真夜中の赤子と満月の狼男
ロドルフとライラ(王女ダイアナ)の出会いです。
ロドルフ視線です。
その日は満月だった。
フォスター家は昔、王家の次期国王だった。だが、就任式の日に狼人に襲われ、狼人になったことで王家を追放された。王家特有の黒髪に、狼人特有の琥珀色の目。人々には気味悪がられ、動物には逃げられる。仕方がないことだ。赤子でも泣くほどだからな。でも龍にしたら所詮は人間で。だからこんな人もどきにもパートナーができる。
「ルディ。赤子がいる」
「わかっているよ、フェリシア。大丈夫」
全く。人が心地よく夜の森を散歩しているというのに、この相棒は。月さえ見なければ大丈夫なんだ。心配するほどのことじゃない。
「違うよ、ルディ。赤子だよ」
「だから大丈夫だって。……え?赤子だって?」
「だからそういっているじゃないか。人の話を聞けよ」
まさか。そんなはずはないだろう。真夜中の森に赤子を捨てるなど、正常な人間のすることじゃない。それも、満月の日に。
「こっち。ついてきて」
夜目のきくフェリシアに案内されたのは、大樹の根元。くぼんでいるところに毛布で包まれた赤子がいた。黒髪だ。
「そういえばいたな、正常じゃない人間がこの国のトップに」
正確には正常じゃない人間の血筋だが。しかし、王家の人間がわざわざ跡目となる子供を捨てるはずがない。狼人に噛まれたか、双子が生まれたかしなければ。
「狼人に噛まれた可能性はないよね。だってルディがルディ以外の狼人をみんな殺しちゃったんだから。……たぶん」
「たぶんってなんだよ。……はぁ。それにしても可哀想だな。どうする?」
「どうするって、ルディが決めなよ。天敵の子供。王家に送り返すもいいし、育てて双子が生まれたと世間に知らせてもいいし、もちろん殺してもいいんだよ?」
「……」
助けるっていう選択肢はないのかよ。
「あれ?なんだか不満そう?あぁ、助けたいのか。なるほど。助けてもいいんじゃないか」
「お前はいいのか?」
「あたい?別にいいよ。何の恨みもないからね」
「わかった。後で不満を言っても聞かないからな」
ふんっと鼻であしらわれた。それにため息をついて赤子に近づいた。抱き上げると目を開く。しまった。今に泣き始めるぞ。大声で。そう思った直後、赤子が嬉しそうに笑った。
「珍しいねぇ。笑ってるよ、ルディを見て。それにしても珍しいね。金と紺色のオッドアイ。禍と幸運が同時に付くとは。まぁ、この子だからか」
「そうだな。……ん?どうかしたか」
フェリシアを見ると少し様子がおかしい。
「別になんでもないよ。大丈夫。早く帰るよ」
はぐらかされたが俺は特別気にせず、急いで帰った。