23 毛玉vs雷鳥②
雷撃が大気を焼き焦がす。
鼻につく匂いが漂う。オゾン臭って言うのかな?
何にしても気に留めてる余裕はないね。
最初の一撃は辛うじて、逸らして、防いだ。
サンダーバードは僅かに目を見開いたけど、すぐに愉しげに口元を緩めた。
鳥なのに笑えるんだね。
なんてボクが感心してる間にも、次の雷撃が放たれる。
今度は三本、ボクの逃げ道を防ぐように。
だけどその雷撃も逸れる。
直前にボクが放っておいた『避雷針』に向かって。
そう、『八万針』の中には、こんな変り種の針もあった。
空中にばら撒いておくと、完全ではないけど雷撃を散らしてくれる。
ボクの方にも少しは流れてくるけど、『加護』で防げる程度だ。
《行為経験値が一定に達しました。『風雷耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『加護』スキルが上昇しました》
一旦、サンダーバードの攻撃が止んだ。
その隙を狙って、今度はボクの方から反撃する。
『死滅の魔眼』、全力発動!
《行為経験値が一定に達しました。『魔力集束』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『死滅の魔眼』スキルが上昇しました》
サンダーバードの眼前で、青白い光が瞬いた。
雷撃で作られた障壁みたいだ。
予想はしてたけど、魔眼が完全に防がれてる。
ボスに即死は通用しない?
というか、単純に実力の差だろうね。
速度も、攻撃力も、防御力が相手の方が上回ってる。
こんな化け物相手にどうすればいいんだろ。
魔眼は通用しない。
毛針も撃ちこんでみたいけど、あっさり障壁で弾かれて、焼き散らされた。
『懲罰』や『獄門』も乗せてみたけど、相手に当たらないんじゃ意味がない。
巨大魚竜を倒したみたいに『吸収』を狙う?
無理でしょ。取り付いた瞬間に黒焦げにされるよ。
なら、『万魔撃』を何度も撃ち込めば?
百発くらい叩き込めば何とかなるかもね。その前に消し炭にされそうだけど。
あの巨大な翼で軽く叩かれただけで潰されそうだ。
うん。地面に叩き潰されて、ぷちっと。
バスケットボールくらいには頑丈になったボクだけど、サンダーバードからすれば紙風船みたいなものでしょ。
逃げようとしても回り込まれる。
打つ手がない?
でも、諦めたらそこで毛玉終了だし―――。
とにかく距離を取るように飛びながら、時間を稼いで考えを巡らせる。
サンダーバードも追ってくる。
今度は上空に回ると、大きく口を開いた。勢いよく息を吸い込む。
まさか、ブレス?
だけど雷撃って感じじゃない。
何だか分からないけど強烈な攻撃が来る。
全身の毛が逆立つのを覚えて、ボクは溜めておいた『万魔撃』を放った。
開かれていたサンダーバードの口を狙って。
直後、サンダーバードのブレスも放たれる。
雷撃じゃない、竜巻みたいな風と衝撃波のブレスだ。
魔力ビームと衝撃波がぶつかり合う。
空中の激突で―――押し負けたのは、『万魔撃』の方だった。
暴風がボクを襲う。
だけど威力は随分と落ちて、『加護』でさらに抑えられた。
それでも強烈な風は、刃みたいにボクの体を傷つけていった。
毛が数十本まとめて千切れ飛ぶ。
複眼も二つほど潰された。
森に叩き落されそうにもなったけど、辛うじて堪えて風の暴力から逃れる。
《行為経験値が一定に達しました。『加護』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『衝撃大耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『全属性耐性』スキルが上昇しました》
どうにか体勢を立て直して、サンダーバードを見上げる。
そこには、幾つもの煌々と輝く球体が浮かんでいた。
もうやだぁ! おうちかえる!
って、幼児退行してる場合じゃない!
だけどこの状況、ほんとに泣いて逃げ出したいよ!
サンダーバードを取り巻くみたいに浮かぶ球体、それはプラズマだ。
たぶんね。ボクの半端なSF知識による推測だけど。
雷を操ってプラズマを発生させてるとか、そんな理屈でしょ。
細かいことは魔法だからってことで。
何にしても、アレは当たったらマズそうだ。
ともかく距離を取ろうとするボクに対して、サンダーバードは口元を吊り上げる。
貴様にこれが防げるか?、みたいな感じで。
きっと自信のある必殺技なんだろうね。
だけど敵が大技を出す時こそチャンスじゃない?
それを破って一発逆転してこそ主人公だ。
うん。無理だね。
だってほら、ボクって毛玉だし。
カルママイナスで、むしろ悪役だし。
これはもう覚悟を決めて、せめて格好良く散った方がいいんじゃない?
なんて考えも浮かんでくるけど―――。
《行為経験値が一定に達しました。『空中機動』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『雷撃の魔眼』スキルが上昇しました》
プラズマ火球が放たれると同時に、ボクも雷撃をばら撒く。
同じ電気に関係するものなら、少しでも影響して、軌道を逸らすくらいはできないかと考えた。
さらに『衝破の魔眼』も散らす。
プラズマは気体のはずだ。
下手な石壁くらい砕き散らす『衝破の魔眼』なら、プラズマだって吹き飛ばせるはず。
そう期待したんだけど、ファンタジーは甘くないらしい。
魔法効果に守られたプラズマは、ほとんど真っ直ぐに向かってくる。
衝撃でも僅かに勢いが落ちるくらいだ。
うひゃぁ。死ぬ。死んじゃうよ。
あんなの直撃したら消し炭も残らない。
なんとか飛び回って回避するけど―――うわ、近づいただけで毛が燃えてる。
でもいまは構ってる暇もない。
五発、六発と避け続けて、なんとか攻撃が止まった。
すぐに『水冷系魔術』の術式を組んで、水をかぶる。
あぶなぁー……。
けっこう広範囲で燃えた。
火傷のおかげで、『自己再生』でもすぐには毛が生えてこない。
もうサンダーバードをハゲとか笑えないよ。
炎でまた複眼も二つほど潰されたし、どんどん追い込まれてる。
対して、サンダーバードは余裕綽々といった様子だ。
また悠然と翼を広げて滑空しながら、新たなプラズマ火球を生み出す。
だけど、ボクだっていつまでも無策のままじゃない。
逃げ回りながらも、サンダーバードの頭上を取った。
どうやらサンダーバードは、プラズマを生み出す時には動きが鈍るみたいだ。
おかげで、良い位置取りができたよ。
そして、この瞬間しかない。
反撃開始だ。
直上から、サンダーバードへ突撃する。
同時に、素早く魔術式を組んだ。単純な術式だ。
でも魔力は大量に注ぐ。目一杯に。
そして発動。
大量の水が、サンダーバードの頭上から降り注ぐ。
お風呂の水張りにも使ってる術式だ。毎日の作業で慣れてる。
だから瞬時に発動できたし、おまけに大量の魔力を注いで、滝みたいな量の水を叩き落した。
これにはさすがのサンダーバードも面食らったみたいだ。
ぎょっと目を見開く。
逃れようとしたけど、大量の水による面攻撃だ。
動きを止めていたこともあって避けられない。
サンダーバードは滝みたいな水流に飲み込まれた。
ボクの方は、空中で弧を描いて反転する。
直後、大爆発が起こった。
水蒸気爆発だ。
某ロボアニメを参考にさせてもらった作戦だよ。
大量の水がプラズマで一気に熱せられて、爆発を起こした。
少しは効果があったみたいだ。
白煙の中から、サンダーバードの悲鳴じみた声が漏れてきた。
だけど本当の狙いは攻撃じゃない。
水蒸気で目眩ましができればいいと考えたんだからね。
すぐさま、ボクは『闇裂の魔眼』を放つ。
なるべく広範囲に。
二重の目眩ましをしてから、大急ぎで眼下の森へと降りた。
このまま逃亡させてもらうよ。
地面に降りると同時に術式を発動。ドン、と大穴を掘る。
そこへ飛び込む。
森に隠れて逃げても、雷撃の雨を降らされたら無事じゃ済まない。
だけど地中に潜れば、地面が雷撃を防いでくれる。
もちろん、それなりの深さは必要なん、だけど……?
え? なにこれ? 穴が掘れてない。
というか、途中で止まってる。
穴の底に当たる部分が、綺麗な石壁になってた。
もう一度、術式を発動。
やっぱり掘れない。魔術は発動してるのに、石壁に弾かれたみたいだ。
ど、どういうこと? なにこれ?
早く逃げないといけないのに!
『衝破の魔眼』、発動!
『徹甲針』も撃ちつける。
だけど石壁は少し傷ついただけだ。到底、崩れる様子はない。
いったい何で出来てるのか―――。
いや、考えるのは後でいい。
というか、こんな石壁は無視しちゃっていいんだよ。
横穴を掘って、そこからまた地下へ向かえば―――。
《行為経験値が一定に達しました。『危機感知』スキルが上昇しました》
ゾワリ、と全身の毛が逆立つ。
頭上から、威圧するようなサンダーバードの鳴き声が聞こえた。
ボクは咄嗟にそちらへ意識を向けて―――、
直後、視界が真っ白に染まった。
雷撃だ。そう理解した時にはもう遅かった。
全身が激痛に貫かれる。
一瞬にして焼き焦がされる。
まともな抵抗もできずに、ボクの生命活動は停止した。
勝った!(サンダーバードが!) 第二章、完!
次回より第三章、至高の雷鳥編?を開始します。
その前に、数日~一週間ほどお休みさせてもらう予定ですが。
続きはしばらくお待ち下さい。




