第4話「感謝の手紙」
キーンコーンカーンコーン…
さらに時間が経ち、授業終了の鐘が鳴る。
終了の鐘と同時に、HRを終えた生徒達がぞろぞろと出てくる。
学校全体に生徒達の声や歩く音が響いて、騒がしくなる。
その頃、保健室にいた奏海と桜羽の2人は暫く話して気付かないうちに眠っていた。
重なるようにお互いの頭を乗せて、鐘の音が鳴っても分からないくらいぐっすりと。
そして、握りしめていた手はずっと繋がったままだった。
すると、コンコンとドアを叩く音が聞こえてきた。
ゆっくりとドアを開けて入って来たのは、執事の神崎だった。
実は、奏海からメールで後で迎えに来るように連絡受けていたのだ。
なので、桜羽と一緒にいた事の状況も把握している。
「奏海様、起きてください。ご帰宅のお時間でございます。」
「ん……神崎…来てたのか……悪い…気付かなくて…」
「いえ、ぐっすりと眠っておられたので気付かないのも無理はありません。」
「ありがとう…神崎。」
「とんでもございません。奏海様、桜羽様の方はどうなさいますか?」
「もしかしたら、朝一緒にいた友達がここに来るかもしれない。起こすのも悪いから、ここに寝かせておく。」
「かしこまりました。では、置き手紙書いておきますがよろしいですか?」
「そうだな。神崎、書くものくれるか?」
「はい。奏海様、どうぞ。」
神崎から紙とペンを受け取り、桜羽への置き手紙を書いた。そして、桜羽を起こさないようにそっと動かしてベットの上に寝かせた。
その横に書き終えた手紙を置いて、優しく布団を掛けてあげた。
気持ち良さそうに眠る桜羽の寝顔を見て、奏海は何かと重ねるようにそっと微笑む。
「奏海様、どうかされましたか?」
「いや、ちょっとな……そろそろ帰るか。」
「…そうですね。奏海様、お荷物お持ち致します。」
「ああ…ありがとう。」
奏海は神崎と一緒に大きな音を立てないように、静かに扉を閉めて保健室を後にした。
その後、神崎の運転する迎えの車に乗り帰っていった。
暫くして、奏海と入れ違いで誰かが慌ただしい音を立てて入ってきた。
「ん……んー…あれ…?虹菜…?」
虹菜は朝以来、全く桜羽の姿を目にしてないため気になって急いで様子を見に来たらしいのだ。
桜羽は、その音に反応してゆっくりと目を開ける。
体を起こそうとした時に、カサっと音を立てる。音がした方を見てみるとそこには、奏海が書いた置き手紙があった。
桜羽はその手紙を手に取り、なんて書いてあるのか見てみる。
「ん?桜羽、それ何?」
「嗎都くんからの手紙…みたい…」
「嗎都くんって…?」
「えっと…朝、私を助けてくれた人…?」
「あー…もしかして、あのイケメンさん?」
「……イケメンさん?」
「え、あのメガネ男子イケメンじゃなかった?すごくステキだった…」
「……う、うん…まぁ…分からなくはないけど…」
「でしょ?というか桜羽、その嗎都くんとさっきまでずっと一緒にいたの?」
「まぁ…うん。そう…かな…」
「いいな…私もいたかったな…」
「……あはは…」
虹菜は、さっきまで奏海と一緒にいた事を聞いて羨ましそうに桜羽を見つめ拗ねていた。
桜羽は、虹菜のその表情と言葉になんて言ったらいいか分からず笑うしかなかった。
「それで、その手紙にはなんて書いてあるの?」
「えっと……」
その手紙の内容は…"色々あって疲れたと思うから、ゆっくり休んで。少しでも元気になる事を願ってるから。もし…また何かあったら言ってね。"と書いてあった。
桜羽は、その手紙の内容を見て包み込むように胸に押し当てて心の中で"ありがとう"と感謝の言葉を呟いた。
「桜羽、良かったね。いい人に出会えて。」
「うん…男の子と話すのはあまり得意じゃないんだけど…なんか、嗎都くんとは話しやすかったなって思う…初めて会った感じがしないくらいに…」
「そっか…いいとか悪いとか関係なく、嗎都くんだから…もっと話したいと思ったから話せたと思うよ。」
「…もっと話したい…か…確かに私、嗎都くんの事もっと知りたいなって思って夢中になって話してたかも……」
「まだ完全ってわけじゃないけど…初めてなのに、話せたのはすごいと思う。桜羽頑張ったね。」
「虹菜……うん、ありがとう。」
桜羽は、男の子と話すのが苦手な自分が初めてとはいえ勇気を出して話せた事に嬉しく思っていた。あまりの嬉しさに奏海からの手紙を見つめて微笑む。それも、あの優しいイケメンのおかげ…?
「はくしゅん…っ!」
「おや?奏海様、お風邪引かれましたか?」
「なんか、寒気がした…」
「それはいけません。奏海様、ブランケットをどうぞ。」
「ああ……なぁ…神崎。」
「はい。」
「俺の勘なんだが…もしかして、誰かに噂されてるのだろうか…」
「噂ですか……奏海様はファンがたくさんいますし人気ですから噂されるのも当然ではないでしょうか?」
「……神崎のその言い方、嫌味に聞こえるし余計に寒気がしてきた…」
「お体が冷えないように、しっかり温めてからお眠りくださいね。」
奏海は、神崎の楽しそうな笑顔を見て猫のように丸くなり震えていた。
その奏海の可愛い姿を見て神崎は嬉しそうにしていた。