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12 キノコ狩りの毛玉

 ホラーだ。

 グロ中尉が成仏しきれずに戻ってきた。


 正直に言うと、けっこう簡単に片付けられるかな~ってボクも考えてた。

 だってキノコだし。

 縦に裂けばあっさり倒せそうだし。

 もしくは、『焼夷針』とかで焼き尽くしてもよさそうだった。

 バター醤油が欲しくなるかな~、なんて倒した後のことまで考えてたよ。


 だけどこのキノコ、ただのキノコじゃなかった。

 いやまあ、手足の生えたキノコなんだから普通じゃないのは当然なんだけど。

 ともかくも、簡単には死んでくれない。

 しぶとい。

 この一言に尽きるね。


 最初に『衝破の魔眼』や『破砕針』を撃ち込んでみた。

 あっさり砕けて、縦に割れた。

 なんだ弱いじゃん、とか思った時だ。

 半分に避けたキノコが蠢いて起き上がろうとした。

 もう半分になった体の所まで這い寄って、くっついて復活したんだよ。

 ちょっぴり細くなったみたいだけどね。

 だけど戦意は衰えない様子で、また城壁へ向かってくる。


 ならば、と『焼夷針』を撃ち込んだ。

 『八万針』の中では微妙に魔力消費が大きいけど、魔眼よりは連発できる。

 大軍相手には、とても有効に働いてくれるのが『焼夷針』だ。

 期待通りに、キノコはまとめて炎に包まれた。

 何体かは完全に倒せた。

 黒焦げだね。

 だけど途中から、炎を消し止めて起き上がるキノコが出てきた。

 どうやら全身に妙な粘液を纏って、それで炎を防いだらしい。

 他のキノコも粘液を出すようになって、炎がほとんど効かなくなった。


 おまけに、キノコが出すのは粘液だけじゃない。

 傘の部分から、胞子も散らしてくる。

 これが地味に厄介だね。

 状態異常効果のある胞子で、風に乗って城壁の上まで届いてくる。

 毒や麻痺、混乱や石化効果まで含んでる。


 同じ植物系だからか、アルラウネにはほぼ効いてない。

 ラミアもそこそこ状態異常には強い。

 だけど毒や石化を受けて、戦えなくなる子が次第に増えてきてる。


 そうしてこっちの守り手を減らしながら、キノコは城壁を昇ってくる。

 手を掛ける場所もないはずなのに。

 城壁に、べったりと張り付きながら。

 また粘液を使ってるみたいだね。

 ぬちゃぬちゃと音を立てながら、垂直の壁を這い上がってくる。

 意外と多才だよ。キノコのくせに。


 そんな状況で、敵も多くて、かなり押されてるみたいだった。

 ただ、こっちにも良い材料はある。

 ラミアクイーンが獅子奮迅の活躍を見せていた。

 何度も血を吐いてるイメージしかなかったんだけどね。

 でも実際、戦闘力はラミアの中だと一番高かった。


 おまけに、以前と少し変化してる?

 黒髪と白い肌なのは変わらない。

 だけどその髪も肌も、ちょっと見ない間に艶を増したように見える。

 っていうか、明らかに戦闘力が増してるね。

 槍でキノコを刺して、軽々と城壁の外へ放り出す。

 あ、爪も伸びた。

 一瞬で、キノコが五枚に裂かれる。

 爪はまた元に戻って、ラミアクイーンは妖艶な笑みを浮かべた。


 やっぱり以前とイメージが違ってるね。

 もしかして進化でもしたのかな?

 そういえば、治療の指揮に当たってるクイーンアルラウネも少し変化してた。

 以前より、豪華な花が咲いてた気がする。


 冒険者との一戦を乗り越えたのがよかったのかな?

 それとも、ボクがいない間に修行でもした?

 後で聞いてみよう。


 ともあれ、味方戦力としては頼もしいね。

 もうしばらくは持ち堪えられそうだ。

 だけど長期戦になったら、しぶといキノコの方が有利になりそうでもある。

 ボクも全力でいこう。

 折角帰ってきた家なのに、キノコの苗床なんかにされたくないよ。

 『万魔撃』で薙ぎ払う。


《総合経験値が一定に達しました。魔眼、ジ・ワンがLV9からLV10になりました》

《各種能力値ボーナスを取得しました》

《カスタマイズポイントを取得しました》

《行為経験値が一定に達しました。『加護』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『一騎当千』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『魔力大強化』スキルが上昇しました》


 さすがに『万魔撃』は効果覿面だね。

 縦に割れたキノコは、そのまま光に呑まれて塵になっていく。

 一撃で、確実に百体以上は倒せたはず。


 さらに、敵陣奥にいるキノコへ向けて『死滅の魔眼』も放つ。

 瞬く間に数体のキノコが即死して、黒々とした死毒の塊になった。

 そのキノコが仲間に襲い掛かる。

 死毒の塊を増やしていく。

 植物には毒の効果が薄いかと思ったけど、やっぱり死毒は信頼度高いね。

 これで城壁に辿り着く前に、そこそこの数は減らしてくれるはずだ。


 さて、倒し切れるかな?

 『万魔撃』を連発してもいいけど、敵の数が多い。

 魔力不足になるような賭けには出たくないね。


『ご主人様、提案があります』


 ん? 一号さん?

 いつの間にか、西側城壁の上まで来てる。

 ラミアから受け取った槍で、キノコを斬り裂いてるね。

 横に。

 力任せに。

 あの槍って斬れ味はいまひとつだったはずだけど、関係ないみたいだ。


『治療には、ひとまず手が足りています。わたくしと四号までで、攻勢に出るのがよろしいかと』


 そういえば、メイド人形たちの戦闘力も高かったね。

 自己申告だったけど、全員三千を越えてた。

 ボクが魔力を奮発しちゃったからねえ。

 よし。いい機会だし、活躍してもらおう。

 合図を出す。

 一号から四号まで、攻撃&防御で。


『敵の殲滅を狙いつつ、無理はしない、という解釈でよろしいでしょうか?』


 うん。その方向で。

 一号さんは、ボクの考えを大分理解してくれるようになってきたね。

 まだそんな長い付き合いでもないのに。

 それだけ高性能ってことかな。

 まあいいや。いまは頼れるメイドさんってことで喜んでおこう。


『では、出撃致します』

『二号より―――同じく』

『三号より―――以下同文です』

『四号より―――一匹たりとも逃がさないことを目標とします』

『九号より―――調味料の確保を進言します』


 なんか変なのが混じった。

 うん。キノコを食べたいのは分かる。

 だけどよく考えたら、明らかに毒キノコだよね。

 人形だから大丈夫なのかな?

 でも生体部品とかにはダメージありそうだし、食中毒なんかで倒れられるのも馬鹿馬鹿しい。


 ってことで、九号さんには待機の合図を送っておく。

 そうしている間にも、メイド人形たちは城壁を飛び越えていった。

 やる気たっぷりだね。

 まずは一号さんが、複雑な魔術式を空中に描く。

 発動したのは、風の術式だ。

 暴風が巻き起こる。

 同時に、空気が刃になって次々とキノコたちを切り裂いていく。


 だけどそのくらいじゃキノコは復活する―――、

 と思った時、二号さんが別の術式で追撃を掛けた。

 辺り一面に炎が吹き荒れる。

 だけど炎はキノコ粘液で―――あれ? 防がれてない?

 そっか、切断面を焼いたのか。

 それなら粘液で守られてないね。


 分割されたキノコ自体は、まだ生きてる。

 地面に倒れながらも蠢いてる。

 だけど焼かれたおかげで、元の体とくっついて再生は出来ないみたいだね。

 放っておけば死ぬかな?

 しばらく生きてたとしても、まともに動けないから脅威にはならないね。

 メイド人形の第一次攻撃は成功だ。


 続いて、三号さんと四号さんが地上へ降りて切り込む。

 それぞれが両手に剣と槍を持ってる。

 無双乱舞って感じで、バッタバッタとキノコを薙ぎ倒していく。

 斬り裂かれた瞬間、キノコが燃える。

 剣や槍自体に魔術が掛かってるね。

 これもまた切断面を焼かれるから再生が利かない。

 どんどんキノコの数が減ってる。

 イケそうだ。


 ボクももっと攻勢に出ようかね。

 メイド人形とは別方向の敵を担当しよう。

 食べられないキノコに用は無いし。

 さっさと消え去ってもらうよ。



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