プロローグ「拝命」
新作です。
最後まで書き切ることを目標に走り続けたいと思っておりますので、何卒よろしくお願いします。
「──生きて、帰りたい?」
暗闇に包囲された街の中で、その女性は尋ねて来た。
無言のまま俺が頷き返すと、優しげに微笑んだ彼女は徐に右手を差し出す。
その手のひらには金色のペンダントが乗せられており、丸い蓋を開くと自分と同い年くらいの女の子の写真が嵌め込まれていた。
「ここから出ることができたら、私の代わりにこの娘を護ってくれる?」
俺は少しだけ迷ったものの、結局この問いに対しても頷いてみせる。
「……なら、あなたに神様の力をあげるわね」
と、今度はもう一方の手が目の前に差し出された。彼女がゆっくり指を開くと中から綺麗な立方体をした紫色の光が飛び出し、神々しい光で周囲を照らし出す。
光は宙に浮いたままその場に留まっており、俺は眩しさに目を細めながら、恐る恐るそれを掴み取る。
──星も月もない夜空のように、黒く塗り潰された空。
──人智を超える力によって破壊し尽くされた街。
──ありとあらゆる場所で花を咲かせる銀色のコスモス。
十年前、まるでこの世の終末のような光景の中に、俺は立っていた。
それは世界で初めて“コラプサー”が起きた日。
大都市東京が、明けることのない闇に閉ざされた日。
そして──。
幼き日の俺が、果たすべき使命と、神の力を与えられた日のことだった。