06 進化したよー……?
《魔獣、ティニィ・ロウ・ベアルーダへの進化が完了しました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《行為経験値が一定に達しました。『耐久』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『打撃耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『苦痛耐性』スキルが大幅に上昇しました》
いだだだだだだっ!?
なにこれ!? いったい、何が起こってるの?
周囲を見回す。
どうやらボクは、草むらにいるらしい。雑草だらけだ。
あと、黒い毛が見える。
っていうか、これボク自身から生えてるのか。
進化して、白毛玉から黒毛玉になったみたいだね。
なんか悪役っぽいなあ。
まあ、見た目の問題はひとまず置いておこう。
体の感覚も少し違ってるね。
とりあえず、ちょっと前まで感じてた衰弱感は消えてる。
助かったって考えてよさそうだ。
全方位見渡せるのは相変わらず。基本デザインは変わってないのかな。
でも、少し大きくなった気がする。
テニスボールから、ソフトボールくらいに?
体重も増えたみたいだね。
少なくとも、草むらが揺れる程度の風が起きても飛ばされない。
そして、嬉しいことに足が生えてる。
虫みたいに、左右に四本ずつ。合計八本。
やった! これで自由に動けるよ!
もう風任せの毛玉生にはさよならだ。
あれ? なんでこんな当り前のことで喜んでるんだろう?
なんだか涙が溢れてくるけど、きっと気の所為だよね。
痛みの所為だよ。
うん。その痛みの原因も分かった。
脚が圧し折れてる。ぽっきりと。
右側の脚が三本。その内、一本は完全に千切れてるね。
残り二本も、皮一枚で繋がってるような状態。
痛いはずだ。
おまけに、体の方もかなり傷ついてるみたい。
進化した所為じゃない。
きっと、その後だ。
視線を上方へ向けてみる。
木の枝がけっこう高い位置にある。
進化して意識を失った直後に、そこから落ちてきた訳だ。
白毛玉だった頃なら違っただろうけど、いまのボクはそこそこに重さもある。
なんとなくだけど、ミカンかリンゴくらいの重さかな。
問い:リンゴが数メートルの高さから落ちたらどうなるか?
答え:砕け散ります。
万有引力を発見する、なんて答えが許されるのはニュートンの特権だ。
脚の数本と打撲だけで済んだのは、本当に幸運だね。
一応、シルバーには毛を絡めておいたんだけど、進化して黒毛になって解けちゃったみたいだ。
辺りをよく見てみると、ボクの物だったらしい白い毛が散らばってる。
絡みついた羽毛と一緒に。
進化の際に変形して、こう、脱皮するみたいに出てきたってことかな?
で、驚いたシルバーに背中から振り落とされた、と。
くそぅ、シルバーめ。
驚くのは分かるけど、なにも落とさなくてもいいのに。
仮にも仲間に対して薄情じゃない?
《行為経験値が一定に達しました。『生命力強化』スキルが上昇しました》
って、ウミネコに怒ってる場合じゃないね。
まずは怪我をなんとかしないと。
こういう時こそ『治療系魔術』の出番だ。
使い方は分からないけど、『魔術知識』があればイケる気がする。
なにせ、ボクには『魔導の才・極』があるからね。
魔法関連なら、きっと無茶も利く。
ポイントも、進化したおかげで350まで増えた。
進化ボーナスって言うのかな、それが大きいみたいだね。
余裕があるとは言えない。でも温存しておく状況でもない。
ってことでシステムさん、『魔術知識』をくださいな。
《申請を受諾しました。『魔術知識』への閲覧許可を取得します》
《残りカスタマイズポイントは300です》
システムメッセージが告げられると、ボクの前に光が浮かんだ。
光は四角い形を取る。本の形だ。
なるほど。これを読んで知識を得ろってことか。
空中に浮かんだ本は、意識すれば自由に動かせる。
傾けたり、振ってみたり、ページをめくるのも簡単だね。
それじゃあ早速、読んでみよう。
ドキドキするね。
これで今日からボクも魔術師―――……って、ダメだ。あかん。
文字が読めない。
えぇ~……なにこれ? どういうこと?
ステータスは普通に読めるんだから、こっちの本も翻訳してくれればいいのに。
まさか、これはアレ?
言語スキルとかを取れっていうセット商法?
本体無料、ソフトが10万円、みたいな。
《『共通言語』は閲覧許可を取得可能です》
《カスタマイズポイントが足りません》
おのれシステム! この借りはいつか返すよ!
と、怒ってる場合じゃないね。
さっさと怪我を治さないと、本当に命に関わる。
幸い、文字は読めなくても、描かれている術式は見て取れる。
三次元的な、複雑な模様みたいな術式だ。
たぶん、この形に魔力を組んでいけば何かしらの術が発動するんだと思う。
でもさぁ、その術式、十数種類も載ってるんだよね。
おまけに、治療系の魔術があるとも限らない。
もしかしたら、毛玉爆散術式なんてものがあるかも知れない。
いやまあ、それはさすがに冗談だとしても、だ。
魔法を失敗して爆発、とかありそうじゃない?
あるよねえ。有り得るだろうねえ……それでも、この怪我はなんとかしたい。
もしかしたら、一発で治療系魔術を当てられるかも知れないし。
ってことで、ひとまず試してみよう。
『魔術知識』に記された中から、勘に頼ってひとつの術式を選ぶ。
球状に描かれた方程式みたいなやつだね。
それを、魔力を操って描いていく。
けっこう複雑な図式だけど、『魔導の才・極』を持つボクなら簡単……、
む?、あれ?、意外と難しい―――!?
《行為経験値が一定に達しました。『衝撃耐性』スキルが上昇しました》
ぶえっ。吹っ飛ばされた。
いきなり術式が弾けたかと思うと、ボクの体を衝撃が襲った。
木の幹にブチ当たって止まったけど、けっこう痛い。
うん。やっぱりあったね、魔術の暴発。
納得してる場合じゃないか。いまので、怪我がさらに酷くなった。
黒毛が赤い液体で濡れてる。
ボクの血だ。ちゃんと赤い色なんだね、とか感心してちゃいけないね。
ひとまず魔術はダメ、と。
でも急いで治療手段を探さないと。今度こそ手遅れになるよ。
とりあえず傷口だけでも塞げないかな。
『干渉』で自分の毛は動かせるんだし、なんとかならない?
こう、ぎゅっと押して密着させる感じで。
《行為経験値が一定に達しました。『干渉』スキルが上昇しました》
手で傷口を押さえるみたいに、魔力を集中させてみる。
む? なんとなく良い感じだ。
仄かに魔力光が漏れるけど、むしろ温かくて心地良いくらいだね。
このまま治ってくれればいいんだけど―――、
《行為経験値が一定に達しました。『自然治癒』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『自己再生』スキルが上昇しました》
え? なに? 治癒に再生?
それ、いま一番欲しい技能なんですけど?
もしかして傷口に魔力を集めてたのがよかったのかな。
もう一度、同じように試してみる。
ん……んん~? 魔力集中は問題なくできるけど、治ってる感じはしない。
なんだろう? さっきと何処が違う?
傷口を押さえようと必死で、とりたてて変わったことなんてしてないはず……、
”それ”が良かったのかな?
よし。もう一度試してみる。
治れ~、治れ~、と念じながら魔力集中。
《行為経験値が一定に達しました。『魔力操作』スキルが上昇しました》
温かい魔力光が溢れてくる。
少しずつだけど、傷が癒えていくのが感じられる。
なるほど。意識すれば毛針を動かせるのと、基本的には同じだね。
この世界の魔力は、どうやら随分と応用範囲が広いらしい。
しっかりと意識を向ければ、望んだ現象を起こしてくれるみたいだ。
もちろん、何でも簡単に、とはいかないだろうけど。
今回は、”自分の傷を癒す”っていう比較的難易度が低い現象だったから、手順も簡単で済んだ。
自然治癒の力、元から起こる現象を強化したってところかな。
まあ、そんな理屈はともかく、だ。
『自己再生』の手法は分かった。ゆっくりだけど、傷も治ってきてる。
だけどこれ、想像以上に魔力消費が大きいね。
旅の途中で魔力量はそれなりに鍛えてきたつもりだけど―――、
あ、マズイ。空になりそう。なんだか嫌な予感がする。
ストップ! ストぉ~ップ!
《行為経験値が一定に達しました。『高速思考』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『危機感知』スキルが上昇しました》
ふぅ。危なかった。
魔力が空になったらどうなるのか、興味はあるけど試してみる気にはなれないね。
だって『危機感知』なんてスキルも上がってるし。
ゲームとかだと気絶するだけで済む場合が多いけど、もっと危ない気がする。
まあ、ボクは魔法に頼りきりだからね。
魔力は生命線とも言える。
よほどのことがない限り、余裕を残しながら使うようにしよう。
ひとまず治療手段は手に入れた。
血も止まったみたいだし、いまは魔力の回復を図ろう。
旅の途中で、『瞑想』なんてスキルも見つけたからね。
心を落ち着けて、体の奥から魔力が湧き上がってくるようなイメージを作る。そうすると若干だけど回復が早くなる。
《行為経験値が一定に達しました。『瞑想』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『待機』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『魔力強化』スキルが上昇しました》
この『待機』はよく分からないね。
じっとしてると上がるスキルなんで、自然と鍛えられてるみたいだけど。
何にしても、いまは動けない。
ステータスでも見ながら、今後の方針を考えておこうか。
進化もしたことだしね。
普通なら最初に確認すべきなんだろうけど、いきなり大怪我してたからねえ。
ともあれ、ステータス、と。
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魔獣 ティニィ・ロウ・ベアルーダ LV:1 名前:なし
戦闘力:44
社会生活力:-480
カルマ:-660
特性:
魔獣種 :『毛針』『吸収』
魔導の才・極:『干渉』『魔力強化』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・参:『器用』
不動の心 :『我道』
閲覧許可 :『魔術知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』
カスタマイズポイント:300
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