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でんでん太鼓(1)

"でんでん太鼓"は今はもう子供たちには忘れられている玩具です。A君はこの"でんでん太鼓"を明治の頃から作っている会社に高校を卒業して就職しました。"でんでん太鼓"は30センチほどの大きさで10センチの丸い小さな皮張りの太鼓がついており、二つの玉が赤い紐で太鼓の横面に付けられている玩具です。A君は赤い紐と玉を太鼓に取り付ける作業をしています。毎日、玉に紐を取り付けるのが面倒で嫌でたまりません。いい加減に取り付ける事もあり、出来上がりを見た大将に怒られることもしょっちゅうです。


A君は久しぶりの休みで町に一人で遊びに出かけました。これという目的もなく歩いていると、高校の時の同級生にばったりと出会いました。同級生は懐かしそうに、A君に近寄って来ました。そして、A君に「君は、今どんな仕事をしているんだい」と聞きました。A君は「今、楽器を作る仕事をしているんだ。若い人たちに人気のあるドラムだけどね」と答えました。恥ずかしくて"でんでん太鼓"に玉のついた紐を取り付ける仕事をしているとは言えなかったのです。A君は同級生と別れたあと、賑やかな色とりどりの町を歩いていても気持ちはよくありませんでした。


沈んだ気持ちのまま、歩いていると向こうから赤ちゃんをおんぶしたお母さんが歩いて来ました。ちょうどA君の前に来たところで、今まですやすやと寝ていた赤ちゃんが何に驚いたのか大きな声で泣き出しました。大声で泣く赤ちゃんに困り果てたお母さんは、A君の横で立ち止まり、おもわぬ物をベビーバックの中から取り出しました。それは、赤い紐に玉がついた"でんでん太鼓"でした。間違いなく私が取り付けた"でんでん太鼓"でした。


お母さんは"でんでん太鼓"を泣いている赤ちゃんの顔の前に近づけました。赤ちゃんをおんぶしていたので振りづらそうでしたが、"でんでん太鼓"はとてもいい音で鳴りました。今まで泣いていた赤ちゃんは"でんでん太鼓"の音に安心したのか、泣き止みにこにこと笑いだしました。お母さんは横で見ていたA君に気づき、「この子は"でんでん太鼓"がとても好きで鳴らしてあげるとこんな風に泣き止むんですよ。この玉がついた赤い紐がお気に入りみたい」と嬉しそうな顔をしました。


A君は今まで落ち込んでいた気分が良くなっていくのを感じました。そして"でんでん太鼓"をすべて作らせてもらえるまで、頑張ってみようと思いました。A君が歩き出してしばらくすると、お母さんが赤ちゃんに聞かているのでしょうか、子守唄が聞こえてきました。


ねんねんころりよ おころりよ

坊やはよい子だ ねんねしな

坊やのお守りは どこへ行た

あの山越えて 里へ行た

里の土産に なにもろた

でんでん太鼓に しょうの笛


子守唄が終わると同時に、"でんでん太鼓"のぽんぽんという音が聞こえました。A君はその音がこんなに"やさしい"音だと初めて気づきました。


終わり



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