15 サバンナー!
拠点の中央に立つのが、ボクが住む本邸宅になる。
メイド人形も出入りするけど、寝泊りするのは基本的にボクだけだ。
一人でいられる場所も大切にしたい。
だからといって、メイド人形に野宿を命じるほど非道じゃないよ。
これまでも手狭ながら部屋を使ってもらっていた。
だけど今度からは、別館に住んでもらうことになる。
渡り廊下で繋がってる形だね。
『ご覧の通り、建物としては完成いたしました。ですが、家財道具などは最低限のものしか揃っておりません。生活するだけならば問題ありませんが、見た目を取り繕うならば、いま少し時間が必要かと』
一号さんが言うように、簡素な感じは拭いきれない。
折角の屋敷なんだから、絨毯を敷き詰めたりしたいんだよね。
ベッドとか椅子とかもまだ足りてないし。
もしも他人を招くような場合には困るでしょ。
冒険者から襲撃されて、ボクは考えたんだよね。
今後、ああいった事態は避けたい。
なら、どう対処するか?
襲われても蹴散らせる戦力を整えるのは当然として、それ以前に、襲われないようにもしたいんだよね。
要は、魔獣が住んでるって思われるからいけないんだよ。
相手が人間なら、人間を襲うのは躊躇するはず。
だから、ここには人間が住んでると思わせればいい。
そのために急いで作ってもらった物もある。
『こちらの出来は如何でしょう?』
七号さんと八号さんが、大きな布の両端を持って広げてみせる。
それは旗だ。
黒地に、大きな白円を描いたシンプルなデザインになってる。
ちなみに黒地なのは、ボクの毛を作って織った旗だから。
他に良い材料もなかったんだよ。
芋虫産のシルクだと、いまひとつ重厚感が出ないし。
綿花っぽいのも見つけたけど、まだ栽培中だし。
その点、ボクの毛は長さも質も調整可能だからね。
羊毛が手に入ればよかったんだけど、生憎、羊も牛もまだ見つかってない。
乳製品も遠い。
そういった物を手に入れるためにも、この旗は役立ってくれるはず。
城壁に立てておけば、人間が住んでるって思ってくれるでしょ。
魔獣が旗なんて立てるはずもないし。
おまけに、メイドさんもいるからね。
北に街があるのは分かってるから、こっちの態勢が整ったら様子見に行くのも考えてる。
メイド人形を派遣してもいいだろうね。
『では、こちらの旗は北側城壁に掲げておきます』
ボクが頷くと、七号さんと八号さんが恭しく旗を持って出て行く。
これで拠点の安全度も増すはず。
もしかしたら、友好的に接触してくる人間もいるかもね。
その時は、どうしよう?
ボクが直接に会う手段もなくはないけど。
一号さんに主人代理ってことで交渉を任せようかな。
だけどメイドだと軽く見られる?
着飾ってもらって、女主人とか妻とかの役にした方がいいのかな。
そういえば、この世界の人間社会がどうなってるのか、ほとんど知らないね。
一号さんの知識も、古いものが多い。
情報収集の必要もあるか。
まだまだ落ち着ける日は遠いかなあ。
旗を立ててから数日後―――、
昼過ぎから、ボクはメイド人形数体を連れて拠点を出た。
向かうのは南、もう一度地下施設へ行って、使えそうな道具や資料があれば持ち出すつもりだ。
最初の脱出の時にも、手荷物程度の物は持ってきた。
今度は本格的な引っ越し、ってところかな。
ただ、持ち出せない備え付けの装置みたいな物もあるらしい。
だから、いずれは拠点と地下通路で結ぼうかな、とも考えてる。
いざという時の脱出路や、第二拠点にもなるし。
いまはそこまでの余裕は無いんだけど。
『では、わたくしと五号から八号までで運搬を行います。十号を側に付けておきますので、何かあればお報せください』
森の中にある大岩を目印に、少し離れた場所に地下への入り口はある。
普段は、完全に地面と一体化してるね。
見ただけじゃ絶対に分からないはず。
その入り口から降りて行くメイド人形を見送ってから、ボクは空へ浮かび上がった。
ついでに、ちょっと探索もしていく予定だ。
十号さんを従えて南へ向かう。
少し進むと森が途切れて、広々とした草原が広がってる。
サバンナ、というよりは緑が瑞々しいかな。
上空からだと、長い川が流れてるのも目に入る。
遠くには大きな山も見えるね。
それと―――動物がいる!
シカやシマウマ、それにキツネ? あとライオンっぽいのもいるね。
『鑑定知識』で見ても”魔獣”とは分類されてない。
普通の動物を見るのも久しぶりだ。
ウサギでさえ凶悪な魔獣だったからねえ。
シルバー以来?
あとは、川で魚を獲ったくらいか。
そういえば遠くに鳥の影も見える。
ん? 鳥?
ちょっと形が違うような……?
《行為経験値が一定に達しました。『五感制御』スキルが上昇しました》
尖った翼が生えてて、尾も長い。
鳥じゃなくて、飛竜っぽい。
中華風じゃなくて、西洋風の竜だね。
『鑑定知識』だと、戦闘力は三千から五千程度ってなってる。
1メイドさんくらいか。
油断はできないけど、襲われても撃退できそうだね。
高度を下げて、地上から慎重に近づいてみることにする。
でもそんなボクたちが目についたのか、ライオンが襲ってきた。
十号さんのパンチ。
ライオンが吹っ飛ぶ。
メイドさん強い。
『十号より―――トドメを刺されますか?』
いや、逃げていくし、放っておいていいんじゃない?
食べても美味しくなさそうだし。
動物は好きだしね。
犬も猫も。あと鳥も。ただし、サンダーバードは除く。
あとは邪魔も入らず、ボクたちは飛竜に近づいていった。
あんまり追う必要もなかった。
少し飛んだ後に、飛竜が戦闘に入ったからね。
というか、途中から飛竜よりも、そっちの存在の方が気になってた。
巨大なホワイトタイガー。
明らかに普通の動物じゃない。
だってトラックくらいの大きさがあるし。
黙れ小僧!、とか言いそう。
そんなホワイトタイガーに、飛竜は口から炎弾を吐いて襲い掛かった。
何発もの炎弾が直撃する。
だけどホワイトタイガーは少し焦げただけ。
全身に冷気を纏って身を守ってる。
氷結系の魔獣みたいだね。
サバンナにいるのは、ちょっと属性違うんじゃない?、って言いたくなる。
だけど強いのは間違いない。
ホワイトタイガーが大きな咆哮を上げた。
それはそのまま真っ白なブレスになる。
飛竜も炎を吐いて対抗したけど、押し負けて、翼を凍らされた。
体勢を崩した飛竜が落下する。
こうなるともう勝敗は揺るがないね。
ホワイトタイガーの爪が飛竜を切り裂いて、トドメになった。
勝利の咆哮が、サバンナに響き渡る。
もしかしたら、あのホワイトタイガーはここのヌシ的存在なのかもね。
そう思わせるくらいの風格がある。
っていうか、あんなのが何体もいたら困るよ。
『十号より―――あの白い生物は危険だと判断します。如何いたしましょう?』
ああ、うん。やっぱり脅威を感じるよね。
同感だ。離れた方が―――、
と思った時に、ホワイトタイガーの背後から現れる影があった。
複数の小さな影。ひとつの中くらいの影。
子供の虎と、母親?
もしかしたら父親かも知れないけど、ともかくも家族みたいだ。
可愛い。もふもふしてる。
ホワイトタイガーの子供たちらしいね。
これは、ますます離れた方がいいでしょ。
子供がいる野生動物は凶暴性が増すって聞くし。
魔獣もきっと同じだよね。
静かに距離を取る。
だけど、少し近づき過ぎたみたいだ。
ホワイトタイガーが顔をこちらへ向けた。
ボクを見据える。ゆっくりと歩み寄ってくる。
いや、まだ慌てる距離じゃない。
こっちは飛べるんだし、全速力を出せば振り切れるはず。
なにより、ボクは美味しそうには見えないはずだし。
だからちょっと試してみよう。
苦労して覚えた新技能を。
『十号より―――ご主人様?』
十号さんを後退させつつ、ボクは毛先に魔力の光を灯す。
通じるかどうかは分からない。
でも、サンダーバードがそうだった。
こういう強い魔獣は、知性を備えてる可能性が高そうだ。
だから―――、
『コンニチハ』
空中に魔力文字を描いて、コミュニケーションを図ってみる。
苦労して、挨拶くらいはできるようになったからね。
どうかな? 通用するかな?
敵意がないのを分かってくれればいいんだけど―――。
どうでしょう、ホワイトタイガーさん?




