第7話「芽生えた気持ち」
「えっと…じゃあ…この問題を……東雲さん、お願いしてもいいかな?」
「はい。」
昼休みが終わってから数分後…桜羽達のクラスは数学の授業が始まっていた。
女子生徒が問題を解いてる最中、桜羽は階段で起きた出来事から未だに落ち着かず混乱していた。
授業の内容も頭に入らず、鼓動の音も治まる様子がない。
鼓動の音の速さと同じように呼吸も荒れていた。
「じゃあ……次は……」
ガタンッ…
音がした方を見てみると、桜羽が倒れていた。
呼吸も荒く、胸を押さえて苦しそうにしていた。
「瞹瀬さん…っ!?瞹瀬さん、大丈夫…っ!?」
先生の呼びかけに返事をしようとするが、声を出せず上手く返事ができない。
「誰か…っ…早く、保健室へ運んで…っ!」
段々と声が聞こえなくなり、意識が遠のき気を失ってしまった。
桜羽が保健室へと運ばれてから、数時間後…
「桜羽……」
桜羽のそばには、虹菜がいた。
手を握って、不安な表情で見つめていた。
「ん……」
暫くすると、桜羽がゆっくりと目を覚ます。
そして、虹菜の方を見る。
「虹菜……そばにいてくれたんだ……」
「親友なんだから、当たり前でしょ…」
「ありがとう……」
「大丈夫…?どこか痛いとかない?」
「痛いというか……胸が苦しいかな…」
「桜羽…それって……」
「え…?」
「胸が苦しいのは、恋だよ…」
「恋……」
胸が苦しい原因は、誰かに恋のせいだと言う虹菜の言葉に桜羽は動揺していた。
「桜羽が恋した相手って…嗎都くんでしょ?」
「………………。」
「嗎都くんと話してる時の桜羽、すごく楽しそうだったからもしかしたらって思って。」
「私……嗎都くんといると…楽しくて…嬉しくて…ドキドキして…」
「うん……それ…好きって事だよ。」
「虹菜……私……」
「大丈夫。私がついてるから。」
「………うん。」
奏海の事が好きだと気付いた桜羽。
好きという想いに気付いたが、不安そうな表情をする桜羽に虹菜は大丈夫だと言って安心させた。
「虹菜、教室に戻らなくて大丈夫?その…ずっといてもらうのも悪いし…」
「ほんと、桜羽は気にし過ぎなんだから。一人にさせるのも心配だし…それに、先生に言ってあるから大丈夫よ。」
「………ごめんね…迷惑かけて……」
「謝らないでいいから。遠慮しないで甘えていいんだよ。」
「うん……ありがとう…」
虹菜は、甘えてもいいと言って桜羽を優しく抱きしめてあげた。
桜羽も答えると同時に、抱きしめ返す。
その優しい体温に、思わず涙が出そうになっていた。
暫くして落ち着いた桜羽が口を開く。
「虹菜、飛沫くんとよく話してるよね。」
「え…っ!そ…っ…そうかな…?」
「うん。飛沫くんの事…どう思ってるの?」
「ど…っ…どう思ってるって……まぁ…話してると面白いからかな……」
「そっか〜。そうなんだ〜。」
「ちょっと…何その顔は…っ。」
「なんでもな〜い。」
「もう〜えいっ!」
「えっ!ちょっと…っ!ふ…っふはは…っ!」
桜羽のニヤつく表情を見て拗ねた虹菜は、お返しにくすぐり始めたのだ。
そのくすぐりに弱い桜羽は、耐え切れず声を出して思っきり笑い出す。
しんみりとした空気が、一瞬で明るく華やかになった。
「れ…っ…虹菜…っ…もう…ダメだって…っ。」
「観念した?」
「う…っ…うん…っ。もう降参…っ。」
「なら、よしっ。」
「もう…脇腹が痛いよ…」
「桜羽が余計な事言うからでしょ?」
「う…っ…ごめん…っ…」
「ふふ…っ。楽しかったからいいよ。」
「そっか。なら、良かった。」
桜羽と虹菜は、お互いに顔を見つめ合って笑い合った。
2人の笑い声が響いて、賑やかになっていた。