02 はじめてのダンジョン探索
『破砕針』を飛ばす。
それだけでスケルトンは砕けて、動かなくなる。
だけど放っておくと砕けた骨が寄り集まって、また襲ってくる。
どうやら体の中心にある黒い球体を潰さないとダメみたいだね。
そう分かった後は簡単だった。
毛針で体ごと砕いた後に、動きの止まった弱点を潰せばいい。
二度手間を掛けなくても、衝破や雷撃の魔眼なら数体まとめて倒せる。
苦戦することもなかった。
数分後、ボクの足下には大量の白骨が転がっていた。
途中から数えるのも嫌になったけど、合計で数十体は襲ってきたね。
最初は数体だと思ったのに、通路の奥からゾロゾロと押し寄せてきた。
結局は全部倒したけどね。
ただ、人間の骨っぽいのは少なかったね。
人型ではあるけど、妙に横幅が広かったり、甲羅を背負ってるのもいた。
以前に会った亀オークのスケルトンみたいだったね。
他にも、人型だけど顔の形は狼やワニっぽいのもいた。
完全に犬や狼なスケルトンもいたね。
元が人間だったものの方が少ないみたいだ。
地上には魔獣が多かったし、その死体の成れの果てなんだと思う。
まあ、細かい理屈はいいや。
問題なのは、このスケルトンが御飯にはならないってこと。
戦闘はけっこう余裕があったんで、『完全吸収』も試してみた。
まだ動いてるスケルトンに対して、ね。
だけど、あんまり吸収できた感じがしない。
なんていうか、普通の獲物が栄養たっぷりのジュースだとしたら、スケルトンはスカスカのスポンジみたいだった。
生命力がないから、って解釈でいいと思う。
動かなくなった骨も吸収してみたけど、同じような感覚だね。
一体で葉っぱ一枚分も空腹を満たせない。
そのまま骨を齧ろうにも、アンデッドの骨だしねえ。
毒とか呪いとか、そういう体に悪いものを抱えていそうだよ。
だけどまあ、餓死してこいつらの仲間入りはしたくない。
狼っぽいスケルトンの骨をいくつか持っていこう。
齧りながら探索だね。
食料か脱出路、どちらかを見つけに行くとしよう。
灰暗い通路をふらふらと進む。
お腹の痛みを堪えながら。
うん。お腹が何処かよく分からないけどね。
とにかく痛い。ちょっと気分も悪くなってきた。
《行為経験値が一定に達しました。『猛毒耐性』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『死毒耐性』スキルが解放されます》
耐性強化だー、ってあんまり喜べないね。
『大治の魔眼』を発動しながら、毒が抜けるのを待ってる。
でも探索も進めないといけないのが辛いところだ。
原因は、骨です。
齧らなきゃよかった。
ちょっとした毒くらいなら耐えられるって思ったのが甘かったね。
アンデッドの骨に詰まってた毒は、想像以上に強力だった。
でも『吸収』した時は大丈夫だったんだけどねえ。
やっぱり直接口に入れると違うのか、蓄積した結果なのか。
どっちにしても油断だったね。
だけどまあ、死毒だったら以前にも耐えた経験があるし。
当時よりはボクも格段に強くなってるから、このまま切り抜けられると思う。
『大治の魔眼』は、少しだけど状態異常も回復してくれるからね。
それよりも空腹の方が問題だ。
地下ダンジョンの探索を始めてから、体感でもう数時間は過ぎてる。
枝分かれした通路とか、行き止まりにある広間くらいしか見つかってない。
あとは、正体の分からない魔獣っぽいものの死体が転がっていたり。
スケルトンがちょこちょこと襲ってきたりする。
ほら、いまもまたカチャカチャとした足音が近づいてきた。
毒で弱ってる状態だけど、スケルトンくらいなら問題ないよ。
『雷撃の魔眼』、発動。
数体をまとめて倒して、戦闘終了。
あっさりだね。
怪鳥とか魚竜みたいな大物が出て来ないのは助かってる。
こういう密閉空間だと、ボクの戦い方も少し工夫が必要だからね。
まず『災禍』や『死滅の魔眼』を使うのは危ない。
ボクが巻き込まれる恐れがあるからね。
とりわけ『災禍』の病魔効果は、耐性も持ってないので要注意だ。
混乱や麻痺効果だけ使えればいいんだけどね。
残念ながら、まだ研究中。いずれにしても広い場所に出てからだね。
というか、早く広い場所に出たい。
地上が恋しい。
べつにボクはアウトドア派じゃないんだけどね。
むしろ、部屋に篭もってちまちまとした趣味に耽ってる方が好みだけど。
だけど自分の部屋とダンジョンじゃ大違いでしょ。
部屋から出ないのと出れないのじゃ、まったく異なるんだよね。
しかし、本当に脱出路が見つかるかどうか不安になってきた。
無理してでも壁をブチ破る努力をした方が早いんじゃ―――、
なんて思ってた時に、見つけたよ。
脱出路を。
ただし、この階層からの。
さらに地下へと向かう脱出路を。
なにやら大仰な両開きの扉があったんで、警戒しながらも入ってみた。
そこ自体は何もない広間だったけど、さらに奥の通路を進むと階段があった。
うん。下へ向かう階段がね。
求めてたのはコレじゃないよ。
どうして上に繋がってないかなあ。
はあ。文句を言っても仕方ないのは分かってるんだけどね。
逆方向に進めば地上への道に繋がるかも、とは思う。
だけどその保障もない。
出口まで何日も掛かる可能性もあるし、そもそも存在しない恐れだって捨て切れない。
それに、この階段も目の前にあると気になるんだよ。
毒も抜けてきたし、空腹は問題だけど丸一日くらいなら堪えられそうだ。
だから、とりあえず地下へ進んでみることにした。
もしかしたら壁が脆くなってブチ破れるかも知れない。
そんな自分でも納得できない期待を抱いて進む。
階段の途中で、雰囲気が変わったのが分かった。
通路の造りなんかの風景は変わりない。
でも空気が少し暖かくなった?
それは錯覚じゃない。だけど、むしろ警戒心は増してくる。
恐怖というほどじゃないけど、背筋が冷たくなる感覚があった。
慎重に進む。
しばらくして、ヒタヒタと近づいてくる音があった。
スケルトンとは明らかに違う。
もっと鈍い、肉感のある足音みたいだ。
まるで濡れた足で歩いてくるような―――その正体は、すぐに分かった。
通路の奥から、そいつらはゆっくりと現れた。
犬だ。かなり大型の。
四つ足状態でも、頭の高さが人間の胸まで届くくらいの。
それくらいなら、もっと大型の魔獣を見慣れたボクは驚かない。
むしろ喜ぶべきだよね。
肉付きの犬だし。
やっと御飯にありつける、と。
ただし、その肉は腐ってるワケだけど。
そう、ゾンビ犬だね。
またアンデッドだよ!
しかも異臭を放つ体液を飛ばしながら向かってくる。
この時点でもう食欲激減だ。
そりゃあ世の中には臭くても美味しいものもあるらしいけど。
少なくともボクの好みじゃない。
『吸収』する気にもなれないね。
さっさと片付けて―――と思った瞬間、ゾンビ犬の背中が割れた。
これにはさすがに驚かされた。
何事!?、と目を見開いて固まってしまう。
その隙を突くみたいに、ゾンビ犬の割れた背中から触手が伸びてきた。
灰色とピンク色が混じり合った、気持ち悪い触手だ。
ボクは咄嗟に毛針を飛ばしつつ後退する。
不意は打たれたけど、相手の動きはさほど速くない。
掠りそうになっても、『加護』で充分に防げる程度だった。
怖くはない。気持ち悪くて、驚かされただけ。
『雷撃の魔眼』、発動。
青白い光に貫かれたゾンビ犬は、そのまま動かなくなる。
念入りに毛針を突き刺して、トドメを確認する。
大丈夫そうだ。
あとは、このゾンビ肉を食べられるかどうか、試してみる?
さすがに躊躇われるね。
焦げるほどに焼けば食べられなくもなさそうだけど、最後の手段かな。
地下で炎を使うのも慎重に考えないといけないし。
ほら、二酸化炭素とかの問題もあるから。
それに―――、
ボクはゾンビ犬が出てきた通路の奥へと目を向ける。
少し進むと、その異常な光景が確認できた。
これまでの石壁に囲まれただけの、単調な様子とはまるで違っている。
壁も床も天井も、そこかしこから異臭を放っている。
脈打っている。
まるで、曝け出された臓物みたいに。
もしかしたらボクは、いつの間にか巨大生物に呑み込まれていたのかも知れない。
そんな錯覚すら起こしそうな、おぞましい通路が続いていた。




