‐序幕‐
―――こんな事、別にまだその時は気にかける必要性すら感じなかった。一斉にその情報はありとあらゆる情報機関を通じて報じられた。国際的に見れば一大事……だがそんな事に興味が無かった当時の自分を腹立たしく思う時がある。
「我々、ディリア国はその悪しき旧体制をここに排除し名称を“神聖ディリア帝国”と改め、ここに新たな国家と我らの皇帝陛下が誕生した事を宣言する!」
今思えばこの演説を聞いた時、少しでも疑問を抱くべきだったのか。今、昔の自分にどうしようもない怒りが沸き上がっている。完全なやつ当たりだが、仕方ないのかもしれない。
レオン・クラウリーは今21歳。ミトワール共和国“兵士育成学校:ジェラン支部”三年生。ジェラン地方に住むレオンが“帝国誕生”の知らせを聞いたのは2年前、19歳の時だった。当時ミトワールとディリアは同盟関係にあり、他国とも友好関係にあり国民は平和な毎日を過ごしていた。
だが。
神聖ディリア帝国の誕生により彼らの生活は少しずつ狂い始めた。
その影響はレオンにははっきりと現れた。
始めの頃はディリアとは変わらず同盟を結んでいたがディリア側が一方的に同盟を破棄―――。それと同時に神聖ディリア帝国は全世界に宣戦布告した……この行為にミトワール政府は激怒し軍事に急遽力を入れ始めた。つまり“兵士育成学校”に通うレオンは徴兵が確定したのである。これは自由をこよなく愛するレオンに取っては由々しき事態であった。
そして、今日。レオンは“兵士育成学校”の卒業試験に臨もうとしていた。