01 不屈の毛玉
ボクは暗闇の中にいた。
何をしてたのか、何処にいたのか、よく思い出せない。
ただ、眠かった。
自分が終わっていくのが感じられた。
まるで自分自身が砂粒になって散らばっていくみたいな感覚だった。
死ぬ。
それだけは、はっきりと理解できた。
だから想った。
死にたくない。もっと生きていたい。
この世界は楽しいから、もっと、もっと―――。
《行為経験値が一定に達しました。『不屈』スキルが上昇しました》
ドクン、と全身が脈打った。
同時にボクは目を覚ます。
即座に状況を確かめようとしたけど、それどころじゃなかった。
激痛が襲ってきた。
いだだだだだだっ!?
なにこれ? ああ、そうか、特大の雷撃を喰らったんだ。
地中に潜ろうとしてたから幾分か散らされたはずなのに、それでも消し炭になるんじゃないかっていうくらいの威力だった。
実際、自慢のふわふわ黒毛が焼け焦げて周囲に散らばってる。
普段は全方位の視界も、欠けてる部分が多いね。
サブカメラをやられただけだ、なんて強がれる状況じゃない。
単眼が無事だったのは奇跡だね。
全身に火傷を負わされて、所々に裂傷もあるみたいだ。
内部までダメージがきてるんだろうね。
浮かぶのも、ちょっと無理?
魔力回路まで傷ついてるのかな?
よく分からないけど、とにかく深刻な重傷みたいだ。
まともに動けないなんて、白毛玉だった時以来だね。
魔力も尽きかけてる。
とりあえず『自己再生』を試してみたけど、数秒が限界だ。
なんとか命は繋いだけど、しばらくは魔力の回復を待たないといけない。
でも、妙だね。
サンダーバードの雷撃に撃たれた時には、まだ魔力に余裕があったはずだ。
全身ボロボロなのは納得できるんだけど……、
ああ、そういえば『不屈』スキルが上昇したってメッセージがあったね。
生き残れた、そのおかげ?
瀕死でも生き残れたけど、代わりに魔力が使われたのかな。
まあ経緯はともかく、自身の状態は分かった。
問題は、周りの状況がいまひとつ掴めないことだね。
暗闇なのは問題じゃない。
ボクは夜目が利くし、いざとなれば魔力光で照らせる。
とりあえず脅威になりそうなものは見当たらない。
気掛かりなのは、ボクがいる場所だ。
どうやら石造りの通路に転がってるみたいだ。
まるでダンジョンみたいに、数人は並んで通れそうな幅広の通路が伸びてる。
たしかボクは、地下へ潜って逃げようとした。
でもそこで石壁に邪魔されて、雷撃を喰らったはずだ。
正直、死んだと思った。
奇跡的に重傷で済んだみたいだけど、それでも地中に生き埋めにされてないとおかしい。
少なくとも、こんな地下通路みたいな場所にはいなかったはず。
誰かに運ばれた?
でもボク以外の気配はない。
魔術で転移でもした?
そんな現象が起こるのも不思議だ。
んん~……もしかして、雷撃でさらに地下へ落とされたのかな?
ボクの逃亡を防いだ石壁が、この地下通路の天井だとすれば理屈は通る。
雷撃で天井が崩されて、ボク自身はこの通路まで落下した、と。
そうなると、天井は崩れてることになる。
だけどこの通路は傷もなくて……あ、床には石の破片が転がってる。
破片というか、瓦礫だね。
天井は綺麗なものだけど、綺麗すぎるとも言える。
壁や床もそうだね。埃は積もってるのに、まるで新築物件みたいだ。
つまりは、一回天井が崩れたけど、修復された。
そう考えると辻褄が合う。
いや、強引な推理な気もするけどね。
こういう発想が出てくる時点で、ボクもこの世界に染まってきてるよね。
魔法なんてものがあるんだし。
雷撃を降らしてプラズマボール撃ちまくる鳥がいるんだし。
自動修復される壁や天井くらいあるでしょ。
ボクが作った土壁も、強化した上に”永続化”まで掛けてたからね。
さすがに自動修復機能はなかったけど、試したらいけるかな?
”永続化”って、大気中の魔力を利用してる形なんだよね。
だから、大量の魔力が必要になると難しい。
自動で大気中の魔力を集めても、修復には時間が掛かりそうだ。
あ、でも何処かに貯蓄とかしておけば―――。
《行為経験値が一定に達しました。『沈思速考』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『恒心』及び『多重思考』スキルが解放されます》
と、新スキルか。
『多重思考』の方は、読んで字の如しって考えてよさそうだね。
複数の物事を考えられる?
あんまり実感はないけど、右手と左手で別々のことを出来たりするのかも。
まあ、手なんて無いんだけど。
『恒心』は……『瞑想』の上位版かな?
いまのボクは魔力回復を図ってるんだけど、また少し回復速度が上がった気がする。
そろそろ『大治の魔眼』を使っておこう。
飛べるくらいには回復しないと、何か起こった時に困る。
魔力の巡りが少し悪いけど、しっかり意識すれば抑え込めるくらいだね。
さて、治療をしながら、あらためて周囲を窺う。
うん。ダンジョンっぽい。以上。
なんでこんな場所があるのか、ボク以外に生き物がいるのかどうか、疑問は尽きないけどね。
答えは出そうにないし、いまは在りのままを受け入れるしかないね。
まずは回復。
その後で、探索してみれば分かることも出てくるはず。
ひとまずはサンダーバードから逃げられたと喜んでおこう。
回復を図ること数時間―――、
まだ完調とは言えないけど、問題なく動けるようにはなった。
全身に魔力が巡る。
『空中機動』も自然に扱えるね。
複数ある眼も『自己再生』で治せたし、全方位の視界も良好だ。
ただ、体力だけはどうしようもない。
少しふらつく。
いや、浮かんでいるのに妙な表現だけどね。
お腹が空いてるのも原因かな。
バナナはもう無いし。
森とは違って樹液を啜るのも無理だ。
地上に出られれば、食料を手に入れるのは難しくない。
このダンジョンのことも気になるけど、探索は後回しで構わないからね。
急いで拠点に帰ってもいい。
サンダーバードも、もう何処かに行ってるでしょ。
そう考えて、まずは脱出を試みもしたんだよ。
壁さえ崩せれば、地上まで掘り進められるからね。
だけどこの壁、とんでもなく頑丈だった。
『万魔撃』と『衝破の魔眼』を撃ち込んでみたけど、少ししか崩れない。
『徹甲針』も刺さりはするけど、自動修復で押し返される。
連続での『万魔撃』ならいけそうだけど、残念ながら”溜め”が必要だ。
単純な硬さじゃなくて、魔術的な防護もされてるみたいだよ。
ボクが通れるほどの穴を空けるのは、いまは無理っぽい。
逆に言えば、サンダーバードの雷撃がそれ以上に強烈だったってこと。
ほんと、よく生きてたものだよ。
いや、仮死状態みたいなものだったから生きてなかったのかな?
まあ細かいことはいいか。
それよりも、なんとか脱出路を探さないといけない。
もしくは食べ物を入手するか。
ダンジョンと言えば、魔獣とかも徘徊してそうだけど―――。
と、そこで小さな音が響いてきた。
カチャカチャと。細かな音が通路の奥から近づいてくる。
ボクは身構える。
隠れられそうな場所もない。
なんだろう? 魔獣? 人間? あるいは他の何か?
どっちにしても接触は避けられそうにない。
戦いになる可能性もあるね。
それは歓迎できないけど、上手くすれば食べ物が手に入るかも。
警戒と同時に、淡い期待も浮かぶ。
でも、ボクの前に現れたのは骨だった。
人型の動く骨。スケルトンってやつだね。
それが数体。武器を持って、あまり友好的ではない様子。
身振り毛振りでコミュニケーションを取ろうとしても、構わずに剣を振り上げて向かってくる。
どうしよう?
いや、この状況じゃ戦うしかないんだけどね。
それはいい。弱そうだし。きっと倒せる。
だけど、ねえ?
果たして骨はお腹の足しになるのか、それが問題だ。
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魔眼 ジ・ワン LV:7 名前:κτμ
戦闘力:7920
社会生活力:-3250
カルマ:-7480
特性:
魔獣種 :『八万針』『完全吸収』『変身』『空中機動』
万能魔導 :『支配』『魔力大強化』『魔力集束』『破魔耐性』『懲罰』
『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』
『土木系魔術』『闇術』『高速魔』『魔術開発』『精密魔導』
『全属性耐性』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・極:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』『建築』
不動の心 :『極道』『不屈』『精神無効』『恒心』
活命の才・壱:『生命力大強化』『頑健』『自己再生』『自動回復』『悪食』
『激痛耐性』『猛毒耐性』『下位物理無効』『闇大耐性』
『立体機動』『打撃大耐性』『衝撃大耐性』
知謀の才・弐:『鑑定』『記憶』『演算』『罠師』『多重思考』
闘争の才・弐:『破戒撃』『回避』『強力撃』『高速撃』『天撃』『獄門』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』『状態異常大耐性』
共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』
覇者の才・壱:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則改変』
隠者の才・壱:『隠密』『無音』
魔眼覇王 :『大治の魔眼』『死滅の魔眼』『災禍の魔眼』『衝破の魔眼』
『闇裂の魔眼』『凍結の魔眼』『雷撃の魔眼』『破滅の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『極悪』『魔獣の殲滅者』『蛮勇』『罪人殺し』
『悪業を積み重ねる者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』
『エルフの恩人』『魔術開拓者』『植物の友』『職人見習い』『魔獣の友』
『人殺し』
カスタマイズポイント:370
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