表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/185

23 毛玉vs雷鳥②


 雷撃が大気を焼き焦がす。

 鼻につく匂いが漂う。オゾン臭って言うのかな?

 何にしても気に留めてる余裕はないね。

 最初の一撃は辛うじて、逸らして、防いだ。

 サンダーバードは僅かに目を見開いたけど、すぐに愉しげに口元を緩めた。


 鳥なのに笑えるんだね。

 なんてボクが感心してる間にも、次の雷撃が放たれる。

 今度は三本、ボクの逃げ道を防ぐように。

 だけどその雷撃も逸れる。

 直前にボクが放っておいた『避雷針』に向かって。


 そう、『八万針』の中には、こんな変り種の針もあった。

 空中にばら撒いておくと、完全ではないけど雷撃を散らしてくれる。

 ボクの方にも少しは流れてくるけど、『加護』で防げる程度だ。


《行為経験値が一定に達しました。『風雷耐性』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『加護』スキルが上昇しました》


 一旦、サンダーバードの攻撃が止んだ。

 その隙を狙って、今度はボクの方から反撃する。

 『死滅の魔眼』、全力発動!


《行為経験値が一定に達しました。『魔力集束』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『死滅の魔眼』スキルが上昇しました》


 サンダーバードの眼前で、青白い光が瞬いた。

 雷撃で作られた障壁みたいだ。

 予想はしてたけど、魔眼が完全に防がれてる。

 ボスに即死は通用しない?

 というか、単純に実力の差だろうね。


 速度も、攻撃力も、防御力が相手の方が上回ってる。

 こんな化け物相手にどうすればいいんだろ。

 魔眼は通用しない。

 毛針も撃ちこんでみたいけど、あっさり障壁で弾かれて、焼き散らされた。

 『懲罰』や『獄門』も乗せてみたけど、相手に当たらないんじゃ意味がない。

 巨大魚竜を倒したみたいに『吸収』を狙う?

 無理でしょ。取り付いた瞬間に黒焦げにされるよ。

 なら、『万魔撃』を何度も撃ち込めば?

 百発くらい叩き込めば何とかなるかもね。その前に消し炭にされそうだけど。

 あの巨大な翼で軽く叩かれただけで潰されそうだ。

 うん。地面に叩き潰されて、ぷちっと。

 バスケットボールくらいには頑丈になったボクだけど、サンダーバードからすれば紙風船みたいなものでしょ。


 逃げようとしても回り込まれる。

 打つ手がない?

 でも、諦めたらそこで毛玉終了だし―――。


 とにかく距離を取るように飛びながら、時間を稼いで考えを巡らせる。

 サンダーバードも追ってくる。

 今度は上空に回ると、大きく口を開いた。勢いよく息を吸い込む。

 まさか、ブレス?

 だけど雷撃って感じじゃない。

 何だか分からないけど強烈な攻撃が来る。


 全身の毛が逆立つのを覚えて、ボクは溜めておいた『万魔撃』を放った。

 開かれていたサンダーバードの口を狙って。

 直後、サンダーバードのブレスも放たれる。

 雷撃じゃない、竜巻みたいな風と衝撃波のブレスだ。

 魔力ビームと衝撃波がぶつかり合う。


 空中の激突で―――押し負けたのは、『万魔撃』の方だった。

 暴風がボクを襲う。

 だけど威力は随分と落ちて、『加護』でさらに抑えられた。

 それでも強烈な風は、刃みたいにボクの体を傷つけていった。

 毛が数十本まとめて千切れ飛ぶ。

 複眼も二つほど潰された。

 森に叩き落されそうにもなったけど、辛うじて堪えて風の暴力から逃れる。


《行為経験値が一定に達しました。『加護』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『衝撃大耐性』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『全属性耐性』スキルが上昇しました》


 どうにか体勢を立て直して、サンダーバードを見上げる。

 そこには、幾つもの煌々と輝く球体が浮かんでいた。

 もうやだぁ! おうちかえる!

 って、幼児退行してる場合じゃない!

 だけどこの状況、ほんとに泣いて逃げ出したいよ!


 サンダーバードを取り巻くみたいに浮かぶ球体、それはプラズマだ。

 たぶんね。ボクの半端なSF知識による推測だけど。

 雷を操ってプラズマを発生させてるとか、そんな理屈でしょ。

 細かいことは魔法だからってことで。


 何にしても、アレは当たったらマズそうだ。

 ともかく距離を取ろうとするボクに対して、サンダーバードは口元を吊り上げる。

 貴様にこれが防げるか?、みたいな感じで。

 きっと自信のある必殺技なんだろうね。

 だけど敵が大技を出す時こそチャンスじゃない?

 それを破って一発逆転してこそ主人公だ。


 うん。無理だね。

 だってほら、ボクって毛玉だし。

 カルママイナスで、むしろ悪役だし。

 これはもう覚悟を決めて、せめて格好良く散った方がいいんじゃない?

 なんて考えも浮かんでくるけど―――。


《行為経験値が一定に達しました。『空中機動』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『雷撃の魔眼』スキルが上昇しました》


 プラズマ火球が放たれると同時に、ボクも雷撃をばら撒く。

 同じ電気に関係するものなら、少しでも影響して、軌道を逸らすくらいはできないかと考えた。

 さらに『衝破の魔眼』も散らす。

 プラズマは気体のはずだ。

 下手な石壁くらい砕き散らす『衝破の魔眼』なら、プラズマだって吹き飛ばせるはず。

 そう期待したんだけど、ファンタジーは甘くないらしい。


 魔法効果に守られたプラズマは、ほとんど真っ直ぐに向かってくる。

 衝撃でも僅かに勢いが落ちるくらいだ。

 うひゃぁ。死ぬ。死んじゃうよ。

 あんなの直撃したら消し炭も残らない。

 なんとか飛び回って回避するけど―――うわ、近づいただけで毛が燃えてる。

 でもいまは構ってる暇もない。


 五発、六発と避け続けて、なんとか攻撃が止まった。

 すぐに『水冷系魔術』の術式を組んで、水をかぶる。

 あぶなぁー……。

 けっこう広範囲で燃えた。

 火傷のおかげで、『自己再生』でもすぐには毛が生えてこない。

 もうサンダーバードをハゲとか笑えないよ。


 炎でまた複眼も二つほど潰されたし、どんどん追い込まれてる。

 対して、サンダーバードは余裕綽々といった様子だ。

 また悠然と翼を広げて滑空しながら、新たなプラズマ火球を生み出す。

 だけど、ボクだっていつまでも無策のままじゃない。

 逃げ回りながらも、サンダーバードの頭上を取った。

 どうやらサンダーバードは、プラズマを生み出す時には動きが鈍るみたいだ。

 おかげで、良い位置取りができたよ。


 そして、この瞬間しかない。

 反撃開始だ。

 直上から、サンダーバードへ突撃する。

 同時に、素早く魔術式を組んだ。単純な術式だ。

 でも魔力は大量に注ぐ。目一杯に。

 そして発動。


 大量の水が、サンダーバードの頭上から降り注ぐ。

 お風呂の水張りにも使ってる術式だ。毎日の作業で慣れてる。

 だから瞬時に発動できたし、おまけに大量の魔力を注いで、滝みたいな量の水を叩き落した。

 これにはさすがのサンダーバードも面食らったみたいだ。

 ぎょっと目を見開く。

 逃れようとしたけど、大量の水による面攻撃だ。

 動きを止めていたこともあって避けられない。

 サンダーバードは滝みたいな水流に飲み込まれた。


 ボクの方は、空中で弧を描いて反転する。

 直後、大爆発が起こった。

 水蒸気爆発だ。

 某ロボアニメを参考にさせてもらった作戦だよ。

 大量の水がプラズマで一気に熱せられて、爆発を起こした。


 少しは効果があったみたいだ。

 白煙の中から、サンダーバードの悲鳴じみた声が漏れてきた。

 だけど本当の狙いは攻撃じゃない。

 水蒸気で目眩ましができればいいと考えたんだからね。


 すぐさま、ボクは『闇裂の魔眼』を放つ。

 なるべく広範囲に。

 二重の目眩ましをしてから、大急ぎで眼下の森へと降りた。

 このまま逃亡させてもらうよ。

 地面に降りると同時に術式を発動。ドン、と大穴を掘る。

 そこへ飛び込む。


 森に隠れて逃げても、雷撃の雨を降らされたら無事じゃ済まない。

 だけど地中に潜れば、地面が雷撃を防いでくれる。

 もちろん、それなりの深さは必要なん、だけど……?


 え? なにこれ? 穴が掘れてない。

 というか、途中で止まってる。

 穴の底に当たる部分が、綺麗な石壁になってた。

 もう一度、術式を発動。

 やっぱり掘れない。魔術は発動してるのに、石壁に弾かれたみたいだ。


 ど、どういうこと? なにこれ?

 早く逃げないといけないのに!

 『衝破の魔眼』、発動!

 『徹甲針』も撃ちつける。

 だけど石壁は少し傷ついただけだ。到底、崩れる様子はない。

 いったい何で出来てるのか―――。

 いや、考えるのは後でいい。

 というか、こんな石壁は無視しちゃっていいんだよ。

 横穴を掘って、そこからまた地下へ向かえば―――。


《行為経験値が一定に達しました。『危機感知』スキルが上昇しました》


 ゾワリ、と全身の毛が逆立つ。

 頭上から、威圧するようなサンダーバードの鳴き声が聞こえた。

 ボクは咄嗟にそちらへ意識を向けて―――、


 直後、視界が真っ白に染まった。

 雷撃だ。そう理解した時にはもう遅かった。

 全身が激痛に貫かれる。

 一瞬にして焼き焦がされる。


 まともな抵抗もできずに、ボクの生命活動は停止した。



 勝った!(サンダーバードが!) 第二章、完!

 次回より第三章、至高の雷鳥編?を開始します。


 その前に、数日~一週間ほどお休みさせてもらう予定ですが。

 続きはしばらくお待ち下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ