05 グロ中尉③
晒け出されてる心臓を叩き潰すなんて簡単。
そう考えていた時期が、ボクにもありました。
だってほら、謂わば動かない弱点だし。
ちょっと毛針で突けば、風船みたいに破裂しそうなイメージがあったんだよ。
うん。甘かったね。
だけどまさか、肉が城砦化するなんて思いもしなかったよ。
ボクだって油断してた訳じゃない。
まず最初に、充分な距離を取ってから『万魔撃』を叩き込んだ。
でも防がれた。
床や壁を覆っていた肉が蠢いて、変形して、壁を作って。
壁というか、ブロックミート?
硬さじゃなくて、厚さで防ぐような肉の塊だった。
『万魔撃』もけっこう頑張ってくれたんだけど、肉壁の半分くらいしか削れなかった。
そんな肉壁が次々と作られていって、心臓部を囲った。
城壁みたいに。
だけどボクにはまだ余裕があった。
いくら城壁を積み重ねても、それも無限のはずはないからね。
五~六発も『万魔撃』を叩き込めば決着がつきそうだった。
でも、お城にあるのは壁だけじゃないんだよね。
城を守る兵士もいる。
そいつらは、天井からボタボタと落下してきた。
なんていうか、とってもグロ注意な兵隊だったよ。
背中にザクロを貼りつけたムカデみたいな。
そんな連中が、何十何百と天井の肉から落ちてくる。
この時点もう、怖気を覚えたね。
うぞぞぞぞぞ、って。
ザクロムカデが赤黒い波になって向かってくるんだもん。
もちろん迎撃はした。
近づかれるだけでも気持ち悪いからね。
衝破や雷撃、凍結、攻撃系の魔眼をフル稼働で。
だけどザクロムカデは、仲間の死体を押し退け、踏みつけて向かってくる。
しかもその背中のザクロが割れて、溶解液を飛ばしてきた。
一発一発は、『加護』で充分に防げるくらいの威力だ。
だけどザクロムカデは数で攻めてくる。
もしもボク自身に群がられたら堪ったものじゃない。
この時点で戦略的撤退を決定。
毛針や魔眼を散らしながら、背後へ向かって全力で飛んだ。
幸い、ザクロムカデの足はさほど速くなかった。
距離を取ったところで、『凍結の魔眼』を使って通路を氷で埋め尽くす。
時間稼ぎだね。
ちょっと作戦を立て直したい。
ザクロムカデは氷の壁を壊そうと群がってくるけど、土壁を作った時の要領で強化してある。
分厚く作ってもあるから、十分や二十分は耐えられるはず。
で、いまは一息ついて作戦を練り直してるワケだけど―――、
《行為経験値が一定に達しました。『恒心』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『精神無効』スキルが上昇しました》
やっぱり精神衛生上よろしくないよねえ。
氷壁を挟んだ向こうでは、ザクロムカデの群れが諦めずに蠢いてるし。
倒す以外に、逃げ道も無いワケだし。
でもひとまずは休憩する余裕が持てた。
魔力も少しだけど回復できてる。
『万魔撃』を何発か撃つ余裕はあるね。
あとは、力押しでもなんとか倒しきれると思う。
いまも敵の数は減ってるし。
撤退はしたけど、ボクは恐怖で錯乱してた訳じゃない。
反撃の策も打っておいた。
可能な限りの『焼夷針』をバラ撒いておいたんだよ。
ボクが休んでる間にも、炎は広がっていた。
もう面積だけなら、ザクロムカデの群れを上回ってる。
肉壁にも火を消し止める能力が無くて助かったよ。
さて、敵軍の数は減って追い詰められてる。
反撃をしてトドメといこう。
薄くなってきた氷壁へ向けて、『衝破の魔眼』を撃ち込む。
氷が砕けて、数え切れないほどのザクロムカデもまとめて吹き飛んだ。
そこへ『万魔撃』も叩きつける。
魔力ビームが通路を埋め尽くして、薙ぎ払った。
心臓がある大広間までの道が、一気に拓ける。
それでもまだ肉壁軍は侮れなかった。
心臓は文字通りの分厚い壁で守られてる。
さらに、ザクロムカデもまだ後から沸いてくる。
ボクが大広間に近づくと、一段と太い触手も襲ってきた。
先端に無数の棘がついた触手だ。
太い分だけ破壊力もある。
まともに殴られたらダメージは大きそうだね。
そんな触手が何本も、通路を塞ぐように伸びてくる。
だけど、こっちも見てるだけじゃないよ。
『破砕針』や『爆裂針』を飛ばしまくる。
『雷撃の魔眼』で動きを止めて、『衝破の魔眼』で砕き散らす。
ザクロムカデも近づかせない。
そうして時間を稼いで、また『万魔撃』で心臓を狙う。
《行為経験値が一定に達しました。『八万針』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『破戒撃』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『万魔撃』スキルが上昇しました》
三発目の『万魔撃』で、ついに心臓に届いた。
大きく脈打っていた部分が弾けて、赤黒い液体が大量に飛び散る。
異臭が広間全体に漂った。
風を操って異臭を吸わないようにしつつ、少しだけ後退する。
だけど攻撃の手は緩めない。
相手もまだ最後の足掻きをするみたいだからね。
周囲の肉壁が、一際激しく脈打ちはじめた。
また触手が増えて襲ってくる。
というか、滅茶苦茶に暴れて、そこかしこを殴りつけてる。
狙いは出鱈目だけど、巻き込まれるのも馬鹿馬鹿しいね。
さっさと大人しくなってもらおう。
毛針と魔眼を散らしながら、”溜め”を作る。
赤黒く蠢く肉壁の模様が、一瞬、恨めしそうにこちらを睨んでいるように見えた。
まあ錯覚だね。
だけどこの肉壁も、懸命に身を守ろうとしてたのかも知れない。
グロい生物を次々と出してきたのも、他に手段がなかったから。
根本的に、自分ではどうしようもない部分で、おぞましい生物だったのかも。
そう考えると、少し―――、
いや、かなり迷惑なヤツだね。
もう二度とボクの前には現れないで欲しい。
ってことで、『万魔撃』発動。
《総合経験値が一定に達しました。魔眼、ジ・ワンがLV8からLV9になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《行為経験値が一定に達しました。『一騎当千』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『雷撃の魔眼』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『轟雷の魔眼』スキルが解放されます》
《行為経験値が一定に達しました。『凍結の魔眼』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『凍晶の魔眼』スキルが解放されます》
中心部から焼き尽くされた心臓は、また異臭を撒き散らしながら崩れ落ちた。
周囲の肉壁も、蠢いていたのが徐々に鈍くなる。
ほどなくして、完全に動きを止めた。
ザクロムカデは残ったけど、そっちも一匹残らず駆除しておく。
繁殖なんてされたら困るからね。
こんなの、絶滅推奨種でしょ。
念入りに燃やして、匂いはダンジョンの奥へ送り込んで、と。
広間には、石壁と、僅かに焼け焦げた肉だけが残った。
ふう。掃除完了だね。
さよならグロ中尉。
さて、戦闘も終わったし、一休みしたいところ。
でもさすがに、この広間で休むのは気分的に歓迎できないね。
とりあえず焼け残ったお肉は、広間の隅に積み上げておこう。
あとで食べに来るかも知れないからね。
何枚か切り身にして、黒毛の間にも隠し持っておく。
休める場所を探すためにも、もう少しだけ進んでみよう。
広間の奥には、一層と同じような通路が続いていた。
少しだけ肉壁も残っていたけど、それもほどなくして途切れる。
そうして通路を進んで―――、
やがて、一枚の扉に行き当たった。
また両開きの、頑丈そうな造りの扉だ。
そして扉の脇には、光を放つ機械じみた装置が置かれていた。
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魔眼 ジ・ワン LV:9 名前:κτμ
戦闘力:8280
社会生活力:-3350
カルマ:-7450
特性:
魔獣種 :『八万針』『完全吸収』『変身』『空中機動』
万能魔導 :『支配』『魔力大強化』『魔力集束』『破魔耐性』『懲罰』
『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』
『土木系魔術』『闇術』『連続魔』『魔術開発』『精密魔導』
『全属性耐性』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・極:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』『建築』
不動の心 :『極道』『不屈』『精神無効』『恒心』
活命の才・壱:『生命力大強化』『頑健』『自己再生』『自動回復』『悪食』
『激痛耐性』『死毒耐性』『下位物理無効』『闇大耐性』
『立体機動』『打撃大耐性』『衝撃大耐性』
知謀の才・弐:『鑑定』『記憶』『演算』『罠師』『多重思考』
闘争の才・弐:『破戒撃』『回避』『強力撃』『高速撃』『天撃』『獄門』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』『状態異常大耐性』
共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』
覇者の才・壱:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則改変』
隠者の才・壱:『隠密』『無音』
魔眼覇王 :『大治の魔眼』『死滅の魔眼』『災禍の魔眼』『衝破の魔眼』
『闇裂の魔眼』『凍晶の魔眼』『轟雷の魔眼』『破滅の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『極悪』『魔獣の殲滅者』『蛮勇』『罪人殺し』
『悪業を積み重ねる者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』
『エルフの恩人』『魔術開拓者』『植物の友』『職人見習い』『魔獣の友』
『人殺し』
カスタマイズポイント:390
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