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えっ、何で死んでへんねん?  作者: ひめさん
12/13

一二、結婚パーティー

 浩一は相川家から帰ると、その一部始終を寿子と幸司に報告した。すると、幸司が駄々をこね始めた。

「お兄ちゃんだけずるいよ。どうして、敬伯父ちゃんは、もう一人妹を作らへんかったかな! そしたら、僕にもおじいちゃんとおばあちゃんができたのに! あー、僕も田舎がほしいがなー!」

「幸司、そないに言うんやったら、遊びに行ってきたらどうや? 相川おじいちゃんもおばあちゃんもすっごく優しいから、敬伯父ちゃんの妹と俺の弟ってことなら、喜んで迎え入れてくれると思うで。さおりさんから電話してもらおか?」

「えー、いいのかなあ・・・?」

「そうね・・・。私も田舎には憧れがあるし、結婚式までに一度、ご挨拶に伺った方が良いとも思ってたし・・・」

「じゃあ、任せてよ! とっても良い人達だから、喜んで迎え入れてくれるはずや」

浩一は、ウキウキと、なぜかさおりや敬司ではなく、敬美に電話して伝えたのだった。


敬司とさおりが幸村の家に移り住んで三ヶ月が過ぎ、いよいよ年の瀬を迎えようとしていた。敬司もこの頃には、一人で歩けるようになり、身の回りのことも自分でできるようになっていた。そして、年明けから教育者として、再スタートを切ることになった。

さおりは、敬美と相談しながら、年越しと正月の準備、敬司の再就職への手伝い、そして二人の結婚への準備に追われていた。

「あなた、相川お義父さん、お義母さんところへの里帰りは、いつにします?」

「そやな・・・、初出勤は、五日やと聞いているけど、研究室は四日から開けるて言うてたから、一応、四日には顔を出そうて思うてる。そうなると二日に行って、三日には帰ってきとらんとな・・・」

「寿子さんと幸司君も一緒ですよね?」

「ああ、この前、行った時に確約済みらしい。まったく何をやっとるんやら・・・」

「いいじゃないですか、お義父さんもお義母さんもみんなで里帰りしてくれることを楽しみにしてるんですから・・・」

「そやな・・・。幸司も夢だった田舎と、おじいちゃん、おばあちゃんが実現したんやからな・・・」

「ふふふ、お義父さんとお義母さんから電話があって、たくさんお礼を言われました。二人で寂しく死んでいくものだと思っていたら、こんなにたくさんの家族ができたって、あなたにくれぐれもお礼を言っといてくれって・・・」

「そうか・・・。収獲した里芋までたくさんいただいて、お礼を言うんはこっちの方なんにな・・・。ホンマに有り難いこっちゃな・・・。さおりさん、しっかりと親孝行しなきゃな・・・」

さおりが脹れて返した。

「あー、また、さん!って言った! もう・・・」

「あー、すまん、すまん、えーっと、さおり、帰省の日程、相川お義父さんとこと、寿子んとこにも連絡しといてくれるか?」

「はい、分かりました。あ・な・た!」

さおりは、嬉しそうに微笑み返していた。その様子は、既に夫婦そのものだった。


 四月の新年度を迎えると敬司の忙しさは、ピークに達した。次年度の学科長へのスムーズな交代を見据えて、大学側から客員を外され、枠外での正職採用とされたのだ。そして、さっそく学科長補佐の教授として、研究や教育以外に学部運営や会議への参加も求められたからだ。既に決まっていた学会での理事就任や、各関係機関や各部署への挨拶回りもあり、土日もなく飛び回らざるを得なくなっていた。さすがにこれには、さおりも敬美も文句を言い始めた。

「お父さん、いい加減にしてよね! まだまだ病み上がりなんだからね!」

「そうですよ。少しセーブしていただかないと本当にお身体に障りますから・・・」

「私もさおりさんもこうして帰りをずっと待っていたのよ・・・」

「そうは言うてもなあ・・・。それに夕食は待たんと先に食べといてくれって言うとったじゃろう。俺だってな、これ程忙しくなるとは思わへんかったよ。まあ、学会総会が終われば少し落ち着くはずやから・・・」

そこに浩一が現れて言った。

「親父ー、ちょっと発表原稿の最終確認してーな!」

それを聞いた敬美が浩一を睨み付ける。さおりも頬を膨らませて訝しげな顔をして声をあげる。

「「浩一さん!」」

「へっ、俺、何か悪いことした?」

「ハッハッハッ、浩一、お前、バッドタイミングやな! まあ可愛い義息子の頼みだ。よし、俺の書斎に行くぞ。着いて来い!」

敬司がその場を逃げるように部屋に向かう。それをまだ理解できぬまま、浩一が後を追う。

(えっ、いったい何があったの? 俺が悪いの? 敬美ちゃんに嫌われたの? えー)

「敬美ちゃん、親父―、何があったん? 勘弁してよ!」

オロオロする浩一を見て、さおりが吹き出した。同じく敬美も仕方がないなあと笑い始めるのだった。

 

 こうして、七月の最終土曜日に東京で、八月第一土曜に神戸で、敬司とさおりの人前結婚式とパーティーが行われた。敬司は、二度も恥をかきたくないと、どちらか一方での開催を主張したが、みんなに反対された。その上、神戸では、一時、浩一と敬美も一緒にしてはどうかとの話が起こりかけたが、それだけはと敬司が固持した。敬美とバージンロードを歩くと由美と約束したからという理由だったが、やはり、少しでも長く娘といたいというのが本音だったのではなかろうか? 実際のところ、敬美も就職したばかりで、まだ落ち着いてないからということで話は収まったのだが・・・。

 東京での結婚式は、山田卓也と大友博和が中心になって、ボランティア仲間でよくやる会費制立食パーティー形式で行われた。当初、参加者は一〇〇名程度と目されていたが、準備を進めていく中で、二〇〇名は下らないことが分かり、大人数のパーティーに慣れている敬司と親しい学会関係者や敬司の元部下にも実行委員になってもらった。そして、知り合いの伝で、融通のきく会場に手配し直したのだった。SNSで拡散した二人の話を聞きつけて、昔のボランティア仲間に加え、敬司の友人や敬司を慕う部下・大学関係者、さらに学生時代から敬司に世話になっていた関東周辺の放射線技師達が参加を希望してきたからだ。昔のボランティア仲間の中には、メディア関係で有名になった者がおり、彼の音頭で、敬司とさおりの馴れ初めを紹介する再現ビデオまでも作られていた。寿子と幸司に連れられて会場入りした祐二と佳枝は、あまりの人の多さに驚いた。受付で会費を払い、参加者名簿にチェックすると、首から下げる名札を渡された。縁取りが赤色の名札は親族で、青色の名札が医療関係、黄色の名札がボランティアや友人関係と色分けされており、当然、赤色は六人だけと少なく、大いに目立っていた。おかげで、多くの方々から祝いの言葉を受けることになった。

「ご家族の皆様、おめでとうございます。それにしても、さおりさんが羨ましいです」

「そうそう、周りのみんなも、相川先生を狙っていたからね。あなたもだったわよね」

「えー、バレてた? でも相川先生って、ホント鈍感だから。まったく気付いてくれなかったんだもの!」

「相川先生って、ボランティア女性陣の憧れの的だったもんねえ。私、姉御肌だったから、そんな相談いっぱい受けたわよ。あーあ、私だって、誰かに相談したかったのに・・・って。すみません。でも、さおりさんはそれだけ、良い人を仕留めたってことですから、お父さんもお母さんもどうかご安心ください」

「そうなんですか?」

「相川さんって、そんなにモテていたんですの?」

「はい、でも、本人がそれをまったく気付かないんですから・・・。多分、今後も浮気は、まず、ないでしょうね。と言うことで、本当に優良物件を捕まえたと思いますわ。まあ、先生の場合、他人の世話を焼きすぎて、奥様の方を疎かにしてしまわないかという心配はありますけどね・・・」

「まあ、そうなったら、私達に言ってください。私達が相川先生にガツンと言ってやりますから・・・。さおりさんにもそう伝えておいてくださいね」

「「そうですか、どうぞ、よろしくお願いいたします」」

そんな話をしていると、司会が音頭をとって人前結婚式が始まった。祐二達にとっては初めてだったが、参加者全員が証人となって、二人の結婚を認めるというものだった。続いて定番のケーキカットと乾杯が行われると、その後は挨拶もなく、自由な歓談となった。

祐二達のところには、○○病院院長だの、○○大学医学部教授だの、某医療機器メーカーやIT企業の役員だの、明らかに社会的地位の高い人達が引きも切らず挨拶に来て、浩一と幸司の二人以外は、緊張しまくっていた。

「ねえ、寿子叔母さん、お父さんって、本当に偉い人だったんだね」

「そうね。いつも冗談ばっか言って、笑わせてる姿しか知らへんから、私もちょっとビックリしてるわ。浩一は知ってたのよね・・・」

「まあ、医療関係はね・・・。でも、ボランティア関係の方までは知らんかったよ。中には、けっこうすごい人がいるよ。ほら、あの人、よくTVで解説してはるし、あの人は人気俳優の○○さんだし・・・。俺も今回のことがなかったら、話をすることさえなかったと思うわ・・・」

みんな敬司の友好関係の広さに驚いていた。

始まって一時間ほどすると、アナウンスに続いて写真とビデオの上映が始まった。先ずは、敬司の両親と中学三年の敬司、小学四年の寿子が家の前で写っていた。そして、両親の葬儀で挨拶をする敬司と寿子、敬司の高校、大学、就職後の様子やボランティア活動の場面、由美や幸恵との写真、さらに学会発表や学位取得時の写真など、敬司のこれまでの歩みが、時折、友人達のコメントも含めて、映された。次いで、さおりの孤児院時代から、中学、高校、看護学校・・・と紹介された。中でも良一との結婚式の写真が映ると会場から、「おー、やっぱり似てんだ!」との声があちこちから上がった。そして、最後に、事故から同居にいたるまでの再現ビデオが上映された。敬司役は友人の俳優が、そして女優である彼の妻がさおり役を演じていた。その内容は、浩一と敬美が話したもので、最初、それを聞いた彼らビデオ制作関係者は驚愕していたが、聞き終えてからは「まあ、敬司さんだから・・・」とか、「そうだね。敬司君だからね」などと言って、普通に納得していた。中には、「この話、ドラマ化できるんじゃない?」などと言う者もいた。それ故に制作には熱が入り、その素晴らしい上映は、涙と笑いと歓声に包まれた。敬司は恥ずかしさのあまり、消え入りたかったが、さおりにしっかりと腕を取られており、赤面して立ち尽くすしかなかった。一方、さおりは、満面の笑顔で嬉し涙を流していた。そして、最後は、定番の両親への花束贈呈だった。孤児のさおりにとっては、これだけはどうしても外したくなかったのだ。天涯孤独となった自分を美子と義両親が支えてくれた。三人がいなければ、もしかしたら自分も良一の後を追っていたかもしれないからだ。さおりはそんな思いを感謝の手紙として書き、涙ながらに読み上げた。そして、祐二に花束と共に手紙を渡し、敬司も佳枝に花束を手渡した。四人が並んで最後に敬司の挨拶というところで、涙ぐむ祐二が声をかけた。

「敬司君、私にも一言お礼を言わせていただきたい・・・」

敬司は、頷くとすぐにマイクを渡した。

「突然、すみません。私達にも一言お礼を言わせてください・・・。あの、私の名札には、新婦・父と書いていますが、知っての通り、さおりさんの本当の父親、母親ではありません。八年前に亡くなった前夫の、一人息子の親です。つまり、義理の親で、さおりさんとは血は繋がっておりません。本来、このような場には、呼ばれることさえないと思います・・・。息子が亡くなって、私達は寂しい思いをしてきました。親戚もほとんどいない私達は、再婚しようとしないさおりさんを本当の娘のように思うことで寂しさを紛らわすというか・・・、甘えていたのだと思います。でも彼女の幸せを考えると、早く誰か良い人のところに嫁がせなければ、とも思っていました。もちろん、嫁がせればさおりさんとも縁が切れてしまいますが、たとえ、寂しくなったとしても、二人だけで生きていこうと覚悟していました。ところが、さおりさんは敬司君を連れてきた。写真で見たと思いますが、歳は違うものの、彼は私達の死んだ息子にそっくりでした。その彼が言ったんです。自分達兄弟は、幼い頃両親を亡くし、寂しい思いをしてきた。だから、私達夫婦をお父さん、お母さんと呼ばせてほしい、私達の住むところを自分達の故郷にさせてとほしいと、そう言ってくれたんです。その時、私達は、義娘がもう一人の息子を連れて帰ってきてくれたと思いました。さらに彼の娘や甥達まで、おじいちゃん、おばあちゃんと言って慕ってくれる・・・、私も妻もこんな幸せがあっていいのだろうかと二人で泣きました・・・。あっ、すみません。こんな告白めいたことを言って・・・。つまりです! こんな優しい二人であり、そして優しい家族なのです。どうか、二人を、孫達を、いえ、私達家族をこれからもどうぞよろしくお願いいたします!」

そう言って、祐二は深々と頭を下げた。同時に佳枝と敬司、さおりが頭を下げた。みんなが聞き入り、静かに泣く人ばかりだった会場から、この一番の盛大な拍手が起こった。四人が顔を上げると、そこには涙を流す笑顔が溢れていた。

「敬司! 何か言え!」

誰かが叫んだ。敬司は、慌ててマイクをもらうと、一息ついた。

「お父さん、ありがとうございます。感激です! でも、ちょっと持って行き過ぎですわ。俺、もう、何も言えねぇ!」

会場に笑い声が響く。

「おっ、久々に受けたで・・・。てか、すんません。実は久々に揚がってしもうてて・・・、それに言いたい思いは、お父さんがみな言うてくれました。みんな、おおきに! 僕らのために、こんな素敵な式をしてくれて、ホンマにありがとうございました。そして、亡くなった由美と美子お母さん、良一さんに、それから、幸恵と残念ながら来られんかった幸恵のお父さんとお母さんに・・・、本当にありがとうございました。これから、僕ら家族をどうぞよろしゅうお頼み申します。本日は、本当にありがとうございました!」

「いよっ、いいぞ! 敬司!」

「おう、これからも応援してるからな!」

「敬司! 頑張って家族を増やすんだぞ! かわいい赤ちゃんの顔を、じいちゃん、ばあちゃんに見せてやれよ!」

「そうだ、そうだ。期待してるぞ!」

盛大な拍手と共に、声援というか、半分やじと言うか、参加者から喜びの声が溢れていた。そこに、司会者のアナウンスが鳴る。

「皆様、本日は誠にありがとうございました。なお、ここで、暴露いたしますと、実は既にさおりさんのお腹の中には、新たな命が宿っています。現在、妊娠三ヶ月に入ったところで、赤ちゃんの誕生は、来年の二月を予定しておりますので、皆様、楽しみにお待ちくださいませ!」

「「な、なんだと!」」

「「やったー!」」

「敬司! やることはやってるんだな!」

「「「おねでとう!」」」

盛大な拍手と歓声は鳴り止まず、会場には幸せな空気が溢れかえっていた。

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