04 グロ中尉②
お肉のダンジョンを進む。
焼いて、食べて、たまに触手を生やした化け物を蹴散らしながら。
肉壁から現れるのはゾンビ犬だけじゃなくなってきた。
グロテスクなのは相変わらずだけどね。
四角い箱みたいな臓物に詰め込まれた触手とか。
人の形を取ったナニカから生えまくってる触手とか。
触手の塊とか。
うん。どんだけ触手が好きなんだ、って話だよね。
結局は燃え易い敵ばかりで、片付けるのは簡単だったけど。
《総合経験値が一定に達しました。魔眼、ジ・ワンがLV7からLV8になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《行為経験値が一定に達しました。『鑑定』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『精密魔導』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『高速魔』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『連続魔』スキルが解放されます》
単調だけど、戦闘は続いてる。
おかげで経験値は稼げてるみたいだね。
新しいスキルの『連続魔』は、魔術の発動が速くなるっぽい。
いまのボクは風を起こす魔術しか組んでないけど、術式の構築作業に慣れてきたってことかな。
別々の術式を連続して扱うのも、機会があったら練習しておきたいね。
多数の敵を相手取る時には助かりそうなスキルだし。
絶賛、多対一の戦闘を継続中だし。
たまに途切れるけど、肉壁に近づくとやっぱり襲われる。
継続というか、断続的な戦闘だね。
だけど、ずっと肉壁と戦い続けてるとも言えるかな。
焼き払いながら進んでるんだけど、二層に入ってから肉壁は途切れてない。
この階層全体を覆ってるのかも知れないね。
それと、不思議なことが起こってる。
体感で一時間以上は進んでるのに、ボクは迷ってない。
迷う余地がないんだよね。
二層目もかなり広くて、枝分かれしてる道もあったのに。
一本道にダンジョンが変化していった。
最初に三叉路を見つけた時だ。
肉壁を焼き払いながら、ボクはどの道に進もうか迷っていた。
だけど天井から石壁が降りてきた。
通路を塞いで、選択肢をひとつに絞ってくれたんだね。
まるで、ボクを誘導してるみたいに。
ここで気になるのは、通路を塞いだのが”石壁”だっていうこと。
肉壁じゃない。
まあ肉壁だった場合は、焼いて片付けられたんだけど。
つまりは、ボクの道を効果的に塞ぐだけの知能が働いている。
しかもその知能は、ダンジョンを操っている。
ダンジョンマスター存在説が急に現実味を帯びてきたよ。
そうなると、このまま進むのは危険だと思えた。
だって知能のある相手の庭に飛び込んだようなものだからね。
頑丈な石壁を操れる。
それだけでも充分に脅威だよ。
もしも壁で四方を囲まれたら、そのままボクは潰されるかも知れない。
あっさりと詰みだ。
そう考えて、即座に引き返そうとした。
全速力で逃げればなんとかなるかも―――なんて、甘かったね。
通ってきた道が、石壁で塞がれてた。
どうあってもボクを奥へ進ませたいらしい。
すっかり罠に嵌まっちゃったみたいだね。
お肉で釣られちゃったワケだ。
いやまあ、このグロテスクな肉壁が食料になるとは、相手も考えてなかっただろうけど。
あ、でも味覚や美的感覚が根本的に狂った相手なら有り得るのかな。
血塗れの光景にうっとりするような相手とか?
嫌だなあ。
出会ったら、即座に『万魔撃』を叩き込もう。
だけど出会わないのが一番なんだよね。
こうなると、本格的に石壁の破壊を試みるべき。
『万魔撃』の威力向上を図ろうか。
それとも、有用そうな魔術の開発でも挑戦してみる?
とりあえず食べ物はあるし、襲ってくる敵に注意すれば、研究する時間も取れると思う。
破壊する魔術じゃなくて、搦め手に頼るのもいいかもね。
頑丈な石壁で一番厄介なのは、自動修復機能があることだ。
それさえ防げば、『万魔撃』を何発か撃ち込めば壊せる。
自動修復も魔術的なものだから、邪魔するのは可能なんじゃないかな?
例えば、魔力の流れを塞き止めるとか、乱してやるとか。
魔力に対するなら、『破魔』系の攻撃が使えれば―――。
そんなことを考えながら、通路を進んでいた。
《行為経験値が一定に達しました。『回避』スキルが上昇しました》
攻撃が来る方向は前方。そう決まってたのが良かったね。
咄嗟に避けて、毛針で迎撃、『加護』でも防いだ。
襲ってきたのは数本の触手だ。
ただし、これまでのよりも格段に長い。
先端には、鋭い棘が何本も生えてる。
その触手は、前方を扉みたいに塞ぐ肉壁から生えていた。
これまでも通路は肉壁に覆われてたけど、行く手を塞ぐ形のは初めてだね。
肉壁全体が威圧するみたいに蠢く。
どうやら、これ以上はボクを進ませたくないらしい。
ん? んん? おかしくない?
誘導して、ボクをここまで進ませてきたのに。
石壁は進ませたいのに、肉壁は進ませたくない?
どういうことだろ?
気になるけど、考えるのは後にしよう。
触手の攻撃はけっこう鋭い。
距離を取る。と、肉壁が何か飛ばしてきた。
弾丸みたいなそれを、毛針で迎撃、また『加護』で防ぐ。
床に落ちたのを見てみると、人の指くらいの尖った骨だった。
刺さったら痛そうだね。
おまけに、骨の内部からは異臭を放つ液体が漏れてる。
毒付きの骨弾ってところかな。
喰らいたくないね。
毛針を飛ばしつつ、『雷撃の魔眼』も散らしていく。
同時に肉壁を焼きながら後退する。
《行為経験値が一定に達しました。『高速撃』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『強力撃』スキルが上昇しました》
ある程度の距離を取ると攻撃が治まった。射程距離から外れたらしい。
でも、こっちはまだ射程距離内だ。
『万魔撃』、発動。
通路を埋め尽くすように、極太の魔力ビームが貫いていく。
肉壁が抵抗するみたいに蠢いた。
でも、それだけだ。
立ち塞がっていた肉壁が、塵になって消えていく。
後には、開かれた石造りの扉が残った。
え? 扉? しかも開きっぱなしの?
ああ、やっぱり”石”の方は、ボクを奥へ招いてるんだね。
それを”肉”の方が邪魔しようとしてる、と。
邪魔したい理由もなんとなく分かった。
扉の奥に、これまでと少し変わった景色があったから。
大きな広間のはずなのに、やけに狭く見える。
原因は、中央に大きな肉があるから。
肉というより、臓物だね。
グロい。気持ち悪い。あんまり観察もしたくない。
ここまでの肉壁でもSAN値を削られそうだったけど、また一際グロいよ。
『ピーーーー』で『Pi----』で『ズキューーーン』な感じだね。
未成年に見せていいものじゃない。
そういえば、ボクって前世を合わせても未成年だったね。
毛玉年齢だと、まだ一才にもなってない。
どうでもいいか。相手は倫理なんて知ったことじゃなさそうだし。
ともかくも、そんな臓物?、心臓っぽいね。
それが広間の中央で脈打ってる。
たぶん、肉壁の大事なものなんだろうね。
だから守って、ボクを進ませないようにした。
逆に、石壁はこれを排除したかった?
あるいは、ボクの力を試してる? 遊んでるつもり?
どっちにしても、ボクがやることは変わらないね。
気持ち悪いし。
綺麗さっぱり消毒させてもらおう。




