14 城壁とバナナと???
おはようございます。
人間に近づくことも許されず、犬に追われて、泣く泣く逃げ帰った魔眼です。
己の無力さ、貧弱さを再認識させられました。
悔しくて、布団を被ってゴロゴロ転がっておりました。
泣いたっていいじゃない。毛玉だもの。
うん。正直ね、けっこう強くなったんじゃないかなーと思ってたんだよ。
だって称号で『熟練戦士』とか持ってるし。
そこからさらに戦闘力は上がったし。
反則技に近いとはいえ、巨大魚竜にも勝てたし。
おまけに、『魔眼覇王』なんて才能も貰えた。
強力な魔眼が幾つも揃ってきた。
さらには、ちょっと睨んだだけでアルラウネたちが従ってくれてる。
調子に乗っちゃってたね。
人間は怖い。
以前にも、冒険者パーティに追い詰められたことがあったし。
昨日のは不幸な事故だったかも知れないけど、ボクが助かったのは幸運でもある。
もしも『懲罰』攻撃を喰らった時に、目の前に兵士の一人でもいたら?
一瞬で殺されてた可能性だってあるよ。
この森での生活にも慣れて、余裕が出て、気が緩んでいたね。
もっと引き締めていこう。
見敵必殺な心構えで。
先に殺しちゃえば怖くないからね。
まずは、向こう岸にいる人間たちへの対策を進めていくよ。
《行為経験値が一定に達しました。『睡眠耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『建築』スキルが上昇しました》
一晩掛けて、城壁を建てていった。
高さはまだ五メートルくらい。森の木々に隠れる程度にした。
長さは五百メートルほどもある。
陽射しは幾分か隠れるけど、土地が広いのでアルラウネたちが気に掛けるほどじゃない。
我ながら、一晩でよく作ったと思うよ。
でも湖方面のしか完成してないから、あんまり役には立たないんだよね。
アルラウネたちを驚かせるくらいの効果しかなかった。
望めるなら、『懲罰』への耐性上げを優先したかったんだけどね。
だけど自分をぺしぺし叩いても、『極道』スキルはなかなか上がらない。
ポイントも使おうと試してはみた。
《スキル『極道』は強化不可能です。条件を満たしていません》
《スキル『懲罰』は『天罰』への強化が可能です》
《カスタマイズポイントが足りません》
こんなメッセージが返ってきた。
『懲罰』を強化してから、自分で叩いて耐性上げてもいいかな、と考えたんだけどね。
でもポイントが足りない。
これもきっと、カルマの低さが影響してるんだろうね。
悪人側が罰を与えるとか言うのも不自然だからねえ。
結果、怖いスキルの名前を知っただけで終わった。
なんだろうね、『天罰』って。
どんなスキルか知らないけど、ボクなんか一撃掠っただけで砕け散りそうだ。
悶え苦しんで転がる毛玉の姿が見えるようだよ。
それもこれもカルマの低さが悪い。
このシステムはほんとに謎だ。
いったいボクがどんな悪いことしたって言うんだか。
はぁ。ともあれ、落ち込んでても仕方ない。
いまは戦える態勢を整えるのが先決だよ。
ちょっと疲れもしたので休憩。
城壁の上にゴロンと転がる。
例の母子ラウネが朝食を持ってきてくれたし、いただくとしよう。
今日は葡萄とバナナだ。
え? バナナ?
また育てるのが難しそうな果物だね。
いつのまにか増やしていたらしい。
基本的に食事不要なアルラウネだけど、甘味を楽しみはする。
だからこういった果物も、日毎に種類を増やしてる。
うん。葡萄は瑞々しくて美味しいね。
バナナもしっかりと甘味が詰まってる。
さすがに地球のバナナには敵わないけど、懐かしい感じがするよ。
幼ラウネも美味しそうに頬張ってる。
あ、バナナと言えば、ミルクも欲しくなるね。
一緒に食べるともっと美味しくなるし。
バナナミルクの味を、幼ラウネにも教えてあげたい。
何処かに乳牛とか転がってないかな。
暴れ牛なら森の奥に行けば見つかりそうだけど。
望めるなら、この拠点で飼いたいところだね。
もちろん大人しい牛を。アルラウネ任せで。
巨大イモムシを飼えるくらいだから、牛だって大丈夫じゃないかな。
まあ牛の方は見つかったら、だけど。
ますます、この拠点を強化する理由ができちゃったよ。
魔獣にも人間にも荒らされたくない。
幸い、昨日の偵察の限りでは、人間の陣地は簡素なものだった。
すぐに討伐隊が大挙して押し寄せてくる、って雰囲気じゃなかったね。
何日か余裕はあると思う。
そもそも、こっちに来るかどうかも分からないし。
油断せず、しっかりと警戒の目を向けておけば―――、
と、城壁の上から対岸を窺ってみた。
そこで妙なものが見えた。
妙なものというか、大きな影の集まりだ。
なんとなく、何処かで見た覚えもある。
距離があるから分かり難いけど―――あれ、巨人じゃない?
しかも一体や二体じゃない。
数十体の巨人集団が、人間の陣地へ向かってるみたいだ。
もしかして戦うつもり?
これは見過ごせない。
バナナ持って偵察に行ってみよう。
充分に距離を取りつつ、上空から様子を窺う。
陣地内にいるのは、やっぱり兵士っぽい人間ばかりだね。
揃いの装備をした人間が一千人近くいる。
それと、冒険者風の人間が百名くらい。
ただし冒険者の方は、足早に陣地の外へと逃げ出していった。
あんな化け物どもと戦えるかー、って感じで。
まあ気持ちは分かるね。
陣地へ向かってくるのは、単眼巨人数十体。
身長十メートル越えの巨体が、ずらりと並んでる。
それだけでも脅威だけど、さらに厄介そうなオプションが付いてるよ。
後方にいる一際大きな巨人の肩に、一体の魔獣?が乗ってる。
いや、肩に乗ってるというか、首に巻きついてる?
下半身は蛇で、上半身は人型の、半裸の女性。
そう、ラミアだ。
美人さんで、スタイルも抜群だね。揺れてる。
『鑑定知識』によると、ラミュールとかラミリアとかいうらしい。
もうラミアでいいよね。
ちなみに、そのラミアの胸元は半分くらい鱗で隠されてる。
下着みたいに。着脱可能なのかは不明。
尋ねてみたいところだけど、そんな余裕はないよ。
見つからないようにバナナを齧ってるだけで精一杯だ。
あ、『鑑定』と言えば、スキルが上がったおかげか少し変化が出てきた。
どうやら相手の戦闘力が、大雑把だけど分かるみたいだ。
『鑑定知識』の方に、それっぽい記載が出るようになった。
数字だけならだいたい読める。
銀子に算数を教えた時に、この世界の数字にも触れてたからね。
それによると、陣地にいる兵士たちは戦闘力数百くらいの人が大半だね。
一千を越えてる人もちらほらいるけど。
声を張り上げてる隊長っぽい人は二千以上だ。
正直、意外だね。もっと高いかと思ってたのに。
前に会った冒険者とか、確実に三千は越えてたはずだし。
実はあの四人組、凄腕だった?
ともあれ、そんな兵士たちに対して、巨人たちの戦闘力は高い。
どの巨人も二千を越えてる。
ボスっぽい一番大きいのは四千以上だよ。
数は少ないけど、巨人たちが圧勝するんじゃない?
冒険者たちはさっさと逃げてるし。
木の柵なんてまったく役に立ちそうにないし。
とか考えてる内に、巨人の一体が陣地へ突撃した。
でも、いきなり弾かれた。
ボクも喰らった懲罰結界だね。
そこに触れた途端に、巨人が雄叫びを上げて仰け反る。
そのまま仰向けになって派手に倒れた。
兵士たちが歓声を上げる。
だけど喜んでるばかりじゃなくて、揃って弓矢も撃ち放った。
倒れた巨人に矢の雨が降り注ぐ。
後ろに控えた巨人の群れにも矢は届いた。
さらには魔術師部隊もいて、光弾や雷撃が一斉に放たれた。
けっこう効いてるみたいだ。
ほとんどの矢は硬い皮膚に弾かれてるけど、中には忌々しそうに声を上げる巨人もいる。
さすがに訓練された兵士、ってところかな。
集団行動にも慣れてる。
でも魔獣との戦いには不慣れなんじゃないかな?
だって巨人にはアレがあるからね。
ほら、倒れた巨人が光りだした。
全身から真っ赤な光を溢れさせて、大気を震えさせるほどの雄叫びを上げて立ち上がる。
バーサーク状態だ。
その雄叫びだけで、陣地を囲っていた木柵が吹き飛んだ。
さらに、赤く輝く巨人が太い腕を振るう。
殴りつけられた地面が、噴水みたいに弾け飛んだ。
兵士たちも、まとめて木ノ葉みたいに吹き飛ばされていく。
ああ。これはもう勝負あったね。




