第6話「楽しい時間」
朝の騒がしい出来事から数時間後…
昼休みになり、桜羽は虹菜と一緒にお弁当を持って屋上に向かった。
扉を開けて、近くのベンチに座ろうとすると誰かが声をかけてきた。
「お、おーい!良かったら一緒に食べようぜー」
声をかけてきたのは、朝に出会った夢也だった。
その隣には奏海も一緒にいた。
せっかくの誘いに2人は、奏海達の元へ。
桜羽は奏海の隣に座り、虹菜は夢也の隣に座る。
すると、夢也が桜羽のお弁当を見て…。
「可愛い弁当だな。もしかして、手作りか?」
「…うん…そんな上手じゃないけど…」
「そんな事ないぜ。すごいと思う。」
「そうかな…ありがとう…」
「桜羽って真面目なんだな。尊敬するなー」
「夢也に尊敬されても嬉しくない。」
「奏海は、すぐきつい事言うな…」
桜羽が夢也と話してるのが嫌なのか、奏海はまるで邪魔するかのように間に入る。
「虹菜のお弁当、カラフルだね。可愛い。」
「でしょ〜占いの本に載ってたデザインにしてみたの。」
「虹菜は占い好きなのか?」
「友達に勧められて読んで、気付いたら夢中になってた。」
「占いがなくても、虹菜には良い奴会えると思えるけどな。俺は。」
「え……!?」
夢也は、虹菜に占いに頼らなくても素敵な人に出会えると思うというその言葉に虹菜は驚いて一瞬固まってしまった。
その様子を見た夢也が悪い事言ってしまったのではないかと思い虹菜の方を向いて…
「悪い!俺、変な事言ったよな…」
「い、いや……そんな事ないよ…!その…そんな風に言われたの初めてだから…びっくりしただけで…」
「そうなのか?」
「うん…飛沫くん、ありがとうね。」
「お、おー…」
虹菜の笑顔を見た夢也は、あまりの可愛さに口元を押さえて興奮していた。
虹菜はその様子が変だと思ったが、ここは何も聞かずに黙って見ているだけにした。
「桜羽、そのカップに入ってるの肉じゃが?」
「…うん。もしかして、肉じゃが好きなの?」
「幼い頃に母さんの作った肉じゃがを食べて好きになったかな。」
「…そうなんだ。もし良かったら…いる?」
「…いいの?」
「うん、いいよ。」
「ありがとう。」
奏海は桜羽に大好きな肉じゃがを貰って、嬉しそうにパクッと一口食べる。
口の中全体に、優しい味が広がった。
「…美味しい…」
「良かった…嗎都くんのお口に合って…」
奏海はその肉じゃがが気に入ったのか箸も止めずにあっという間に食べたのだ。
「桜羽、ありがとう。美味しかった。」
「うん。こちらこそ、ありがとう…」
「良かったら、俺のおかずもあげる。何がいい?」
「………えっと…じゃあ…たこさんウィンナーがいいかな…」
「はい。」
目がクリっとしていて、あまりに可愛いたこさんウィンナーを奏海に貰って見つめる。
見つめるだけで思わず笑みが零れていた。
奏海は嬉しそうな表情をする桜羽を見て自分も嬉しくなり笑っていた。
「ねぇねぇ、飛沫くん。」
「ん?」
「嗎都くんって、あんなによく笑う人だったの?」
「奏海は表情をあまり出したりしないけど、桜羽と話してる時、一緒にいる時は笑ってるよな。」
「そうなんだ…。きっと、桜羽と一緒にいるのが楽しいのかも。」
「そうだな。あんなに楽しく笑う奏海見ると俺も嬉しいぜ。」
「私も同じだよ。」
そんな楽しく会話する2人を見ていた虹菜と夢也。
聞こえないように耳打ちで、嬉しい気持ちを伝え合っていた。
お互い息が合ってた事に、心が弾むくらい嬉しくなっていた。
「それ…食べないの?」
「なんか…可愛くて食べるのがもったいないな…って。これってあの神崎さんが作ってるの?」
「いや……俺が……作った…といっても、教えてもらってだけど…」
「嗎都くんって器用なんだね。」
「そんな事……」
「ううん、上手くて可愛いよ。」
「……ありがとう。」
「うん。もったいないけど……いただきます…っ!ん…っ!」
奏海から貰ったたこさんウィンナーが可愛くて食べるのがもったいないと躊躇していたが、勢いよく口に運び食べた。
ジワーっと広がるその美味しさに蕩けたような表情をしていた。
「美味しい……っ!」
「……そう?」
「うん。」
「なら…良かった…」
「お、マジか。じゃあ…俺は唐揚げいただきっ!」
「あげるとは言ってない。」
「いて…っ!…んだよ…っ…だったら、俺の煮物やるから…」
「いらない。」
夢也は唐揚げを取ろうとしたら、手をバシッと叩かれて弁当を遠ざけられてしまった。
素直じゃない奏海に、交換で煮物をあげようとするがいらないと言われて断られてしまった。
「…ちぇ。奏海は意地悪だよな…」
いじけながらも渋々と自分の弁当を食べ終えた夢也。
奏海と夢也の掛け合いを見ていた桜羽と虹菜は面白くて笑いが止まらなかった。
キーンコーンカーンコーン
賑やかな時間もあっという間、昼休み終了を知らせる鐘が鳴った。
食べ終えた4人は、午後の授業があるためお弁当箱を片付けて出口へと向かう。
「あ、虹菜。ちょっとお願いあるんだけどいいか?」
「お願い?いいけど…」
「ありがとな。数学でちょっと分からないとこが…」
夢也と虹菜は、一緒に並んで話しながら先に階段を降りていく。
そして、後から続いて奏海と桜羽が降りてくる。
っと、その時…
「きゃ…っ!」
「危ない…っ!」
桜羽が過って階段を踏み外して、落ちそうになった所を奏海が腕を引いて受けとめる。
「はぁ……大丈夫?」
「……っ!だ…っ…大丈夫……っ」
桜羽は奏海の問いかけにドキドキしていた。
それはなぜかというと…
勢いで奏海が桜羽の腕を引いて受け止めたため、後ろから抱きしめる形になっていたからだ。
そのため、体も密着していて吐息も声も耳にかかりいつもより近くになっていた。
早くなっていく鼓動の音を抑えようとするが、落ち着かない。
勇気を出して、口を開いた。
「…ま、嗎都くん……っ…その…そろそろ…離してもらっても……」
「え……あ…っ…ごめん…っ」
「私…先に行くね…っ!」
「あ…おと…っ!」
状況に気付いた奏海は、慌てて離した。
しかし、桜羽は整理がつかず振り向きもせずに行ってしまったのだ。
勢いで走り去ってしまった桜羽……。
そして、残された奏海の心に変化が…?