだという。
奏海の言葉を聞いた桜羽は、ギシッと音を立ててゆっくりと立つ。
そして、少しずつ奏海の方へと歩み寄り……
「嗎都くん……不安にさせてごめんね…その…っ…驚いて混乱してたから……っ…決して嫌じゃなかったし嬉しかった…っ…助けてくれてありがとう……」
「……そうだったんだ……ちゃんと話が聞けて安心した…こちらこそ、ありがとう…」
お互いの心の中にあった不安は、話が聞けたおかげでなくなったようだ。
気まずい雰囲気もなくなって、いつもの2人に戻った様子。
桜羽は、安心したのか奏海の胸へと頭を預けて顔を埋める。
その仕草に奏海はそっと優しく抱きしめる。
温かい感触に嬉しくなり、腕の中で笑顔になっていた。
次回、新たな人物が登場…!?