13 スニーキング毛玉、再び
夜中、普段ならボクも寝てる時間だ。
もうすっかり屋敷で寝泊りするのに慣れちゃったね。
もっとも、未だに内装は整っていないんだけど。
簡単な部屋の区分けをしただけだ。
家具だって置いてない。
あ、でも布団は作ったよ。
アルラウネから貰った布を縫って、ボクの黒毛を積めて。
自分の毛っていうのが気分的に微妙だけど、寝心地は悪くない。
そのうちに怪鳥でも狩りまくって、羽毛布団にしたいと思ってる。
そんな夜の事情はともかく、だ。
屋敷の周囲も、すっかり静まり返っていた。
アルラウネたちも夜は寝るからね。
というか、陽の光が届いていないと大人しくなる。
そこらへんは植物っぽいね。
夜襲とか受けたら大変なことになりそうだ。
でもまあ、だからこそボクも安心して眠れる。
念の為、夜の屋敷には闇結界を張って守っているけどね。
拠点の周りに異変が無いのを確認してから、ボクは上空へと舞い上がった。
そのまま湖の対岸を目指す。
夜の闇に紛れた黒毛玉だからね。そうそう発見はされないはず。
二つの月が輝いてるけど、完全に暗闇を消すほどじゃないからね。
ただし、相手が人間だとしたら油断はできない。
魔獣でも、種類によっては魔力や生命力を感知してくる。
人間なら、それ以上に知恵を働かせてくるはずだ。
だからボクは慎重に近づく。
途中で森に降りて、木々の影に隠れながら。
魔力もなるべく体内で圧縮して、反応を小さくするようにして。
どれだけ効果があるのかは不明だけどね。
警戒し過ぎて無駄ってこともないでしょ。
《行為経験値が一定に達しました。『隠密』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『無音』スキルが上昇しました》
ひとまず問題なく、陣地に近づくことができた。
うん。陣地だね。
簡素ながら木柵が張り巡らされてる。
矢倉みたいのも建てられてるね。
その内側には天幕が幾つも張られていて、まだ灯りが漏れている所もあった。
明らかに人間が集まってるねえ。
数は分からないけど、少なくとも数十名以上?
桁はもっと増えるかも。
陣地の規模からすると、亀オークの群れ以上かも知れない。
天幕からは笑い声も漏れてきてる。
あ、見張りの兵士っぽい人もいるね。
槍を持って立ってるのが二人、同じ型の鎧も着てる。
冒険者というよりも、やっぱり何処かの国の兵士って雰囲気だ。
欠伸をして、なにやら話してるけどね。
油断してるねえ。
魔眼を撃ち込めば、あっさり倒せそうな気がする。
だけどいまは戦闘をしたいワケじゃない。
あくまで偵察が目的だ。控えておこう。
そもそも敵対するとは限らないし。
それにしても、人間の兵士か。
銀子が向かった街から出撃してきたのかな?
街と湖の位置関係からすれば、納得できなくもない。
魔獣を狩るための前線基地にするには、悪くない場所だ。
ただ、少しだけ違和感がある。
街があったのは、湖の北側だ。
前線基地を作るなら、そちら側に作るはず。
ボクが拠点を作ったのは湖の西側、やや南寄り。
つまり、この対岸にある陣地は、湖の東側に作られている。
これから東側に向かうっていうなら納得できる配置だけどね。
でも北側か、あるいは南側に作った方が便利に思える。
あ、そういえば東側にも街があるかも知れないんだった。
人攫いどもはそっちへ向かおうとしてたからね。
となると、ここの兵士は東側の街から来たのかな?
ん~……情報不足だね。もうちょっと調べたい。
なにより重要なのは、彼らの目的なんだけど―――、
《行為経験値が一定に達しました。『魔力感知』スキルが上昇しました》
もう少し陣地に近づこうかな、と移動した時だ。
微かに攻撃的な魔力の流れを感じた。
でも遅かった。
”そこ”に、ボクの毛先が触れた瞬間だ。
眩いほどの白い光が空中で弾けて、雷撃にも似た衝撃が襲ってきた。
あだだだだっ!?
なにこれ、痛い、というか痺れる!?
《行為経験値が一定に達しました。『極道』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『光耐性』スキルが上昇しました》
謎の衝撃に弾かれて、ボクは草むらに転がる。
どうやら結界みたいなものが張られていたらしい。
明滅する光に照らされて、半透明の壁が確認できた。
直後に、陣地の方から声が上がる。
間違いなく気づかれたね。
撤退、と思っても体が動かない。
ボクが触れた結界は、どうやら『懲罰』属性の自動攻撃機能付きだったらしい。
一番苦手な攻撃だよ!
カルマがぶっちぎりでマイナスだからね!
しかも体だけでなく、魔力の流れも痺れたみたいに上手く制御できない。
おかげで『空中機動』も使えないね。
それだけ強力な攻撃だったのか、
それともボクのカルマが低すぎるのが悪いのか、
どっちにしてもピンチだ。
早く立て直さないと―――と思っている内に、少し楽になってきた。
そういえばボクが自分で試した『懲罰』も、効果時間は短かったね。
よし。復活。
まだちょっと痺れが残ってるけど、飛べるくらいには回復した。
早々に退散させてもらおう。
あ、でも何か近づいてくる。
速い。人間とは思えない速度だ。しかも複数?
暗闇の奥に、その姿が確認できた。
四つ足で走る獣だ。犬か狼みたいだね。
こんな時に魔獣の襲撃?
いや、人間に操られてるって考えた方が妥当だね。
使い魔とか、召喚獣とか、もしくは飼い慣らしたとか、そんなところかな。
何にしても、ここは撤退させてもらうよ。
やっぱり人間は油断ならないからね。
ボクはすぐさま上空へと舞い上がる。
単純な速度なら犬の方が上かも知れないけど、空までは追ってこれまい。
とか思った途端に、木を駆け上って迫ってきた。
数匹の犬が、空中のボクへ向けて殺到する。
ちょっと驚かされはした。
でも、以前に会った冒険者ほどの迫力はない。
落ち着いて迎撃できる。
爆裂針を飛ばすと、空中に飛び出した犬には避けようがなかった。
あっさりと撃ち落とされて悲鳴を上げる。
その間に、ボクはさらに上空へと撤退。
跳び上がってくる程度なら届かない距離へ移動する。
だけどこっちの射程距離は長いからね。
一方的にやらせてもらうよ。
『雷撃の魔眼』、発動。
夜の森に、何本もの雷撃を降り散らしていく。
ついでに『衝破』と『凍結』も数発つけておく。
犬の群れは散らばってたけど、きっちり殲滅させてもらった。
しつこく追って来られたりすると困るからね。
《総合経験値が一定に達しました。魔眼、ジ・ワンがLV1からLV2になりました》
《各種能力値ボーナスを取得しました》
《カスタマイズポイントを取得しました》
《行為経験値が一定に達しました。『雷撃の魔眼』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『空中機動』スキルが上昇しました》
最後に、広範囲に『闇裂の魔眼』をバラ撒いておく。
煙幕代わりだね。
魔力を惜しむ必要はない。
魔眼種に進化して、随分と消費魔力が少なくて済むようにもなったからね。
たぶんあの犬の群れは、斥候とか先遣部隊みたいな役割だったはず。
本隊である人間が押し寄せてくる前に帰らせてもらうよ。
偵察は失敗とも言えるけど、それでもひとつだけ成果はあった。
人間怖い。
近づいただけで殺しに来るとか、なにあの危険な生物。
特に『懲罰』、アレの対策ができない内は戦いたくないよ。
今夜はここまで。
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魔眼 ジ・ワン LV:2 名前:κτμ
戦闘力:7510
社会生活力:-3150
カルマ:-6580
特性:
魔獣種 :『八万針』『完全吸収』『変身』『空中機動』
万能魔導 :『支配』『魔力大強化』『魔力集中』『破魔耐性』『懲罰』
『万魔撃』『加護』『無属性魔術』『錬金術』『生命干渉』
『土木系魔術』『闇術』『高速魔』『魔術開発』『精密魔導』
『全属性耐性』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・極:『精巧』『栽培』『裁縫』『細工』『建築』
不動の心 :『極道』『不屈』『精神無効』
活命の才・壱:『生命力大強化』『頑健』『自己再生』『自動回復』
『激痛耐性』『猛毒耐性』『下位物理無効』『闇大耐性』
『立体機動』『悪食』『打撃大耐性』『衝撃大耐性』
知謀の才・弐:『鑑定』『沈思速考』『記憶』『演算』『罠師』
闘争の才・弐:『破戒撃』『回避』『強力撃』『高速撃』『天撃』
魂源の才 :『成長大加速』『支配無効』『状態異常耐性』
共感の才・壱:『精霊感知』『五感制御』『精霊の加護』『自動感知』
覇者の才・壱:『一騎当千』『威圧』『不変』『法則改変』
隠者の才・壱:『隠密』『無音』
魔眼覇王 :『大治の魔眼』『死滅の魔眼』『災禍の魔眼』『衝破の魔眼』
『闇裂の魔眼』『凍結の魔眼』『雷撃の魔眼』『破滅の魔眼』
閲覧許可 :『魔術知識』『鑑定知識』
称号:
『使い魔候補』『仲間殺し』『悪逆』『魔獣の殲滅者』『蛮勇』『罪人殺し』
『悪業を積み重ねる者』『根源種』『善意』『エルフの友』『熟練戦士』
『エルフの恩人』『魔術開拓者』『植物の友』
カスタマイズポイント:320
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