第5話「みんなの王子様」
翌日…
一日が経ち、早朝の7時頃…
日差しが差し込む晴天の中、桜晴高校の学生達で賑わっていた。
桜晴高校…それは、桜羽達の通う学校である。
書道…吹奏…などの数々の賞の受賞歴があり、歴代最高のトップの座に立つ有名校である。
ガヤガヤと騒がしい中、門の前に一台の車がやって来る。
その車に気付いた生徒達は慌てて、道を開ける。
それと同時に、一人の男性が降りてきて後部座席のドアを開ける。
降りてきたのは、茶髪で不良みたいな男の子。
「はぁ〜夢也様、素敵だわ〜今日もかっこいい…」
「夢也様〜!いつ見ても素敵です〜!」
「私の王子様になってほしい…」
「何言ってるのよ!私の王子に決まってるでしょ!」
彼の名前は、飛沫 夢也。飛沫財閥グループの代表執行役で女の子達のアイドル王子様的な存在。
外観は、不良っぽい悪そうな感じだが優しくて面白くてとても楽しい人。
女の子からの歓声は非常に喜ぶのだがたまに調子乗り過ぎてしまう所がある。
おまけに可愛い女の子大好きで、見つけるとすぐ手を出してしまう。
「桜羽、おはよう…って、この騒ぎは何…」
「あ、おはよう。今来たばかりだから何が起きてるのか分からなくて……」
夢也が登校して来たのと同時に、桜羽と虹菜も後から来て突然目にした光景に驚いて、状況を飲み込めずにいた。
暫くすると、もう一台の車がやって来た。
同じように男性が降りてきて後部座席のドアを開ける。
「あ…」
降りてきたのは、桜羽を助けてくれた奏海だった。奏海の姿を見た桜羽は思わず反応して声を漏らす。
奏海は、運転手に言葉を告げて桜羽達の方に向かって歩いてきた。
「おはよう。」
「……っ…おはよう…」
桜羽に気付いた奏海は、微笑んだ笑顔で挨拶をする。
桜羽はその奏海の笑顔にドキッとする。その後に小さい声で挨拶を返す。
「嗎都くん、昨日はありがとう。その…あと手紙も…」
「表情見たところ、元気になったみたいだね。」
「え…あ、うん。嗎都くんのおかげで…」
「……ふふ。それは良かった。」
「…うん。」
奏海と桜羽は、互いに笑い楽しそうに話していた。
その楽しそうな桜羽を見ていた虹菜は嬉しそうだった。
「ふーん…奏海も女の子の前で、あんな風に笑うんだなー。意外だな。」
「へっ…?…っ、うわっ!な、なな…なんですか…!いきなり…」
「虹菜……?」
「桜羽〜変な人がいて怖いよ〜助けて〜」
「変な人とは失礼だな。どう見ても君達と同じ高校生だろ。」
「はぁ……夢也、後ろに立ってたら誰だって驚くに決まってる。」
「そうか…?あはは!そんな怖がらなくても何もしねぇよ。俺は皆のアイドル王子だぞ?」
夢也のおかしな発言に、奏海はため息をついて呆れた表情をしていた。
夢也は、全く気にせず楽しそうに笑っていた。
口には出さなかったが、桜羽と虹菜は心の中で変な人で馬鹿ではないのかと思っていた。
「それで……奏海。この美女とどういう関係なんだ?」
「………………。」
「おい、なんで黙ってるんだよ。何か言えよ。」
「……彼女とは友達で、トラブルに巻き込まれてるのを助けた時に知り合ったんだ。言ったから、いいだろ…」
「ほー。そうなのかー。仲良く話してたから彼女かと思ったんだけどな…」
「…っ!か、かの…っ!」
「夢也、あまりふざけた事言うと怒るからな。」
「へいへい。」
夢也の驚きの発言に奏海は戸惑いながら、必死に返事を返すのがやっとだった。
桜羽は、彼女という言葉に反応してしまい顔を赤くして俯いていた。
「桜羽、夢也が失礼な事言ってごめん。」
「……ううん…っ!大丈夫だよ…っ!」
「もし、また夢也に何か言われたら、俺に言って。」
「う、うん…」
桜羽は奏海からの耳打ちに驚いて慌てて返事を返した。
その慌てる桜羽を見て奏海は一瞬だけ変に思ったが何も言わなかった。
話す2人を見ていた夢也が突然と声を上げる。
「あ、俺は飛沫 夢也。よろしくな。」
「瞹瀬 桜羽です…よ、よろしくね…」
「蓮美 虹菜です。よろしく。」
「ん?奏海は言わないのかよ。」
「……っ…」
「……えっと…嗎都くんの事は教えてもらってるから大丈夫…」
「そうなのか…お前だけずるいな…」
「うるさい。」
「はは……」
夢也と出会い、互いに自己紹介をして自分達の事を教えあった。
奏海と夢也の2人は、仲がいいのか悪いのかどうか分からなかったが桜羽には楽しそうに見えていた。
「嗎都くんと飛沫くんは、なんか仲良さそうに見えないけど…」
「…っ…ちょ、おい…っ!」
夢也は奏海の肩に腕を回して乗せた。
「奏海と俺は、一緒にスポーツしたりお泊まりしたりするくらい仲良いぞ?なぁ、奏海。」
「……っ、誰が…っ。」
「奏海くんは素直じゃないなー。素直じゃない子にはーこうしてやる!」
「お、おい…っ!ゆ…っ…やめ…っ…はは…っ!」
夢也の突然のくすぐり攻撃に、慌てる奏海だったが桜羽達の前という事を忘れて耐えきれず体を震わせて笑っていた。
その姿を見ていた桜羽と虹菜は目が離せなかった。
「はは…っ…って、夢也…いい加減にしろ…っ。」
「いててて…っ!分かった、分かった!止めるから落ち着けって!」
奏海はいつになっても止めない夢也の手首を取って、強く握る。
夢也は痛さに観念したように声を上げる。
ゆっくりと手首を掴んでいた手を離し咳払いをした。
「くすぐり攻撃に弱い奏海は可愛かったな…なっ、そう思うよな?」
「えっ……?」
突然の問いかけに驚く桜羽は、なんて答えたらいいか分からず戸惑ってしまった。
暫く黙って、口を開いた。
「………その…意外な一面もあるんだなって思ったかな…」
「………っ!」
小さい声で可愛いとは言わずに、驚いてるのもあったため"意外な一面"と答えた。
顔を赤くして答える桜羽を見た奏海まで、何も返せず照れていた。