14 修行パートは地味だけど好きな人も多い
拠点に帰還してから数日、ボクはのんびりと過ごしている。
やることは山積みだけどね。
この世界は危険だらけだし、どれだけ備えをしても過剰ってことはないはず。
生き延びるために。
のんびりと過ごしながらも、怠けてはいないよ。
まずボクが手を掛けたのは”思念通話”の修得だ。
お手本を見せてくれる一号さんがいる。
技能だっていう話だったけど、魔術にも似たものだ。
複雑な術式みたいだけど、ボクなら扱えるはず―――なんて考えは甘かった。
『わたくしが修得している思念通話は、奉仕人形用に改良されたものです。半ば無機物である奉仕人形と、生命体であるご主人様では、思念の伝わり方も違っているようです。そのために上手く働かないのでは?』
見様見真似で術式自体は成功したみたいなんだけどね。
何故か、相手に雑音を伝える効果しか出なかった。
実験台になってくれたメイド人形やラミアクイーンによると、「針金を頭の中に突っ込まれて掻き鳴らされてる」ような雑音が響くらしい。
まあ、これはこれで成功なんじゃない?
音波兵器とか、思念攻撃ってことで。
ボクの思念が異常ってことじゃないからね。
断じて違う、はず。
原因は術式にあるんだから、いつか改良して使えるものにしたいね。
ちなみに、幽霊も思念通話を使ってたけど、微妙に違う術式だったそうだ。
そっちの術式が分かればよかったんだけど―――。
『地下施設の資料は、ほとんどが記録用の霊魂に保存されていました。それらもまとめて、ご主人様が滅ぼしてしまいましたので残っておりません』
あの光る球体は、幽霊だけじゃなかったらしい。
先に言ってくれればよかったのに。
まさか魂みたいなのが記録媒体とか、想像もできないよ。
惜しいことしたね。
だけど、意思疎通そのものに関しては目途がついた。
一号さんは思念通話だけじゃなく、共通言語も使えるんだからね。
ボクにも言葉を教えてもらえばいい。
わざわざ習わなくても、何ヶ月か経てば自然と覚えられるとは思うけどね。
アルラウネやラミアは普通に会話してるし。
そんな目論見もあって、一緒に暮らしてたんだから。
だけど早目に覚えられるに越したことはない。
ってことで、毎日少し時間を取って授業を受けることにした。
ただし、教師役にはクイーンアルラウネも加わった。
何故か?
メイド人形は、『共通言語』の閲覧許可を持っていなかったから。
『閲覧許可だけでなく、わたくしどもにはステータス自体が存在しておりません。恐らく、”物扱い”だからでしょう』
そんな訳で、クイーンラウネには教科書を見せてくれる役になってもらった。
しかしこのクイーンラウネ、ちょっと見ない間にまた大人っぽくなったね。
身体から生える花は綺麗になってるし、蔦なんかも逞しくなってる。
とても机を寄せる同級生って感じじゃない。
やっぱり教師役だね。
いや、モンスター娘って時点で教師役はどうなの?、とも思うけど。
授業中は、一号さんとクイーンラウネに両脇を挟まれる形になる。
時々、膝に乗せられたり、撫でられたりもする。
うん。やっぱり教師や同級生って感じじゃない。
なんだろう? イメクラ?
いや、そんな場所に行った経験なんて無いけどね。
もちろん、しっかりと勉強はしてるよ。
人間だった頃だって、授業は真面目に受けるタイプだった。
ちなみに、『共通言語』の閲覧許可なら他にも持ってる子は多かった。
ラミアクイーンとかも立候補してくれたね。
だけど内政問題ってことでクイーンラウネを選ばせてもらった。
ともかくも勉強態勢は整ったね。
”社会生活力”がマイナスに振り切れてるのは気になるけど、その内に言葉の問題は解消されると思う。
同時に、拠点の強化も進めていきたい。
前回みたいな冒険者の襲撃程度じゃビクともしないくらいに。
望めるなら、サンダーバードも追い返せるようになりたいね。
まあ、あの理不尽怪獣みたいな鳥に対処するのは難しいのは分かってるよ。
っていうか、二度も会いたくない。
存在そのものがおかしいでしょ。
仮にも鳥なのに喋るとか、プラズマを操るとか。
神が創り出した毛玉抹殺兵器とか言われても信じちゃうよ。
だけどまあ、目標は高い方がいいし。
サンダーバードでなくとも、人外のボクには敵が多いからね。
外来襲撃とやらも気になる。
三十日置きくらいに、アナウンスもあるんだよね。
いまは残り二百五十日くらいかな。
異世界からの侵略。
侵略とは限らないけど、大抵は攻めてくるそうだ。
メイド人形から聞いた話で、それなりに信憑性はある。
どんな相手かは予測不能だけど、メイド人形の大軍が攻めてくるような事態も有り得るんだよね。
ただ、ここに来る可能性は低そうだし、怯えてても仕方ない。
ひとまずは城壁の強化から手をつけることにした。
幸い、メイド人形たちは色々と技術を持ってるみたいだからね。
ダンジョンの管理も出来るくらいだし。
それを頼らせてもらう。
一号から八号までで城郭の強化と建築。
九号と十号で、アルラウネやラミアたちが使う装備品の製作。
十一号と十二号は、ボクやメイド人形が住む屋敷の増改築。
十三号には、その他の雑用や生活用品の充実を担当してもらうことにした。
ボクの担当?
もちろん、魔力タンクで。
べつにサボる訳じゃないし。
その方が効率が上なだけだし。
実際、メイド人形が扱う魔術は、ボクよりも消費効率が良いらしい。
少ない魔力でダンジョンを維持していたんだから、当然と言えば当然だね。
集団で術式を組んで、一気に大きな壁を組むような真似も可能だった。
普通に生活するだけなら、外部からの供給も不要だそうだ。
メイド人形でも少しは自分で魔力が生み出せるから。
だけど、お城の建築や強化となると話が違う。
どれだけ魔力があっても足りない。
城壁の強化や建築だけでもそうだし。
ついでに、備え付けの大型武器なんかも試作してるからね。
以前に偶然できた、吹っ飛ぶ土壁も参考にして。
バリスタとか投石器とか、魔術に頼って作ろうとすると、やっぱり消耗が大きくなる。
こうなるともう、供給能力に優れたボクは回復に努めた方がいい。
合理的にね。
けっしてサボりたい訳じゃないよ。
とはいえ、ボクも自身の能力強化もしておきたい。
『魔術知識』も、一号さんがいれば読み進められるし。
魔眼の改良もしたい。
あとは、単純に肉体的な鍛錬もしておくべきだよね。
毛玉がどうやって鍛えるんだっていう疑問はある。
だけどボクの体も、徐々にではあるけど頑丈になってるよ。
下手なボールよりは耐久力もあるはず。
転がったり跳ねたりで、飛ばなくても動けるくらいにはなってきたし。
だから幼ラウネと追いかけっこもできる。
なかなかに良い勝負だったよ。
「Κσε~、Γκπωζ~!」
まあ、捕まっちゃった訳だけど。
他の子供もいて、多勢に無勢だったから仕方ないね。
けっして子供に負けたんじゃない。
人数に負けたんだ。
だから君たち、そろそろ撫でくり回すのをやめなさい。
ええい、脱出! そしてダッシュ!
まだ走り込みの途中だからね。
走り込みっていうか、跳ね込み?
ともかくも城壁内を一周するだけでも、けっこうな距離がある。
子供たちに構ってる余裕はない。
だっていうのに、なんでまた追いかけてくるかねえ。
毛玉ローリングなら一気に距離を取れるけど、あれをやると目が回るし。
何かにぶつからないと止まれないし。
まあ『空中機動』を使えば、子供たちなんて簡単に振り切れるんだけどね。
それじゃあ身体は鍛えられないから。
おまけに、なんだか負けた気もする。
『ご主人様、お楽しみのところを失礼します』
いや、楽しんでないよ。
厳しい特訓中だよ。
で、あらたまって何だろう?
『本館および、別館の建築が完了いたしました。よろしければ一度、検分をお願いします』
おお、早かったね。すぐに見に行こう。
右に跳ねると見せ掛けて、左へと急激に方向転換。
速度を上げて、子供たちを置き去りにする。
よし。今回はついてこれる子供もいない。
このまま勝ち逃げさせてもらおう。




