07 だがいまは雌伏の時、って付けるとだいたい格好良くなる
魔力の回復を待って、また『自己再生』を試みる。
傷口へ魔力を集めていって、新しい細胞で埋めていくようなイメージを作る。
しばらくすると、すぐに魔力切れだ。
でも前回よりは長く続けられた。魔力量が増えてるのも実感できる。
それに、この『自己再生』、どうやら千切れた足も再生できそうだよ。
ちょびっとずつだけど、確実に復元してきてる。
魔力消費は激しい。
だけど回復効果も大きい、ってところだね。
《行為経験値が一定に達しました。『魔力感知』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『五感強化』スキルが上昇しました》
あと、この『五感強化』スキルが上がる理由も分かってきた。
どうやら自然と使っちゃってたみたいだね。感覚器官に魔力を流して。
コツを掴めば意識しても行えた。
基本的には『干渉』と同じだ。
対象を動かすか、元の働きを強化するかの違いがあるだけ。
この世界の魔力っていうのは、本当に応用範囲が広い。
驚異的なくらいに優秀なエネルギー源、と言えるんじゃないかな。
ただ、『五感強化』に関しては、元からの性能のおかげでもあるみたいだ。
一応、ボクは”魔獣”、獣の一種だから。
それなりに感覚は鋭い。
少し離れた位置で草木が揺れるのも察知できるくらいだ。
風で揺れたのか、もっと違う原因なのかも分かる。
いまだって、イノシシみたいな大きな足音を聞き分けられたよ。
そう。イノシシがね、のっしのっしと歩いてきてるんだ。
《行為経験値が一定に達しました。『危機感知』スキルが上昇しました》
まだ距離はあるけど、威圧感は伝わってくる。
何処のモン○ン世界から来たんだ、っていうくらいのヤツだよ。
背丈は人間の大人を軽く越えてるね。
そこらへんの樹木なんて、体当たりであっさりブチ倒しそうだ。
巨大イノシシは、鼻をひくつかせながら、ゆっくりと進んでくる。
どうやら何かを探してるみたいだね。
餌探し?
そういえばイノシシって、野菜とか茸とか食べるんだっけ?
毛玉なんて食べないよね?
ボクなんて食べても美味しくないよ―――、
と、アピール手段を考えてた時だ。
風を切り裂くような音が聞こえた。
頭上から。
次の瞬間、大きな影が舞い降りてきていた。
木枝を圧し折りながら現れたのは、派手な色をした鳥だった。
極彩色の鳥、というかもう怪鳥だね。
だって、イノシシより大きいんだもん。
鉤爪のついた足でイノシシの体を掴むと、そのまま上空へと去っていく。
後には、イノシシの痛々しい悲鳴だけが残された。
……ああ、やっぱりここ異世界だね。
イノシシが怪鳥に喰われるとか、地球じゃ有り得ない。
とんでもなく殺伐とした世界だ。
危険がいっぱい。
分かってはいたけど、しっかりとそう心に刻んでおこう。
ともあれ、ひとまずの脅威は去った。
また魔力回復を図って、自分を治療する繰り返しになるワケだけど―――、
こんな動けもしない状態だから、ハッキリと言えるね。
ボクは弱い。
怪鳥どころか、イノシシ、犬や鼠に狙われても生き残れるか分からない。
一応、毛針って武器はあるけど、どうにも頼りないよね。
例えば硬い鱗を持ってる魔獣なんかが現れたら、どうしようもなくなる。
なら、また魔術に頼る?
それも無理だ。だって暴発しかしていないんだもの。
だけど魔法系の技に頼るっていう方向性は間違ってないと思う。
実はね、前々から考えてはいたんだよ。
強力な武器が欲しい、って。
もちろん銃器とか戦艦とかいう意味じゃなくて。
さすがにそこまで現実離れした発想をしても仕方ないからね。
この世界は、地球と比べれば随分とファンタジーだ。
ステータスがあって、スキルがあって、魔法も存在する。
おまけに、ボクは毛玉なんて不思議生物になってる。
そんな新しい現実を受け入れた上で、最良の武器を選ばないといけない。
さて、この毛玉体の特徴と言えば何か?
全身を覆う毛もそうだけど、そっちはおまけみたいなものだと思う。
刺身のツマみたいなものだね。
あ、刺身と言えば、海では魚ばかり食べてたね。
というか、魚だけだった。
不味くはなかったけど、醤油が無かったのが残念だよね。
この世界にも醤油ってあるのかなあ―――と、話が逸れたね。
ボクの、この毛玉体の特徴。
それは眼だ。
正面に大きな目玉がある。
そして全身が黒くなって、アレに近づいてきたと思わないかな?
そう、アレ。
バックベア○ド。もしくは鈴木土下座衛門。
このロリコンどもめ!、とか言いながら、目からビームを出せそうな。
つまりは、魔眼だ。
相手を見つめるだけで攻撃できる。優秀な武器になりそうだよね。
そんな魔眼の”才能”なり”スキル”なり、存在しないのか?
システムさんに尋ねてみましたよ。
《『魔眼の才・極』を取得可能です》
《カスタマイズポイント:100が必要です。取得しますか?》
まず存在していることに驚いたね。
いや、尋ねてみたはいいけど、半分は冗談みたいな気持ちだったから。
でも期待してたのも事実だ。
思わず、YES!って答えちゃったからね。
手があったら、握り拳を作ってたと思う。
で、そんなノリで取っちゃった『魔眼の才』。
毒食わば皿までって勢いで、さらにポイントを注ぎ込んで強化しちゃいました。
アレだよ、けっして魔眼って響きに惹かれたワケじゃないよ。
純粋に。戦う力を求めて。生き残るために。
そして、その結果が、このステータス。
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魔獣 ティニィ・ロウ・ベアルーダ LV:1 名前:なし
戦闘力:48
社会生活力:-530
カルマ:-660
特性:
魔獣種 :『毛針』『吸収』
魔導の才・極:『干渉』『魔力強化』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・参:『器用』
不動の心 :『我道』
魔眼の覇者 :
閲覧許可 :『魔術知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』
カスタマイズポイント:100
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やったね。戦闘力が4も上がったよ。
ついでに社会生活力は落ちてる。
貴重なポイントを200も注ぎ込んだのに!
こんなサバイバルな状況で何やってるんだ!?、と激しく自己嫌悪です。
はぁ。そうだよねー……。
この左側の項目にあるのは、あくまで”才能”みたいなものだ。
いくら才能があったって、それだけで即座に戦力になるはずもないよね。
スキルが表示される部分の空白は、何も出来ないって証拠でしょ。
そう気づいて、100ポイントだけでも残した自分を誉めてもいいかな。
まあ、無駄になるとも思えない。
まずは才能を得られた。なら次は、その才能を活かす努力をすればいい。
『魔眼の才』を取った時に、一瞬だけど目が熱くなる感覚があった。
僅かに魔力が流れていく感覚も。
たぶん、ボク自身の中で何かしらの変化があったんだろうね。
早い内に、あれこれと検証してみたい。
そのためにも、いまは傷を癒さないといけないね。
『瞑想』をして、少し眠りもして、また魔力は回復してきた。
ってことで、また『自己再生』だね。
魔力量も増えて、回復効率も上がってきた。
この分なら、数日と掛からずに動けるようになりそうだ―――。
《条件が満たされました。『治癒の魔眼』スキルが覚醒しました》