日常
地球には未確認生物という言葉が存在する。
「ネッシー」や「河童」など確認されていないだけで、その存在を証明するモノは数多い、だから人はいるかもしれないという期待を乗せ未確認生物と呼んでいる。
しかし今、未確認生物という名から害獣まで墜ちた生物がいる。
それが「龍」である。
もともとは神聖な生物とされていたが60年前、東京湾初の目撃情報が出たそれからは頻繁に確認され、見かけたらラッキーくらいの頻出度になった。
ここまでは害獣などと呼ばれる理由はない。
目撃から40年がたった時「龍」は常に上空を舞っているという認識で人々は生活していた。そして事件は起こった「龍」が人間を攻撃したのだ。大きく大木のような体から放たれる光線は鉄を溶かし町を一瞬で火の海に変え神奈川県鎌倉の町は死んでしまった
被害者は約8000人。この事件をきっかけに日本政府は「龍」を初の害獣に認定、「龍」を撃退するために対龍撃戦闘飛行船「空島」を開発した。
午後一時半、学校規定の制服を身につけ少年はいつものように大森神社に向かっている。
この神社は鎌倉で一番高い山の中に位置しているため少年の頬には汗が滴れていた。
今の季節は夏しかも午後一時半、一日の中で特に暑い時間帯に山を登るのは極めて異例で今日少年の高校、町では「龍」の目撃情報があり急きょ避難という形で早めの帰宅となったのだ。
「今日は、沢山、本を、読めるぞ……」
少年は息切れしながら神社の石段を登り始めた。
ここまでして来るには理由があったそれは本を読むためでもあるがもっと大切な理由それは「思い出の場所」だからだった。
少年に怒ってくれる両親はいない、あの事件から20年が経過し鎌倉は大復活を遂げていたが一方で謎の事件がここ数年多発している。
被害者は皆「龍」の岩石のような爪で引っかかれた痕がありその深さは心臓まで届くという。しかし驚くことにこの仕業は「龍」ではなく人間によるものだったのだ、少年の両親はこの事件に巻き込まれ死亡した少年はまだ9歳だった。
「よいしょ」
少年は最上段に腰をおろし、さほど重くないバックから本を取り出す。
最上段からは鎌倉が一望できるこの場所こそが両親との思い出なのだ。
少年はいつものように読書を始めた。
何時間が経過しただろうか少年は獣の叫び声で我にかえった
肩をビクッと震わせ初めて見る「龍」に圧倒される。
今まで聞いたことがないその声は少年の耳に焼き付き離れようとしない。
「ホントにいるんだ……」
少年は「龍」と「空島」の戦闘を眺めながらそっと本をバックにしまった。
次の瞬間
「空島」からの攻撃をまともに食らった「龍」がその大木のような体をうねりながら神社に落下してきたのだ。
「嘘だろ!……」
少年はバックを見捨て近くにある神社に身を寄せることにした
「龍」は落下途中でなんとか踏ん張りを見せたのだが「空島」の攻撃にその体は明らかに弱っている。
すると「龍」は停滞していた体を動かし少年のいる神社の方に向かってきた。そのスピードは速く一瞬で最上段で見捨てたバックを通過する。
少年はバカではない、「龍」の強さを知っているだから何も抵抗せず死というものを受け入れようとしていた。
「君に食われて光栄だぁ!!!!」
少年はいままで出したことのない大きさでそう叫んだ。
その声は鎌倉を包むほどに
「ごほぉ!」
次に少年が目を覚ましたのは口から血を吐いたとき
「どうなっているんだ……」
少しの思考停止
それも当然、周りは粉々になった神社の柱と大量の血が散らばっていたそこに「龍」の姿はない。
少年は自分の血ではないのか体を確認するも傷一つない体はまさに思考停止する理由になっていた。
「お前は俺を食った」
いきなり聞こえた太い声に少年は混乱する
「誰、だ?!」
「お前に食われた龍だ正確に言うと体に乗り移った」
少年はこの声の主は外部ではなく内部からよって体から伝わるテレパシーだと推測する。
周りを見渡しても龍の姿はない
少年は考えるこの状況そして「龍」の言っている乗り移ったということ、だけど散乱した血については謎が深まるばかり
少年はバカではない、思いっきり深呼吸をして「龍」とやらに問いかけた。
「龍は豆になれるのか?」
「龍」は予想外の質問に過呼吸になったかように笑う
だか少年は至って真面目だった。この質問の意図はもし「龍」が変化できたら一度一口サイズの何かに変わり少年がそれを食べたら……これは可能かもしれない。
「お前は頭がいいみたいだな、実際その通りだ」
さすがは「龍」と思ったがじゃあこの血は一体……
「それはお前が吸収しきれなかった血だ」
「龍」は少年の脳に直接語りかけた。例え変化したといえ小さくなっても体の中の容量自体は変わってないらしく、この血は食べたあとに溢れかえったものだという。
「龍」はテレパシーに慣れたようでいきなりこんな質問をしてきた
「長い付き合いになりそうだしお前の名前を聞こう」
少年は妙な上から目線に細目になりながらも「龍」の質問に答える。
「僕の名前は新川いつきだ、漢字の新しいに……」
「それ以上は分かっている。新しいの新に川だろ、それでいていつきは平仮名、考えてることが分かるのは便利だな」
「……」
いつきは何も言い返せなかった
ただひとつ思ったことが(この能力はいらねぇ……!)