22 毛玉vs雷鳥①
降り注いだ雷撃は、一撃で街の外壁を破壊した。
そこへ向かっていた冒険者たちも、見張りの兵士も光に呑み込まれた。
後には残骸が散らばるのみだ。
それは、ボクがやる予定だったんだけどね。
どういうつもりだろ?
上空へ目を向けると、サンダーバードは悠然と飛んでいる。
鷹みたいに精悍な顔立ちをしてるね。
あ、目が合った。
だけど興味すら抱かなかったみたいで、サンダーバードは街へ視線を戻した。
まるっきり無視されたね。
侮辱? 屈辱?
いや、そんなもの感じるはずないって。
だって相手はサンダーバードだよ。
雷鳥って書くと可愛くも思えるけど、不死鳥と同格って書くと凄く強そう。
不死鳥なんているかどうかも知らないけどね。
でもまあ、そんな煽り文句が似合うくらいに風格がある。
戦闘力は確実に一万以上。
巨大魚竜よりも間違いなくランクは上だと思う。
そんなサンダーバードが小さな街に降り立ったらどうなるか?
大騒ぎどころじゃないね。
なんていうか、怪獣災害?
大勢の悲鳴が、離れてるボクの方まで届いてきてる。
その悲鳴を、閃光と轟音が打ち消していく。
勝ち誇るみたいに、サンダーバードがよく響く声で一鳴きした。
少し上空へ昇って様子を確認してみる。
まだ街の中には、兵士や冒険者の姿がちらほらと見えた。
サンダーバードに立ち向かおうって気配じゃない。
武器を放り出してまで逃げる兵士もいた。
だけど何処に逃げるつもりだろ?
海に面した街だから船はあるけど―――あ、雷撃が直撃して燃え上がった。
サンダーバードさん、容赦無いね。
どうやらこの街に住む人間を全滅させるつもりらしい。
思わぬところで、ボクの労力が省けたね。
これでまた湖が安全になる、とは思うんだけど……。
ちょっと、やりすぎじゃない?
明らかに戦えなさそうな人とか、子供とかもいるし。
え? 子供?
街と言っても、前線基地みたいな場所なのに?
だけど見た目は間違いなく子供で、姉妹っぽいね。
二人とも質素な白いローブを羽織ってる。
手を繋いで、必死な様子で街路を駆けていく。
あ、兵士に突き飛ばされた。
その兵士は走っていった先で雷撃に巻き込まれたけど、姉妹も無事じゃない。
姉の方が妹を庇って、壁に頭をぶつけていた。
意識を失って倒れてる。
妹の方が懸命に呼び掛けてるけど、起きる気配はない。
…………。
………………はあ。
どうしてこう、ボクって幼女に縁があるんだろう。
気づかなければよかったのに。
気づいちゃった以上は、放置すると後味も悪くなるんだよ。
仕方ないね。
急いで上空へと移動。
サンダーバードの頭上を取る。向こうはこっちを気にも留めてない。
全力で、『万魔撃』を撃ち下ろす。
《行為経験値が一定に達しました。『万魔撃』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『魔力集中』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『魔力集束』スキルが解放されます》
サンダーバードが甲高い鳴き声を上げる。
頭頂部の蒼い羽毛が、一部だけ黒く焦げた。
うん。それだけ。
ほとんど効いてないね。
不意を突いたはずなのに、直前で雷撃が障壁みたいに集まりもしたからね。
やっぱり、とんでもない怪物だよ。
ボクは少し高度を下げて、さっきの姉妹に『大治の魔眼』を掛ける。
ついでに、他にも目についた怪我人を治療する。
もちろん戦えそうにない人たちを選んでね。
兵士や冒険者?
戦うのが役目でしょ。どうなろうと知らないよ。
それにどうせ、治癒を掛けられるのは短い時間だった。
すぐにサンダーバードがこちらを睨んで、飛び上がってくる。
《行為経験値が一定に達しました。『危機感知』スキルが上昇しました》
うん。言われなくても分かる。
この事態はマズイ。
サンダーバードの敵意とともに、ひしひしと危険な感じが伝わってくる。
さっきは戦闘力一万以上だと思ったけど、それは傍目から見た場合だ。
実際に向き合うと、その倍くらいの威圧感がある。
怖い。
なので、逃げる。
『空中機動』を全力稼動させて、一目散に。
しかし回り込まれてしまった。
うわぁい。
サンダーバードが巻き起こす風圧だけで、毛玉体が大きく揺れたよ。
街からちょっと距離を取れただけだ。
これ以上は逃げられそうにない。
大きく翼を広げたサンダーバードは、バチバチと雷を散らして―――、
「ΤτκΘι、ыξ、ΩΠρχνs〟?σ」
なんか喋った! 喋ったよね!?
しかも渋い声だ。歴戦の猛将とかが似合いそうな。
さっきまでの鳴き声は可愛い感じだったのに。
いやでも、顔付きはカッコイイんだよね。
精悍な鷹みたいだし。
渋くて男らしい声なのも納得できなくもない。
でも頭頂部は『万魔撃』で焦げてる。
ハゲたみたいに見えるね。なんか絵面的に残念だ。
「Λμχγ!」
って、頭髪の心配してあげてる場合じゃなかった。
お怒りみたいだよ。
言葉が通じるなら、なんとか穏便に済ませてもらうしかないね。
まったく勝てる気がしないし。
ボクは身振り毛振りで、戦うつもりがないのをアピールする。
喋れないけど、空中に魔力で絵も描いて。ダメ元で日本語も付け加えた。
サンダーバードは滞空したまま、小さく首を捻った。
不思議そうにボクを見つめる。
伝わってない?
いや、それでも考えてくれてるだけ和解の可能性はありそうだ。
「Kыπγ、Θ¨жρχιψΕЮοη……」
サンダーバードが重々しく頷く。
動作がいちいちカッコイイ。素敵だ。ハゲてるのに。
「Ω∈、ΔΣυΡδηρκνr! ΖλΨÅηοξυγ!」
いきなり大声を上げた。
え? ハゲとか思ったのがマズかった?
サンダーバードは翼も大きく広げて、鋭い眼差しを向けてくる。
なんだか知らないけど戦うつもりになってるよ。
ああ、これはアレだ。
脳筋ってやつだね。そんな雰囲気が伝わってくる。
言葉の方も、貴様の力を示せー、とかそんなこと言ってるんじゃないかな?
嫌だよ。
そっちの勝ちでいいから逃がしてくれないかな?
ダメかな? ダメだよね? うん、ダメみたいだ。
サンダーバードが威圧的な鳴き声を上げる。
眩いほどの閃光が迸り、一際強烈な雷撃が打ち放たれた。




