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21 怒りが治まらない

 城門を通って馬車ごと拠点へと入る。

 もう朝陽が昇ってるけど、どうにか無事に帰って来られたね。

 ちなみに、馬車の扱いには『支配』スキルを使った。

 馬を直接に”支配”して走らせただけ。

 そうして帰ってきたボクたちを、アルラウネやラミアが笑顔で迎えてくれた。

 檻に入れられていた子供たちもすぐに解放される。

 親子で抱き合って、無事を喜んでるよ。


《特定行動により、称号『魔獣の友』を獲得しました》

《称号『魔獣の友』により、『状態異常大耐性』スキルが覚醒しました》


 なんか今更な称号だね。

 後回しで。スキルの検証とかできる状況でもないし。

 親子の再会を横目に、ボクはあらためて拠点内を見回す。


 花畑が踏み荒らされてる。

 果樹園の一部は焼け落ちてる。

 ボクが作った弓や槍がいくつか落ちていて、地面には染みが広がっていた。

 遺体はもう片付けられてるね。

 あとで葬儀とかも行うのかも知れないけど、彼女たちに任せよう。


 城門を閉めて、ボクは屋敷に戻る。

 そういえば冒険者の死体を放置したままだった。

 吸収する気にもなれないね。

 窓から投げ捨てる。

 お風呂に入って、布団に包まって目を閉じた。


 どうにも気が昂ぶってるね。

 ボクらしくもない。

 そう―――ボクは、怒ってるんだ。

 人を殺してもまったく心が痛まないくらいに。

 本当なら、人間と争うのは避けたかったはずなのにね。

 『懲罰』が危険なのも分かってたはずだ。

 実際、一歩間違えたら殺されてるところだった。

 だけどそんなことも気にならないくらい、激情に突き動かされた。

 逃げようなんて考えは、途中から消え去ってた。


 はあ。どうしてだろうね。

 こんな気分は初めてだよ。

 べつに、アルラウネやラミアを守ってるつもりなんてなかった。

 そんな傲慢な気持ちは抱いてないよ。

 ボクは、自分さえ無事ならそれでいいんだから。

 安全な拠点を作ろうとしたら、そこに押し掛けてきたから放置してるだけ。

 周囲を守ってくれるなら、ボクも楽できるかなー、なんて考えてた。

 だけど、いつの間にか気に入ってたのかな。

 平穏で、少し騒がしくて、心が休まるこの場所が。


 ほんと、ボクらしくもない。

 独りの方が気楽でいいのに。

 少し休んで冷静にならないといけないでしょ。

 連中の街に反撃を喰らわせるのは変わらないけどね。

 だけど、無茶はしない方向で。

 手強い冒険者とかいたら、今度はちゃんと逃げるようにしよう。


 そういえば、元クラスメイトとも会ったんだったね。

 田中原くんだっけ?

 あの鎧と剣は良い物だったから、後で色々と使わせてもらおう。

 それと、今更だけどひとつ気になった。

 田中原くん、明らかにボクより年上だったよね。

 この世界では、って意味で。

 少なくとも青年って言えるくらいの年齢だった。

 ボクなんかまだ一歳にもなってないのにね。

 転生時期がズレてるって考えると納得できる。

 不思議、と思うのは今更かな。


 時間のズレと言えば、あのタンクローリーも―――。

 いや、思い出すのはよそう。嫌な気分になるからね。

 いつかまた見に行くかも知れないけど、半年か一年か、時間を置いてからの方が落ち着けるよ。

 これまでも忘れるようにしてたし。

 何にしても、いまは関係ない。

 それよりも一休みしたらまた出撃だ。

 逃がした冒険者たちを追跡して、街へ襲撃を掛ける。

 状況次第だけど、『万魔撃』の2~3発は撃ち込んでおきたいね。

 しばらくはこの辺りに近づいてこれないように。







 陽射しに目を細めながら上空を進む。

 少し急がないといけない。

 ちょっと休むつもりが、昼過ぎまで寝ちゃったからね。

 冒険者たちも、それなりの距離を進んでるはずだ。

 だけど進む方向は分かってるからね。

 昨日、奪い返した馬車は湖から北東方向へ向かってた。

 つまりは、そっちへ向かえば追いつけるはず。

 とはいえ、広い森だから簡単とは言えないけどね。

 馬車みたいに目立つ物でもないし。


 あ、散り散りになって逃げてたら困るね。

 皆殺しにするつもりだったのに。

 強盗殺害の共犯だし、報いはきっちり受けて欲しい。

 ん~……だけど何人か残した方が、今後のためにはいいのかな?

 あそこに手出しするとヤバイ、みたいな話を流してくれるかも知れないし。

 どうしよう?

 どちらにしても追跡は成功させないと―――とか考えてたら、発見した。


 冒険者たちじゃない。

 怪鳥だ。例の、極彩色の。戦闘中?

 森に向かって矢弾みたいに羽根を撃ち込んでる。

 そして、戦ってる相手の方が冒険者たちみたいだ。

 声が聞こえてくる。姿も確認、間違いないね。

 怪鳥さん、グッジョブ!

 『大治の魔眼』を掛けて援護してあげよう。


 冒険者は十数人いて、怪鳥相手に善戦してるようだった。

 見た所、倒れてる人間はいない。

 ん? 弓を構えてた一人が、悲鳴じみた大声を上げた。

 ボクの方を指差してる。

 見つかっちゃったみたいだね。

 でもいきなり悲鳴を上げるなんて失礼な。

 『雷撃の魔眼』を撃ち込んであげよう。


 焼死体がひとつ完成。

 途端に、他の冒険者は逃げ出していく。散り散りになって。

 仲間意識は薄いのかな。

 行動が遅れた戦士風の一人が、怪鳥の鉤爪に引き裂かれた。

 もう一人、魔術師風の冒険者を仕留めると、怪鳥はその死体を掴んで飛び去っていった。


 悠然と去っていく怪鳥さんの後姿は、なかなかにカッコイイ。

 助けてもらったし、心の中で感謝しておこう。

 鳥と言えば、シルバーにも助けてもらった。

 ボクとの相性がいいのかな?

 そういえば怪鳥も、ボクを襲ってくることはなかったね。

 まあこんな毛玉を食べても、お腹は膨れないだろうし。


 さて、それよりも冒険者だ。

 散会して逃げられちゃったから、追跡がまた難しくなったね。

 だけど、だいたい逃げる方向は同じだ。数人の集団もある。

 その集団を中心に追っていくことにしようか。

 余裕があれば、他の冒険者も仕留める方針で。

 街に着くまでは頑張ってもらおう。







《行為経験値が一定に達しました。『隠密』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『無音』スキルが上昇しました》


 森の中をこっそりと進む。枝葉の隙間から、冒険者の姿を確認しながら。

 時折、冒険者たちは背後や頭上を気に掛けてる。

 やっぱりボクの追跡を警戒してるね。

 だけどこっちに気づく様子はない。

 銀子を預けた四人組ほどの実力者じゃないみたいだね。

 疲れてるのも影響してるはず。


 追跡を始めて、もう二日が過ぎた。

 で、ひとつ文句を言いたい。

 冒険者たち、進むの遅すぎだよ。

 いやまあ、ボクが飛べるからそう思うのは分かってる。

 だけど、さっさと街に戻って欲しい。

 そうじゃないと襲撃できないし。


 早く帰って屋敷でのんびりと過ごしたいよ。

 そもそも街がある前提で行動してたけど、確定情報じゃないんだよね。

 兵士や冒険者が来たんだから、集落的な何かはあると思うけど。

 だんだん焦れてきた。

 オヤツに持ってきたバナナも失くなったし。

 拠点に残してきたアルラウネやラミアたちのことも気になるよ。


 どうしよう?

 もう残った冒険者だけ片付けて帰っちゃおうかな。

 考えてみれば、かなりの数の兵士が巨人にやられたんだよね。

 放っておいても、しばらくは湖の辺りに近寄ってこないかも―――。


 なんて迷っていると、森の先に”あるもの”が見えた。

 石壁だ。

 もちろん、ボクが作った城壁じゃないよ。

 高さは五メートルくらいで、横に長く続いている。

 上空へと浮かんで確認する。

 うん。街だ。ようやく到着したね。

 森の一部を切り拓いて、海に面する形で造られてる。

 以前に銀子を送っていった時に見た街と、規模としては同じくらいかな。

 少なくとも数千人は住んでいそうだ。

 建物も何十と建てられてる。

 壁の近くには見張り塔も建てられていて、兵士の姿もあるね。

 湖の陣地にいた兵士たちと同じような装備だ。


 と、冒険者たちが駆け出した。

 帰ってこれたー、と喜んでるみたいに声も上げる。

 喜ぶ? 強盗殺害犯のくせに?

 はぁ。また感情的になりそうだよ。

 この毛玉体になって、少し血の気が多くなったのかな。

 殺伐とした場面が見たいワケでもないのに。

 でも、あいつらは許せないから―――。


《行為経験値が一定に達しました。『危機感知』スキルが上昇しました》


 ボクは咄嗟に高度を下げる。森の影へと紛れ込む。

 唐突に、上空から影が差した。

 見上げた先にいたのは鳥だ。

 何度か見た怪鳥よりも一回り以上も大きい。まるで飛行船みたいな鳥。

 青白い全身に、白く輝く斑模様が混じっている。

 尻尾みたいに長く伸びた尾羽からも、キラキラとした粒子を散らしていた。


 いや、全身に光を纏ってるんだね。

 光の正体は雷で―――、

 そのサンダーバードから、雷撃の雨が降り注いだ。



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