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アカシックシード  作者: 若庭葉
Season1「Butterfly」
14/47

第十二話「発見」

 蜻蛉署へ帰って来た一行はエレベーターを降り、三階の廊下を進んみ出したところだった。

 先頭は松原であり、火野木を挟んで最後尾が橘という並びで歩いて行く。

 エレベーターを出てから少ししたところで、橘の頭の辺りの空間が揺らぎ〈スマートフォン〉が現れた。彼は「失礼」とだけ一応断ってから、それに手を伸ばす。

 画面に表示されていた名前は「山梨洋」であり、いったい何の用だろうかと訝しみながらも橘はすぐ通話に応じた。


「もしもし?」

『どうも〜、山梨っす。お疲れ様っすぅ』

「はいよお疲れさん。

 なんだ?」

『うわっ、もしかして機嫌悪いっすか?』

「別に。お前と話す時はだいたいこんなもんだろ」


 慌ただしそうに廊下を歩く婦警たちとすれ違う為半身になりながら、彼は面倒臭そうに言い放つ。


『いやいや、それはそれで酷くないですか? 俺もう泣いちゃいそう』

「そうか。もう切っていいか?」

『ちょっ、冗談ですって。そんな明日菜みたいなこと言わないでくださいよ』


 慌てた様子の山梨の声を聞きつつ、いくつか部屋の前を通り過ぎた橘らは曲がり角を左折した。

 本当に用もなく電話して来るような相手ではないとわかってはいたものの、回りくどいのはあまり好まないたちの彼は、早く本題に入るよにうと促す。


「はいはい。

 で? さっさと用件言えよ」

『うーん、やっぱり俺だけ扱い酷いような気がする……まあ、いいっすけど。

 今日電話したのは、橘さんたちの担当してる蜻蛉の件で、ちょっとわかったことがあったからなんすよ』

「本当か? 何がわかったんだ」


 いったい山梨はどんな情報を見つけて来たのか。

 橘はもちろん、彼の様子から何事かあったらしいことを察した火野木も気になったのか、横目だけで振り向きながら通話中の上司を見つめた。

 同じ職場の仲間たちが若干緊張した面持ちで待っている中、それを知ってか知らずか彼は、


『っと、ストップ! そこで立ち止まってください』


 という、妙な注文をして来る。

 いったい何がしたいのかわからぬまま、それでも言われたとおり橘は歩みを止めた。

 つられて前を行く二人も立ち止まり、各々不思議そうに彼の方を振り返る。


「止まったぞ。ていうかこれ何の意味があんの?」

『えっとですね、右手にドアありますよね? その部屋に入ってください』


「そしたらわかりますから〜」と暢気な声で付け足されるのを聞いた彼は、これまたよくわからない指示だと思いながらも、仕方なく従うことにした。

 鉄製のノブを電話を持っていない方の手で握り、捻る。

「第三資料室」と銘打たれた部屋のドアには鍵がかかっておらず、橘はなんなくそれを押し開いて室内へ入ることができた。

 すると──。


「どうも〜、お久しぶりっすぅ」


 スチール棚の並んだ部屋の奥、何やら大掛かりなディスプレイとバード、そしてキーボードの設置されたデスクの前には、キャスター付きの椅子に腰下ろし〈スマートフォン〉を耳に当てて笑う山梨の姿があるではないか。


「どうっすか? 驚きました?」


 悪戯が成功したことを喜ぶ腕白小僧のような表情で言うと、彼の手元から〈スマートフォン〉が消える。

 こちらも通話用のアプリケーションを停止をさせつつ、橘は驚きと呆れがない交ぜになった声で答えた。


「……あ、ああ、まあ、驚いたよ。

 つうか、え? 本当に何やってんのお前」


 彼らは今度は橘を先頭に棚の間を進み、青年の目の前へと向かう。

 山梨はさらに得意顔になり、一同を見渡しながらこの問いに答えた。


「調査ですよ、調査。俺も二人と同じく今日からこの街で起きたコラプサーを担当することになったんすよ」

「マジで?」

「マジっす。つうわけで、これからよろしくお願いしまーす。

 そっちの刑事さんと明日菜もね〜」


 橘の後ろにいる二人に向かって、彼は気安く手を振って見せる。

 松原は人の良さそうな笑みで会釈して応え、火野木は慣れた様子で目を逸らした。


「あー、それはわかったけどよ、なんで蜻蛉署(ここ)にいるんだ? つうか、この部屋まるでお前の拠点みたいになってんじゃねーか」


 デスクの上や壁に設置された物々しい機器を見て、橘は言う。二台のモニターと大昔のPCを彷彿とさせるようなバード、そしてこちらも二つ段になって置かれたキーボードは普段研究所の自分の部屋で山梨が使用している物とほとんど変わらない。

 セカンドリアリティが普及した現在、ちょっとした書類仕事をするくらいなら〈ノートパソコン〉や〈タブレット〉等のアプリケーションを使用すれば間に合うのだが、これが本格的にPCを仕事道具にしている者の場合は、事情が違った。

 彼らのような人種は、まだまだ本物を用いる者の方が圧倒的に多いのである。たとえゼルプストチップを埋め込んだ脳で大量の情報を処理できるようになっているしても、日常的にセカンドリアリティと併用していればすぐに容量が足らなくなってしまうからなのだとか。

 ──というのは、以前他でもない山梨から聞いた話の受け売りであり、橘も本物のPCを使ってはいるがさほど本格的な物ではなかった。

 と、仕事道具を警察署内の一室に広げた張本人は、何を当たり前のことを言っているのだと言いたげな顔をする。


「みたいも何も、本当にここが俺の拠点っすから」

「は?」

「いやぁ、それが、ダメ元で蜻蛉署の方に掛け合ってみたら、ここなら使わせてくれるって言ってくれたんすよね。で、さっそくお言葉に甘えさせてもらってるってわけっす」


 反省や遠慮といった言葉をまるで知らないかのようなその様子に、橘と火野木はどちらも胃がキリキリと痛むのを感じた。


「だから明日菜、これから寂しくなったらいつでもここにおいで! それはもう骨の髄まで癒してあげるから!」

「……松原さん、ここに変質者がいます。逮捕してください」

「警察署でそれは洒落になってなくない⁉︎」


「当然でしょ、本気なんだから」というとどめを刺すかのような言い方に対し、山梨は「うわっ、相変わらず目がマジだよ!」と大袈裟なリアクション取る。

 幼馴染である彼らのやり取りを見ていた橘はため息を吐き、気を取り直してといった感じで青年に向かって声をかけた。


「そんなことァどうでもいいっつうの。

 ていうかお前、もしかしてあの演出がやりたかったから電話して来ただけ、ってことはねえよな?」


 ボサボサの髪を掻きながら言う彼を見た山梨は、一転して不敵な笑みを口許に浮かべ、黒縁眼鏡の蔓を中指で持ち上げてかけ直す。


「もちろん。さっきも言ったとおり、凄い情報が手に入っちゃったんすよ」

「へえ、なんだよそりゃあ」

「ふっふっふ、それはズバリ、今回発生源となった二人の|共通点《・・・」です」

「なに?」


 橘だけではなく、他の二人も彼の意外なセリフに驚いた。

 山梨は彼らの顔を見て満足そうに笑ってから、椅子を回してモニターと向き合うと、下の段のキーボードの上で小気味よく指を躍らせる。


「実は、ついさっき彼らの個人データにアクセスする許可が降りたんすよ。それで、蜻蛉署の人からそれぞれのゼルプストチップを貸してもらっていろいろ中身を覗いて(・・・)てたら、かなり気になるアプリが見つかりまして……」


 口を動かしながらもキーを叩き、なおかつ画面を食い入るように見つめる若き研究員。

 二つ並んだディスプレイのうち、左側の物には画面いっぱいに数字が羅列されており、もう一方は暗く沈黙したままだった。

 かと思いきや、彼がエンターキーを押した直後、右の物にも何かが表示される。

 黒い画面に浮かび上がったのは、アプリケーションのアイコンであるらしく、白い背景に蝶を模したマークと、「Butterfly」という黒い文字のみがデザインされていた。


「こいつが何のアプリなのかまではまだ調べてないっすけど、偶然二人ともダウンロードしていた、と言えるくらい平凡な物とは思えないっす。……もしかしたら、単なる共通点というだけではなく、自殺の動機に関してもここから何かわかるかも知れない」


 山梨は再び椅子を回転させ、モニターの中のアイコンに釘付けとなっている三人を振り返る。


「ね? これって凄い発見っすよね?」


 *


 不運続きの俺と椚原さんの「厄祓い」の為、俺たち四人は臨時休校を利用して街へ出かけていた。

 といっても、それはあくまでも名目上のことであり、実際はただ普通に遊びに来ているだけなのだが。

 取り敢えず、最近オープンしたばかりの大型ショッピングモールへ向かうこととなり、現在はその三階にあるゲームセンターに来ている。

 普段、好んでこういう場所に来ようとは思わないので少々遊び方に困るかと思ったが、杏藤と日向が「あれやろう」「これやろう」と引っ張って行ってくれた為心配はいらなかった。

 そして今は、UFOキャッチャーのガラスケースにへばりついた椚原さんが、星の形をしたキャラクターの縫いぐるみ──どうやら子供向けアニメか何かのキャラクターらしい──を手に入れようと、悪戦苦闘している姿をみんなで見ているところだ。

 ゆっくりと降下して行ったアームが星形の体の真ん中を挟んだが、いくらも持ち上げられないうちに途端に力が抜けたようにあえなく落としてしまう。


「だぁ〜! 根性ないなぁもう!」


 頭を両手で抑え、周囲の目も気にすることなく本気で嘆く椚原さん。その様子はまるで、贔屓にしているスポーツチームが点を取られた時のサポーターのようだ。


「よし、もう一度」


 と言って、彼女は〈財布〉から〈硬貨〉を取り出す。こういった場所であれば大抵の施設が電子マネーに対応しており、セカンドリアリティで視覚化している為、これも実際のお金と同じように投入口に入れることで使用可能となっている。

 しかし椚原さんが百円玉を投入する直前、真横で見ていた日向がその手を止めた。


「ちょっと、いいかげん使いすぎ。どんだけ取りたいのよ、その可愛くない縫いぐるみ」


 呆れた声で彼女が言ったとおり、正直縫いぐるみはあまり可愛らしくなかった。全体的に見ればかなりデフォルメされたデザインなのに、何故かギョロッと見開かれた両目だけは妙にリアルであり、しかも斜め上を向いている。

 さらに口許には笑みというか薄ら笑いが浮かべていて、何かほくそ笑んでいるのかもしくは嘲笑なのか、とにかくあまり気分のいい表情ではなかった。

 よって日向の言葉は的を得ていると思われるのだが、俺のクラスメイトはこれに対し心外だとばかりに言い返す。


「可愛くなくないもん。スターくんは正義の味方、『それいけスターくん』の主人公なんだよ!」

「でも、こいつどこ見てんだかわかんない上になんか笑ってるんだけど。

 つうからそこまで聞いてないって」


 俺も概ね同じようなことを思った。

 しかし、杏藤はこのキャラクターのことを知っていたらしく、椚原さんの言葉を聞いて思い出したように手を打つ。


「ああー、そういえばめっちゃ昔にアニメでやってたよな。俺もちょっと観てた気がする。

 確か、毎回都合よくヒロインが連れ去られてそれを助け出すんだっけ?」

「そうそう、悪の帝王に攫われた星の国の姫を救い出すの! 超アドベンチャーなんだよ?

 しかも、子供向けなのに何気にシリアスだったりしてね。特に、スターくんの正体が星の精霊的な何かではなく、人類の水爆実験によって巨大化したただのヒトデだったと明かされる回とか、もはやトラウマもんだったね……」

「それは確かに恐ろしい……。というか、どっかで聞いたことある設定だね」


 今度は俺が率直な感想を述べると、彼女もそこに関しては認めているのか、若干勢いが萎み始めた。


「うん。結局、その回が怖すぎるって不評で、それからすぐ放送打ち切りになっちゃったの。

 ……けど、だからこそ! ここで巡り合えたからこそ、私はスターくんを手に入れなければならない。これはもはや宿命なんだよ!」


 しかし、揺るぎない決心を胸に秘めた椚原さんは日向の手を振りほどき、とうとう〈硬貨〉を投入口へ押し込んでしまう。

 今度は止められなかった友人たちは、「どうなっても知らないぞ」といった表情で、何度目になるかわからないチャレンジを開始する彼女を見つめた。

 横へ進んだアームを止め、さらに奥へ移動して行くのをタイミングを見計らってボタンを押す。カルタ取りの名人の如き勢いで右の手を叩き付ける椚原さん。

 果たして、その結果は──。


「ガッテム!」


 わかりきっていたことすぎて、全員呆れるを通り越し思わず笑った。

 そんなに欲しいのならば代わりに取ってあげたいところだが、生憎俺もこういうのは苦手だし無理だろう。


「ぐぬぬぅ、こうなったら残り全財産を投入して取れるまでエンドレスするしか……」


 とうとう彼女は唸り出す段階へ突入してしまった。

 いくらなんでもUFOキャッチャーで破産するようなことはないだろうが、それでもこの辺りで止めておいた方がよさそうだ。

 すでに日向が背後から彼女を羽交い締めにして取り押さえ、ジタバタと抵抗するのを杏藤が必死に宥めているところに、俺は心を鬼にして加勢することを決める。

 ──その時だった。


「あのぉ、君たちコレ欲しいの?」


 という若い男性の声が聞こえ、俺は後ろを振り返る。

 すると、そこには大学生風の青年が一人立っており、差し出された手には星の形をしたキャラクターの縫いぐるみが。

 友人たちも動きを止めて注目する中、俺が咄嗟に答えられないでいると、彼はさらにこうつけ足した。


「どうせ俺ゲームやりたいだけだから、遠慮なく受け取ってよ。……あと、この人形顔怖いし」

「あ、ありがとうございます」


 多少戸惑いつつも親切そうな表情に後押しされ、結局俺はスターくんを受け取る。彼は優しげな印象の人であったが服装や髪型などごくごく平凡な物であり、全体的に特徴に乏しいように思えた。

 俺は手に持った縫いぐるみを、後ろの椚原さんへパスする。

 念願だったスターくんを手に入れた彼女は、両手で掴んだそれをキラキラと瞳を輝かせしばらく見つめた。それから、顔を上げ青年の方に笑顔を向けた。


「ありがとうございます!」

「いやぁ、どういたしまして。

 ──というか、まさかこんなところで()会うなんて、奇遇だね」

「え?」


 彼の言葉は俺たち四人ではなく、俺と椚原さんにのみ向けられた物らしい。

 しかし、どれだけ思い返してみようとも、彼とすでに会っていたという記憶は出て来ない。椚原さんもそれは同じらしく、笑顔の名残りが消えない顔のままどうしていいのかわからなそうに首を傾げる。


  「あの、どこかでお会いしましたっけ?」


 堪らずそう尋ねると、青年は申し訳なさそうな顔で苦笑した。


「ごめん、そうだよね。素顔(・・)で会うのは初めてだから、わからないよね」


 ということは、素顔でない状態でなら一度会っているのか。

 そう思っているとずばり的中であるらしく、彼は改めてといった感じで自己紹介をする。


「俺は月下香一(つきしたこういち)。蜻蛉大学人文学部の一回生なんだけど、実はこう見えてフリーファイターもやってる」

「えっと、それじゃあもしかして……」


 俺たちが会ったことのあるフリーファイターは、梔子先輩と、そしてもう一人。

 三日前住宅地でコラプサーに巻き込まれた時に助けに来てくれた、青い装甲を身に纏った人物か。


「ああ。この間茉莉と一緒に君たちを助けた者だよ。といっても、あの日はプラント一体倒しただけだから、大した活躍はしてないけど」


 月下さんはどこか照れ臭そうに頭を掻きながらそう答えた。梔子先輩のことを下の名前で呼べるということは、彼女とは浅からぬ付き合いなのだろう。そうでなければ恐れ多くて俺ならできそうにない。

 そんな風に妙なところを感心していると、スターくんの体が潰れるくらい強く抱き締めた椚原さんが、俺の真横に並びながら彼に話しかける。


「月下さんって、もしかして秋津学園のOBさんじゃないですか?」

「え、そうだけど?」

「じ、じゃあじゃあ、もしかして昨年の生徒会副会長だった、あの月下さん?」

「えっと、まあ一応」


 身を乗り出すようにして尋ねる彼女の勢いに若干引きながら、月下さんははにかむような笑顔で応じた。

 そして、この返答に対する椚原さんの反応はというと、


「やったー! マジもんだー!」


 大歓喜である。

 スターくんの腕(?)を握ったままバンザイまでして喜びを表現した彼女は、先ほど以上に瞳を輝かせた。


「私たちも学園の生徒で、そんでもって私、生徒会の大ファンなんです! 兎にも角にもサインください!」


 ここに書けということか、もらったばかりの縫いぐるみを両手で持ち相手に突きつける。梔子先輩と出逢った時と全く同じ流れであり、どうやら生徒会関係の人と会ったらまずサインをもらいたいらしい。

 当然、生徒会OBは困ったように顔を引きつらせた。


「い、いやいや、そんな大したもんじゃないし。ていうか、サインって」

「そんなゴケンソンせずに! どーんと頼んます!」


 引き下がるどころか、いっそう深々と頭を下げる椚原さん。

 と、その様子を見かねたらしい日向が手を伸ばし、椚原さんの服の襟首を掴んで自分の方へと強引に引き寄せる。


「こら、迷惑かけんなっての!」

「のわっ⁉︎

 いいじゃん別にぃ。カリリンのどケチ……」

「そのあだ名で呼ぶなっつってるでしょうが」


 ムスリと頬を膨らまし目を逸らしながら言う彼女に対し、カリリンは割と本気で嫌がっているのか、いつの間にか右手を握り締め拳を作っていた。

 今度は俺が仲裁に入るべきかと思っていると、月下さんが「おいでおいで」をして俺を呼ぶ。


「君、春川くんだっけ? ちょっといいかな?」

「はい……?」


 その手の動きに従って向こうへ近づくと、彼は挙げていたそれを口許へ添えて声を潜めた。


「例の黒い天使の件、誰にも言ってないんだよね?」


 昨日第三女子寮の前で会った時の梔子先輩と、全く同じことを尋ねて来る。

 俺はもちろん、こくりと頷いて返した。


「そうか……。あいつに関してはまだ何とも言えないが、どうやらフラワノイドとは敵対しているらしい。今はまだ俺たちにとってどういう存在なのかわからないけど、無視していい物じゃないだろう」


 月下さんの言葉は予想の範囲内だった。突然あんな得体の知れない存在が現れ怪物と戦う姿を目撃したのだから、その正体が気にならないはずがない。

 こちらとしては、むしろこの先彼が、いや彼らがどう出るかの方が重要である。

 少し考え込むような間を空けてから、月下さんは不意に〈スマートフォン〉を起動させた。


「連絡先。一応交換させてもらえないかな? いざっていう時、が来るかどうかは別として、念の為にね」


 さっそく親指で画面に触れながら言う彼に、俺は再び頷く。


「そうですね。こちらこそ、お願いします」


 俺も同じように〈スマホ〉を取り出し、すぐに自分の連絡先を呼び出した。

 連絡先交換は一瞬で終わり、それぞれの手から携帯電話機の姿が消える。思わぬところで生徒会との繋がりを作ることができた。当然、俺はネフィリムのことはよく知っているのだが、そうでなくとも今後この連絡先が別の何かに役立つ時が来るかも知れない。


「じゃあ、また何かあったら教えてくれ」

「はい、ありがとうございます」


 一応礼を言っておくと、やはり月下さんは気恥ずかしそうにはにかんだ。


「それこそ礼には及ばないよ。

 ところで、君ら昨日のコラプサーにも巻き込まれてたんだって?」

「え、ええ、まあ……」

「それはなんというか、運がいいのか悪いのか……。一度、お祓いとか行って来た方がいいんじゃない?」


 何ということはなく、普通に心配されてしまった。

 きっと親切心から発せられたのであろう助言に、俺は力なく笑ってから、


「実は、今日がその厄祓いなんですけどね」


 未だに何事か言い合っている女子二人とどうにか彼女らを宥めようとしている友人の声を聞きながら、答える。

 そんな俺の様子を見て何かを悟ったらしい彼は一言、「君も、苦労してるんだね……」と同情の滲む声で言った。

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