第三十七話「光輪」
蜻蛉大学構内、暗闇に包囲された通りの中で、茉莉はフラワノイドと対峙していた。
コスモスの咲く路面を蹴りつけ、特殊装甲に身を包んだ彼女は敵との間合いを詰める。
「はあぁぁぁぁ!」
雄叫びと共に茉莉は腕の装甲から伸びた白い〈ブレード〉を振り上げた。
直後凄まじい速度で放たれた一閃の斬撃を、フラワノイドは左腕で体を庇うようにして受け止める。
丸太のような怪物の腕は後ろへ弾かれたが、その時にはすでにもう一方の手で反撃していた。
フラワノイドの拳は大きな動きで風を切りながら、茉莉の顔面へと迫る。
青いレンズ越しにその様を見た彼女は、右腕を振り抜いた体勢のまま瞬時に左手を突き出した。
次の瞬間、フリーファイターの手は怪物の拳をがっちりと掴み受け止めてしまう。
それもよほど強い力で掴んでいるのか、武骨な体つきをした怪物であれど振りほどくことは困難なようだった。
「ふふ……どうした? そのガタイは見せかけなのか?」
「潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス」
「そうか、なら早くやってみせろ。そうでなければ、私がお前を潰してしまうぞ?」
楽しそうに挑発する茉莉の声に、フラワノイドは苛立たしげに歯を打ち鳴らした。
かと思うと、腰の辺りから生えていた六本の茎が長く伸び、その先端で咲いていた装飾花が高速で回転し始める。
電動ノコギリの丸い刃のついた茎は鞭のようにしなり、フリーファイターに襲いかかった。
「ふんっ」
それを見た茉莉は怪物の手を放し、タイル張りを蹴って後ろへ跳び退く。
回転する装飾花は彼女が立っていたはずの場所に突き刺さり、瞬く間に六筋の傷を刻みつけた。
獲物を仕留め損ねた茎はうねりながらさらに伸びて、少し離れた場所へ着地した茉莉を追撃する。
「ふっ、面白い」
それでもその余裕が揺らぐことはないらしく、本当に面白がっているような声で言うと、彼女はその場で左腕を一振りする。こちらからも〈ブレード〉を展開させ二刀流と化した茉莉は、むしろ自ら攻撃を迎え討つ。
両腕を振るい一つ二つ三つと連続で敵の兇刃を払い退けながら、彼女は再び駆け抜けた。
「ずいぶんと軽いな……その程度で、秋津学園生徒会副会長を討ち取れるとでも?」
全ての装飾花を弾き返し、フラワノイドの目の前で跳躍した茉莉は醒めた声で問う。
彼女は宙に浮いたまま上体を捻り、両腕の〈ブレード〉の切っ先を後ろに向けるように構えた。
肩越しに相手を見下ろした刹那、〈白兎・叢雲〉を纏いしフリーファイターは二連の斬撃を放つ。
「笑わせるな」
「潰ズゥゥゥゥ!」
怪物も腕を振り回し応戦するも、目にも留まらぬ速さで繰り出された彼女の〈刃〉を止めることはできず──
次の瞬間には体に装着していた木の根の鎧を切り裂かられ、フラワノイドの胴体に二筋の傷が口を開けていた。
「ギィアガアッ⁉︎」
「もらった」
怪物が悲鳴を上げながらよろめいた瞬間を見逃さず、茉莉は鉄拳を食らわせるようにまっすぐに右の拳を突き出す。
その腕から伸びる〈ブレード〉が、フラワノイドの胸の真ん中辺り──人間で言えばちょうど心臓のある位置だろう──に深々と突き刺さった。
セカンドリアリティで創り上げられた特殊装甲越しにも、彼女は確かな手応えを感じる。
それから茉莉が勢いよく得物を引き抜くと、せき止められていた赤い血液が鉄砲水のように噴出された。
その様子を見た彼女は勝利を確信する──のも束の間。
紫陽花を頭から咲かせた怪物の体に突如としてひびが走り、かと思うとみるみるうちに崩れてしまう。
「なに?」
思わずそう零した茉莉の目の前で、固まった土の塊が砕け散るように茶褐色の皮膚が剥がれ落ち、その中から何かが飛び出して来た。
鎧を脱ぎ捨てたそれは軽やかに跳躍し、フリーファイターの頭上を飛び越えると、空中で一回転してから彼女の背後に降り立つ。
──手応えはあったはず。いったい何故⁉︎
咄嗟に茉莉が振り返ると、新たな姿となったコラプサーの主が立ち上がったところだった。
怪物は踵を返し、再び彼らは向かい合う。
フラワノイドの体は皮や肉といった物をほぼ全て削ぎ落としたかのような状態──つまり、全身の骨が剥き出しとなっていた。まるで学校の理科準備室にでも眠っていそうな人骨標本に、ところどころ赤黒い筋繊維が絡みついたようなグロテスクな姿である。
また、細い首の上にはこれも人と同じ頭蓋骨が乗っているのだが、本来なら目の窪みにあたる位置には大きな穴がり割れてしまっている。
そして、そこには無数の小さな花びらを持つ紫陽花──ガクアジサイという品種の物なのだが、茉莉にはわからなかった──が生えており、その花が内側から頭蓋骨を押し破って咲いているようにも見えた。
「潰ス」
髑髏の下顎を動かし、花の咲く人骨はそれまでとは違って短く言いきった。
その低い声を聞いた茉莉は、本能的に相手の戦闘能力が格段に上昇していることを感じ取る。洗練された戦士の放つ闘気に似た物を、フラワノイドは醸し出しているのだ。
「……ふふ、なんだ。思いの外楽しめそうじゃないか」
マスクの下で彼女は笑い、腰を落とした。
足を開き〈ブレード〉の生えた両腕を、それぞれの切っ先を相手に突きつけるように構える。
「来い。秋津学園生徒会の名において、貴様を排除してやる」
「……潰ス」
それぞれの口上を述べた戦士たちは、直後殺し合いを再開した。
そこから先の戦闘は凄まじく、常人なら目で追うことすら難しいだろう。
フリーファイターの振るう〈ブレード〉とフラワノイドの突き出す拳が幾度となく激突し、その度に衝撃の波が暗闇の中を揺らした。
やがて拮抗した戦況を打破すべく、茉莉は強烈な回し蹴りを放つ。
が、フラワノイドの顔面を完全には捉えることができず、彼女の踵はわずかにガクアジサイの藍色の花びらを散らすのみに終わった。
上体を反らして直撃を免れた骸骨は、反動をつけると共に一瞬にして間合いを詰める。
「潰ス」
「くっ」
骨とわずかに残った筋肉のみでできた拳が、〈戦闘用スーツ〉の白い横っ腹を強く殴りつけた。
痛烈なダメージを与えられ、初めて茉莉は苦しそうな声を漏らす。
吹き飛ばされかけるのを彼女は脚を下ろして踏ん張り、どうにか持ち堪えるが、その間にも容赦のない追撃はすぐ目の前に迫っていた。
「潰ス」
骸骨が先ほど攻撃を放ったのと同じ腕を振りかぶると、肘関節の辺りから先が回転し、周囲の筋繊維がミシミシと音を立てながら捻られて行く。
ゴムの束を限界まで絞ったような状態となったそれは、フラワノイドが右ストレートを放つと同時に解放され、逆向きに回り始めた。
ドリルのように高速回転するパンチは、何者にも阻まれることなく、まっすぐに茉莉の顔の左側へ吸い込まれて行く。
「がはっ」
その威力は絶大であり、殴られた場所の装甲やレンズが砕け破片が盛大に飛び散った。
今度の攻撃は耐えきることができず、彼女は大きく体勢を崩す。
「潰ス」
そこへ先ほどのお返しとばかりに、骸骨は細い脚をしならせ鋭い回し蹴りを喰らわせた。
横から腹を抉られる形となった茉莉はあえなく吹き飛び、背中から路面に落ちる。
「ちっ……くそ」
悔しそうに毒づいた彼女はすぐには起き上がることができず、代わりに首を曲げて敵の方を睨みつけた。マスクの左側が割れてしまっており、目やその周囲の素顔が露わとなっている。肉体にもダメージは到達しているらしく、額から血が流れ伝い筋を作っていた。
対するフラワノイドは両脚を重ねるように立っており、倒れたままの人間を無言で見下ろている。
──地面に寝転がされるなんて、いつ振りだろうな……これは、思わぬ強敵と出逢ったものだ。
胸の中で苦笑気味に呟いた茉莉は、まるで立ち上がることを諦めたかのように天を仰いだ。
が、しかし、実際には戦闘を放棄したわけではなく──
ブリッジをする要領で両手を頭の横につけた彼女は寝転がったまま路面を蹴飛ばし、体を浮かせた反動を利用して縮んだバネが伸びるように起き上がった。
首跳ね起きをした茉莉はしゃがむような体勢でその場に着地すると、膝を伸ばして上がる。
「ふふふ……ふはははは!」
笑い声を上げた彼女は装甲を砕かれた顔を向け、髑髏を見返した。
「いいぞ、骸骨。もっと私を楽しませてみろ!」
強敵との邂逅を心から歓迎しているらしく、茉莉の左目は妖しい光を宿している。
彼女は手のひらを上に向けるように右腕を伸ばすと、目線の高さに上げた人指し指をクイクイと動かした。
「来い」という合図だろう。
やはり挑発的な姿勢を崩すことのないフリーファイターに、頭から花を咲かせた骸骨は、剥き出しの歯を打ち鳴らした。
かくして、熾烈を極める彼らの殺し合いはより激しさを増して行く、かのように思われたその時。
新たな異形の存在が巨大な翼を羽ばたかせ、大空より舞い降りる。
フラワノイドの背後に着地した漆黒の天使の姿を見て、茉莉は瞬時驚愕した。
だが、すぐに呆れたように息を吐く。彼女も心のどこかで、彼の登場を予想していたのだろう。
これまでどおり、黒い天使はコラプサーの中に現れると。
「……やれやれ、ここからがいいところだったのだがな」
残念だと言いたげな口調で彼女が呟いたのと、
「……」
フラワノイドが無言のまま振り返ったのとはほぼ同時であり、その時にはすでに怪人は足を伸ばしていた。
それから風切羽を収納しつつ翼を折りたたんだ彼は、こちらも体を相手に向ける。
天使の顔はどこかで爆撃でも喰らって来たのか、右半分の外殻が剥がれ落ちており、所々焼け焦げ内側の筋肉が露わとなっていた。
痛々しい傷を負った様子を見て、茉莉は「誰かと一戦交えて来たのだろうか?」と少々不思議に思う。
燃え上がるような怒りを宿した赤い二つの瞳──うち片方は眼球その物が見えている──によって睨まれた骸骨は、こちらも苛立たしげに下顎を動かした。
「……偽リノ天使……ブッ潰ス」
対戦相手を天使へとシフトさせ、フラワノイドは両の拳をきつく握り締めた。
*
「……やってみろよ。俺がお前を殺す前にな」
魔法陣の上に立った俺は、見ないうちにずいぶんと痩せ細っている怪物に答えた。
まるで人骨の頭に無理やり紫陽花を植え付けたかのような姿に、よりいっそう嫌悪感が増すのがわかる。
また、その背後には梔子先輩が立っており、頭部装甲の損傷具合を見るに珍しく押されていたらしい。
フラワノイドが彼女にダメージを与えているのを見るのは初めてだった。ただ体の肉を脱ぎ捨てた、というわけではないようである。
もとより油断してなどいないが改めて気を引き締めつつ、俺は「神の指」を握る右手を真横に挙げる。
「気をつけてくださいね、シオンさん」
すぐ後ろからステラの声が聞こえ、俺は前を向いたまま頷いた。
「ああ」
「……それから、もうあんな無茶はしないでください」
「……わかってる」
静かな口調で咎められ、仕方なくそう答えておく。
よほど心配をかけさせてしまったのか、彼女は心なしかかなり不機嫌そうだった。
しかし、今はそれに構ってなどいられない。
さっさとこの骸骨を解体してやらなければ。
と、すぐさま攻撃を開始しようとしたところで、不意に右手に柔らかく暖かな感触を覚える。
なんだろうと思いつう横を見ると、いつの間にか同じ魔法陣に乗っていたステラが俺の手に自らの左手を添えているではないか。
「ステラ?」
名前を呼ぶと、彼女は拗ねたようにそっぽを向いたまま答えた。
「シオンさんがまた『神の指』を離してしまわないよう、仕方ないから握っててあげます」
意外な言葉にどう切り返したものかと迷っていると、ステラは髪を揺らして顔をこちらに向け、大きな黄金の瞳で俺を見上げる。
「だから……だから、私も一緒に戦わせてくだい」
彼女はいつもとは違い、優しげな笑みを浮かべて言った。
その表情は、ここへ来る前に椚原さんが見せてくれた物とどこか似ている。
「……わかった。こっちからも頼むよ」
互いに微笑み、言葉以上の何かを伝え合った俺たちは、同時に倒すべき敵の方へ体を向けた。
もちろん、手は繋いだままで。
視界の先で、フラワノイドは待ちきれないとばかりに姿勢を低くして飛び出す準備を完了している。
「行くぞ」
「はい!」
短いやり取りを交わし、俺たちは「神の指」から文章を紡いで行った。
〈相手の元へ向かって駆け出して行き、鉄拳を喰らわせる〉
真っ赤な文字背中で吸収し、ネフィリムはその場から弾き出される。
「潰ス!」
それはフラワノイドも同じであり、次の瞬間白と黒の二つの異形の影は激突していた。
クロスカウンターをする形で互いに顔を殴りつけながら、どちらも血反吐を吐き出す。
ロケットで爆撃された場所をさらに抉られる様は見ていて痛々しいが、かと言って腕を止めるわけにはいかず、俺は即座に次の指示を飛ばした。
〈すかさずもう一方の腕を突き出す〉
そこから、一気に壮絶な殴り合いと化す。
ネフィリムもフラワノイドも、そして天使の攻撃を描写する俺たちも、腕を振るうスピードをみるみるうちに加速させて行った。
「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
「潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰ス潰スゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
強烈な打撃の応酬を繰り広げる異形の存在たち。
互いに敵の猛攻を浴びながら、それでもどちらも引こうとはしない。
高速での「執筆」を続けながら、俺はこの戦闘は永遠に続くのではないのかという疑念に囚われかける。
と、その時──。
三時の方角から巨大なブーメランが飛んで来て、彼らの間に割って入ったのだった。
思いもよらぬ横槍を入れられ、俺たちは咄嗟に天使を引かせる。
骸骨も同様に跳び退いており、殴り合いが中断されてできたスペースを、黄緑色のブーメランは弧を描きながら持ち主の元へ戻って行った。
見覚えのある武器に、俺はそれが飛んで来た方に目を向ける。
すると、案の定そこには先ほどの気味の悪いフリーファイターの姿が。
「イヒヒ、一億エ〜ン」
帰って来た得物を掴み取り、爬虫類を思わせる〈戦闘用スーツ〉に身を包んだ彼は不気味な声で笑った。
さらに、その真横にはもう一人、音楽劇場で襲撃して来た奴がボウガンのような〈銃火器〉を構えている。
「探したんだぜぇ? ドル箱くんっ」
「ちっ、クズ共が」
雑魚の分際で水を差して来るとは。もう少し空気を読めないものだろうか。
「どうします? あの人たちの相手もしますか?」
「そうだな……面倒だが、仕方ないか」
というわけで、一旦邪魔な外野を黙らせることに決め文字を紡ごうとしたところで、それまで俺たちの殴り合いを見守っていた梔子先輩が、彼らと対峙するように前に出て来た。
「なんだ、お前たちは」
「あん? 何って、てめえと同じフリーファイターだよ」
ボウガン男は下品な声で答えてから、彼女の左腕を見て何かに合点のいったような声を出す。
「へえ、てめえがあの秋津学園のフリーファイターか。なんでも、鬼のように強いらしいなぁ」
「さあ、な。まあ少なくとも常人より上だとは思うが……試してみるか?」
言ってから首を傾げる先輩。
これを受けて、二人の乱入者は顔を見合わせた。
「だってよ。どーする?」
「白いウサギちゃん……イヒヒヒヒ」
「うん、何言ってんのかわかんねえけど、受けて立つってことでいいか」
一人で納得した彼は顔を梔子先輩の方へ戻し、同時にボウガンの銃口を突きつける。
「ふふ、来い。ちょうど獲物を取られて退屈していたところだ」
こちらは構えを取るようなことはせず、強者の余裕を醸し出していた。
しかし、フリーファイター同士の戦闘なんてしてもいいものだろうか?
「秋津学園生徒会の名において──と、これはもうさっきやったか。
まあいい、とにかく相手をしてやるから、まとめてかかって来い」
「はっ、舐めやがって。……じゃ、遠慮なく二人同時ってことで」
「イヒ、イヒヒヒヒ」
俺の疑問を他所に、あちらはあちらで決戦の火蓋が切って落とされる。
両腕を下ろしたまま駆け出した梔子先輩は、背中から生えた一対のマフラーを点火させた。
猛進を始めた彼女に、ボウガン男は無数の光弾を、爬虫類っぽい方はブーメランを、それぞれ同時に発射する。
その様子を横目で見てから、俺は俺の倒すべき相手を改めて睨みつけた。
──先輩が向こうを引き受けてくれている間に、この骸骨を仕留める。
「シオンさん!」
「ああ!」
そして俺たちは、天使の新たな武器を空中に描き出す。
〈天使の頭の上に浮かぶ光の輪は前方へ長く伸びながら、そのままクルクルと捻れて行く。
両端を鋭く尖らせたそれは、やがて一本の槍のような形状へと変わっていた〉
頭上に留まっていた光の槍を掴み取り右脚を前に出したネフィリムは、半身になった体の真横でそれを構えるように、両手で握り締めた。
彼の赤い瞳の向かう先では、腰を落としたフラワノイドが猛進を開始している。
迫り来る紫陽花を生やした骸骨を見て、俺たちも天使の迎撃を描写した。
〈相手の攻撃に合わせて、光の槍を突き出す〉
彼の眼前で跳躍したフラワノイドは予め捻っていたらしい両腕の肘から先を逆回転させながら、左右同時に鉄拳を撃ち出す。
瞬間、ネフィリムの腕は高速で動き、注文どおり目にも留まらぬ速さで打突した。
〈と、同時に槍の先が中心で分かれ、紐が解けるように二又になった。両側へ大きく口を開けた光の槍はフラワノイドの体の横を通り、その背後で再び先端を融合させる〉
二つに解けた先が合流すると、天使の手を離れた光のは先ほど同様凄まじい勢いで捻れ、いっそう細く鋭くなって行く。
骸骨は無理矢理両腕を体に添わせながら縛られるような状態となり、必然的にその体は締めつけられて行った。
「ガッ、潰ズ! 潰ズアガァァァァァァァァァァァァ⁉︎」
骨ばかりの体を軋ませるフラワノイドは、髑髏の口から血を吐き出す。
いくら獲物がもがき苦しもうと光の槍は止まらず、むしろどんどん回転速度を上げていた。
「潰ス、潰、ツ、ブ、レル……」
最後には静かな断末魔の声を零し、骸骨の体は肋の真ん中辺りで腕もろとも真っ二つに切り裂かれる。
バラバラと崩れる怪物の体。
一本の鋭い槍の形を取り戻した天使の輪は、なおも血肉を求めひとりでに発射された。
とどめの一撃はフラワノイドの顔のど真ん中を貫き、次の瞬間ガクアジサイの小さな花びらは完全に散ってしまう。
空を覆っていた暗黒はあっけなく消え去り、今までの出来事は全て悪い夢だったかのように思えるほどだ。
夕焼けに染まる空の下、槍はネフィリムの頭の上へと戻り元の輪っかの姿に変わった。
「ん? なんだ、もう倒してしまったのか」
と、意外そうな声で言う梔子先輩の足元には、折り重なって倒れるフリーファイターたちの姿が。
──そっちこそ、秒殺じゃないですか……。
思わず苦笑してから、俺たちは天使をこの場から立ち去らせる為手を動かしかける。
が、すぐに、
「待て」
彼女に呼び止められてしまった。
まだ俺にはやらなければならないことが残っている為、いつまでもここにいるわけにもいかない。
俺の気持ちを他所に彼女は〈戦闘用スーツ〉を停止させ、光が弾けると共に制服姿に戻る。
「一つだけ、教えてくれ。お前は、本当にテロとやらに関わっているのか?」
そういえば、昨日の昼休みに会った時も「聞き出してやろうと思っている」と言っていたか。
ついでに一戦交えるつもりらしかったが、もし本当にそうなったら面倒だ。
俺の体力の限界はとうに超えている。先輩には申し訳ないが、ここはさっさと行かせてもらおう。
いや、この程度で罪悪感を覚えてしまうようなら、この後やろうとしていることなどできないのだが。
「すみません、先輩……本当に」
一方的に呟いた俺は「神の指」を握る手を動かし、天使を大空へと飛び立たせた。
「待て! 私の質問に答えろ!」
先輩は声を荒げたがネフィリムはそれに応じず、すぐに空の彼方へと去って行った。




