16 ラミアクイーン
前回の分を、少し加筆&修正しました。
空を飛べるって、本当に便利だね。
上空から標的を探せるし、追いつくのも簡単。
一方的に攻撃もできる。
巨人の群れに対する攻撃も、『空中機動』があったから踏み切ったんだよね。
いざとなったら逃げられると思ったし。
投石とかはちょっと怖かったけど、避けられる自信もあった。
対空攻撃って、口で言うほど簡単じゃないでしょ。
真っ直ぐ攻撃できる魔眼みたいなものがあれば別だけど。
ともあれ、巨人どもを片付けた後、ラミアたちに追いつくのも簡単だった。
木々の合間を進むラミアへ向けて、念の為に『鑑定』を飛ばす。
すぐに逃げ出したことからして、戦闘力は高くないと思えた。
移動速度もそんなに速くなかったからね。
『鑑定知識』によると、ほとんど数百の個体ばかりだ。
ラミアクイーン?で一千ちょいだね。
そのクイーンにしても、死毒が抜け切っていないのかふらふらしてる。
仲間に肩を貸してもらってる状態だね。
生きているだけでも凄いと思うけど。
やっぱり蛇だから生命力が高いのかな?
でも、トドメを刺すのは簡単そうだ。
まだ魔力には余裕があるし、上空から魔眼の雨を降らせてやればいい。
魔獣は消毒だーって感じで。
あ、いや、それだとボクが悪役っぽいね。
違うよ。ボクは悪い毛玉じゃないよ。
攻撃されたから身を守っただけ。
それでも今回、ボクはまったくの無傷なんだよね。
珍しいくらいの完勝。
巨人のバーサークモードが悪い方向に働いた結果だけど―――。
ああいう危ない魔獣は殲滅しちゃっていいと思う。
自然愛護とか語る余裕はないよ。
だって巨人とか、近くにいるだけで脅威だもん。
腕の一振りで、ボクなんか蜜柑みたいに潰されるよ。
なにより突発的に暴れ出しそうなのが怖い。
それでも今回は、怪我すら負わずに済んだ。
よく考えたら、ラミアだけなら脅威にはならないかな?
ラミアの方もすぐに逃げて、反撃してくる様子すらなかったし。
だったら、無理に戦わなくても構わない気持ちになってくる。
凄惨な場面も見飽きたし。
あれ? むしろ、ラミアには感謝してもいいんじゃない?
危ない人間を片付けてくれたんだから。
ボクだったら、『懲罰』の関係で上手く撃退できたか分からないし。
相性の問題だね。
だからって、巨人が近くに住むのも嫌なんだけど。
積極的に襲いたかった訳じゃない。
理屈が通じる相手なら、平穏な関係が築ければ充分だ。
《行為経験値が一定に達しました。『沈思速考』スキルが上昇しました》
ん~……あれこれ考えても仕方ないか。面倒にもなってきた。
女の人?を痛めつける趣味もない。
ってことで、『衝破の魔眼』発動。
吹き飛ばす。
ラミアたちの前方、森の一角の進路を塞ぐ形で。
木々が砕けて倒れたところで、ボクはゆっくりと降りる。
慎重に。いつでも反撃できるようにね。
《行為経験値が一定に達しました。『威圧』スキルが上昇しました》
お? このスキルが上がるのは始めてかな?
『威圧』するように意識してたのが良かったみたいだ。
実際、ラミアたちは悲鳴を上げて怯えた顔をしてる。
ひとまずは、作戦通りかな。
名付けて、作戦名LOⅡ。
ラミアを、脅して、二度と手出ししてこないようにしちゃおう作戦。
あ、ラミアってRから始まるんだっけ?
どっちでもいいか。
ともかくも威圧効果は充分みたいだ。
もうラミアからは戦意は窺え、ない?
《行為経験値が一定に達しました。『魅了耐性』スキルが大幅に上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『精神無効』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『支配無効』スキルが上昇しました》
クイーンがボクを見つめてきた。
いや、睨んできた。おまけに眼が光ってる。
もしかして、魔眼?
システムメッセージからすると、魅了の魔眼でも使ったのかな。
へえ。魔眼って、ああいう風に見えるんだ。
まあボクには何の影響も無いけどね。
でも攻撃されちゃった。
反撃するしかないね。
『八万針』発射。
選んだのは、相手に苦痛を与える『苦悶針』だ。
軽く数本を打ち込んだだけなのに、クイーンは派手な悲鳴を上げた。
悶絶して、全身をくねらせて、地面にのたうつ。
うわぁ。想像以上に効いてる。
そういえば死毒でも苦しめられたばかりだっけ。
このまま死なれても後味が悪いね。
『大治の魔眼』で回復させておこう、と―――。
《行為経験値が一定に達しました。『加護』スキルが上昇しました》
ラミアの一体が魔法の矢を撃ってきた。
続けて、他のラミアたちも我に返ったように攻撃してくる。
全員が魔術を扱えるみたいだね。
光や炎、氷や雷の矢もある。多才だ。
だけど威力が低いものばかりだ。そこらへんは『魔力感知』で察せられる。
まとめて受けても、いまのボクの『加護』を貫けはしない。
元々、ボク自身の魔法抵抗力も高いみたいだし。
落ち着いて反撃できるね。
適当に毛針を撒き散らそうと思ったけど、そこに割って入る声があった。
「―――ΚΔγы、Υουει!」
クイーンだ。
口から血を吐きながらも、大声を上げてラミアたちに何やら命令する。
攻撃をやめろ、ってところかな。
すぐにラミアたちが大人しくなった。
よかった。やっぱり理屈が通じそうな相手だ。
巨人よりもよっぽど安心できる。
これならもう立ち去っても大丈夫じゃないかな。
充分に脅かしたし、もう湖には近づいてこないでしょ。
とか考えてたら―――クイーンが静かに前に出て、いきなり土下座した。
またか! っていうか、やっぱり土下座って知れ渡ってるんだね。
違う種類の魔獣なのに、どうやって伝わったんだろ。
それにしても、アルラウネの時も思ったけど、土下座っていうか土下寝だね。
下半身が植物とか蛇だから、なかなかシュールな光景になってる。
力尽きて倒れた、って言われても信じられそうだ。
で、そうやって頭を下げたまま、クイーンは何やら言葉を連ねた。
必死な様子は伝わってくる。
だって血を吐いてるし。
配下のラミアが治療術を掛け始めたけど、それも制止して押し返した。
そうしてまた頭を下げて語り始める。
懸命に。やっぱり血を吐きながら。
うん。何言ってるか分からない。
それよりも死ぬ前に回復した方がいいでしょ。
『大治の魔眼』、発動。
驚いた顔をするクイーンへ治療を続けながら、ボクは空中に魔力を浮かべた。
魔術式を組むみたいに。
それで絵を描いて説明する。湖には近づかないように、と。
正しく伝わったかどうかは分からない。
だけど、たっぷり脅したし。
クイーンはまだ血を吐いてるし。
なんだろう、この人?、必死すぎる。
吐血キャラって実際に会うと、どう対処していいのか分からなくなるね。
よし。バナナをあげよう。
黒毛の間に隠し持ってきたんだよね。
お見舞いと言ったら果物が定番でしょ。
クイーンはぽかんとしてたけど、お見舞い完了ってことでいいよね。
それじゃあ、さっさと帰らせてもらうよ。
ボクは適当に説明を切り上げて、空へと舞い上がった。
念の為に周囲を確認してから拠点へと戻る。
人間たちの陣地は壊滅。
巨人の群れも全滅。
ラミアももう来ないだろうし、これでまた湖畔が平和になった。
結果として万々歳だね。
明日からは落ち着いて過ごせそうだ。




