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08 針を飛ばすって地味だよね


 おはようございます。

 回復と再生を繰り返し、蠢く漆黒の塊です。

 ちょっと格好良い表現にしてみたけど、未だに自力では一歩も動けません。


 でも足の再生は順調に進んでる。

 関節ひとつ分くらいは治ってきたね。

 体の打撲傷も、ほとんど完治したと言っていいかな。

 『治癒の魔眼』スキルも、順調に鍛えられてるみたいだ。


 そう、”魔眼”だ。

 突然だったけど覚醒しちゃったよ。

 『自己再生』で足の治療中に、傷口をじっと見てたのがよかったみたいだ。

 治れ治れ~って集中してたのも、何かしらの効果があったのかもね。


 覚醒の切っ掛けはともかく、この『治癒の魔眼』はかなり便利だ。

 視線を向けるだけで治療効果が出る。

 試しに毛針で傷つけた木に使ってみると、みるみる傷が塞がっていった。

 正しくファンタジーな回復魔法、みたいな感じで。

 注いだ魔力次第で回復効果が広がるから、自分の治療にも使える。


 ただ、さすがに欠損した部位までは生えてこない。

 だけど魔力効率はかなり良いので、普通の傷には『治癒の魔眼』。

 魔力は激しく消耗するけど、部位欠損も治せる『自己再生』。

 そうやって使い分けていけそうだね。


 他のスキルも、ぼちぼちとレベルアップしてるみたいだ。

 随分とペースが早い気もするけど、きっとまだ低い段階だからだね。

 高いレベルになったら、もっと上がり難くなると思う。

 さて、海を渡って初めての朝を迎えたワケだけど……、


 お腹が空きました。

 近くに大きな木が生えてるから、毛針を使って樹液を啜るくらいはできる。

 あと、草も齧れるけど、こっちはちょっと怖いね。

 たぶん無害な雑草だとは思うけど、毒草とか混じってても区別がつかない。

 嫌だよ、自分で毒見するなんて。

 そういうのは他の誰かとかナニカとかにやらせるべきだ。


 思えば、海上での生活は恵まれてたね。

 ボクが何もしなくても、シルバーは魚を見つけて捕まえてくれる。

 それをちょこっと、お裾分けしてもらうだけでよかった。

 これからは、自分で食べ物も探さないといけないんだよね。

 まあ、当然と言えば当然なんだけど。


 仮にもボク、生まれたばかりのはずなんだよね。

 人間で言えば赤ん坊だ。

 ばぶばぶ言って、寝るか泣くか粗相をするか、ってくらいに何も出来ない状態。

 なのに、自給自足しろとか……。

 ハードモードだねえ。


 まあ、文句を並べてても仕方ない。

 足が治ったら、森の探索がてら食べられそうな物も探してみよう。

 果物でも見つかるといいな。

 それと、ウサギくらいなら狩れるかな?

 黒毛玉に進化して、少しだけ出来ることが増えたんだよね。

 あんまり頼れるものじゃないけど、『毛針』も―――、


《行為経験値が一定に達しました。『五感強化』スキルが上昇しました》


 ん? 少し離れた草むらが揺れる音がした。

 小さな音だ。『五感強化』を使い続けてなかったら気づかなかっただろうね。


 草陰から、そちらへ目を向けてみる。

 なんだろう?

 ちょうど考えてたおかげかな?

 ウサギがいた。

 薄茶色で小さくてもこもこしてる。

 可愛らしいね。

 あ、でも目つきは鋭くて怖いかも。

 いかにも野生って感じを溢れさせてる。

 とか考えてたら、目が合った。


 途端に、こっちへ突撃してくる。真っ赤な目で睨みながら。

 素早い。デンジャーな予感がする。

 迎撃! 毛針発射!


 そう、黒毛玉に進化して、『毛針』に射撃能力がついた。

 あんまり遠くまでは飛ばせないけどね。

 ウサギを追い払うくらいは―――って、避けられた!?


 さらにウサギは眼光を鋭くして距離を詰めてくる。

 マズイ。

 油断してた訳じゃないけど、認識を改めよう。

 これは本格的にピンチだ。

 いまのボクは満足に身動きもできないからね。

 ウサギ相手だって、齧られれば殺される。

 全身の毛を逆立てる。

 『毛針』も全力発射。点ではなく、面で攻撃する。


《行為経験値が一定に達しました。『射撃』スキルが上昇しました》


 システムメッセージと同時に、ウサギに数本の毛針が突き刺さる。

 さすがに避け切れなかったみたいだ。

 小さな鳴き声を上げたウサギが転がる。

 でもダメージを与えただけだ。

 この『毛針』、木の幹に刺さるくらいの威力はあるけど、必殺には程遠い。


 だけどボクには、もうひとつ武器がある。

 そっちの準備も整えておいた。

 『干渉』を使って、近くに生えていたツタを操っている。


 この『干渉』スキル、ボク自身の毛を操るだけじゃない。

 毛針の先から魔力糸みたいのを伸ばして、他の物にも内部から干渉できる。

 応用範囲はかなり広そうだね。

 生き物にも有効かは、まだ試してないけど。

 でも少なくとも、植物には有効だった。

 射程は数メートル程度だけど、ウサギは自分からその範囲に突撃してきてくれた。

 捕らえて首を絞める程度の力なら出せる。


 ってことで、ウサギ捕獲。

 暴れるけど、さらにツタを絡めていく。

 きゅうっと首を絞めてトドメは完了。


《総合経験値が一定に達しました。魔獣、ティニィ・ロウ・ベアルーダがLV1からLV3になりました》

《各種能力値ボーナスを取得しました》

《カスタマイズポイントを取得しました》

《行為経験値が一定に達しました。『干渉』スキルが上昇しました》


 おお。ウサギ一匹狩っただけで、レベルが二つも上がるんだ。

 ボクが弱いのか、ウサギが想像以上に強かったのか。

 前者だと思いたい。

 好戦的で手強いウサギとか、あんまり出会いたくないからね。

 ともあれ、今回の危機は去った。

 レベルアップしたステータスも確認しておこう。



-------------------------------

魔獣 ティニィ・ロウ・ベアルーダ LV:3 名前:なし


戦闘力:52

社会生活力:-510

カルマ:-660

特性:

 魔獣種   :『毛針』『吸収』

 魔導の才・極:『干渉』『魔力強化』『自己再生』

 英傑絶佳・従:『成長加速』

 手芸の才・参:『器用』

 不動の心  :『我道』

 魔眼の覇者 :『治癒の魔眼』

 閲覧許可  :『魔術知識』


称号:

『使い魔候補』『仲間殺し』


カスタマイズポイント:130

-------------------------------



 ちゃんとスキル欄に『治癒の魔眼』が増えてるね。あと、『自己再生』も。

 他には目立った変化はないけど……ん? ポイントが増えてる?

 レベルアップで貰える分が、これまでの計算だと120のはずだ。

 15ずつになったのかな? それとも別の計算式なのか。

 まあ、次にレベルアップした時には分かるかな。

 とりあえず、ステータスの確認はこんなところだね。


 それよりも、試したいことがある。

 最優先は怪我の回復ではあるけど―――、

 白毛玉の時から考えてはいたんだよね。

 この体、魔法系の適性が高いのはいいけど、やっぱり不便も多い。

 狩ったウサギの処理にしても、例えば肉を捌くのだって現状では難しいよ。


 それに、ボクの意識は未だに人間に近い。

 人間の体って、構造としてやっぱり便利だとも思う。

 ”社会生活力”が最初から低いのも、この毛玉体の影響が大きいんじゃないかな?


 そんな訳で、解決方法を考えてみた。

 異世界転生のテンプレ的にね。

 答えは、人化。

 モンスターから人間になる。

 これも稀によくある展開だよね。

 さすがに『人化の才』なんて、そのままのものはなかった。

 だけど代わりになりそうなスキルは見つかった。


《『変身』スキルは覚醒可能です》

《カスタマイズポイント:100が必要です。覚醒を行いますか?》


 強化とか覚醒とか、スキルシステムにも謎単語が残ってるよね。

 たぶん”覚醒”可能なスキルは、普通の方法だと鍛えられないんじゃないかな?

 特定の条件を満たすとか、才能があるとか、ポイントを使うとか。

 そうしてスキルを手に入れて、初めて使用可能になる。

 特殊能力みたいなものだよね。

 例えば、こんなスキルもあったよ。


《『透明化』スキルは覚醒不可能です。条件を満たしていません》


 どちらかと言えば、『変身』の方が難易度高そうだけどね。

 この条件っていうのも謎だ。

 システムに問い掛けても答えてくれない。

 もしかしたら、魔眼系のスキルもこういった特殊な分類なのかもね。

 そういえば『魔眼の才』を取った時に、「関連スキルが解放されました」っていうメッセージもあった。


 ともあれ、いまは『変身』だ。

 ちょっと冒険になるけど取得してみよう。

 上手く使えば、体の一部だけ変身させて傷を癒す、なんてことも出来るかも知れないからね。

 そんなワケで、システムさん、お願い!


《申請を受諾しました。『変身』スキルを解放します》

《残りカスタマイズポイントは30です》


 ん……なんか一瞬、全身がムズムズとした。

 魔力が走ったような感覚?

 だけど体そのものには、とりたてて異変は起こっていない。

 なんだか分からないけど、これで『変身』が使えるようになったのかな?


 よし。早速実験してみよう。

 あ、でも直接にスキルを使うのって初めてかな。

 この世界のスキルって、あくまで自分の能力の補佐って感じだったからね。

 もしくは単純に能力を保証してくれてる、みたいな。


 あ、でも科学世界の常識からすれば、魔法だって特殊能力か。

 そうなると、また特別に使い方を学ぶ必要が出てくる?

 どうなんだろ……とりあえず、念じてみようか。

 以前の自分の姿を想像しながら、変身するぞ~っと……。

 お、なんか全身から光が溢れてきた。

 これは上手くいきそう?

 予想通りの効果なら、人間として生活することも―――ぶボmろあっ!!???



《行為経験値が一定に達しました。『苦痛耐性』スキルが大幅に上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『苦痛耐性』スキルが大幅に上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『苦痛耐性』スキルが上昇しました》






-------------------------------

魔獣 ティニィ・ロウ・ベアルーダ LV:3 名前:なし


戦闘力:56

社会生活力:-550

カルマ:-680

特性:

 魔獣種   :『毛針』『吸収』『変身』

 魔導の才・極:『干渉』『魔力強化』『自己再生』

 英傑絶佳・従:『成長加速』

 手芸の才・参:『器用』

 不動の心  :『我道』

 魔眼の覇者 :『治癒の魔眼』

 閲覧許可  :『魔術知識』


称号:

『使い魔候補』『仲間殺し』


カスタマイズポイント:30

-------------------------------


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