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10 貰える物は貰っておこう


 ボクが屋敷を作った場所は、辺りの木々をまとめて引き抜いてある。

 広場を作って、その外側に高い壁を築いて、将来的には森に囲まれた城にしたいと考えていた。

 でも今は、開墾したばかりの畑みたいなものだ。

 歩くだけでも足が汚れる。

 そんな場所に、十数名のアルラウネたちが揃って膝をついた。


 え~と……なにこれ?

 なんだかボクが王様で、アウラウネが拝謁する騎士みたいな構図なんですが?

 ご近所さんに御蕎麦持って挨拶に来た、って感じじゃない。

 むしろ後から来たのはボクの方だし、近い内に挨拶に行こうと思ってたのに。


 アルラウネの先頭にいるのがリーダーかな?

 一際白い肌をしていて、美人さんだね。身体から生えている植物も豪華だ。

 クイーンって呼ばせてもらおう。

 他のアルラウネも美人さん揃いだけど、怯えた顔もいくつか混じってるね。

 やっぱり怖がられてるっぽい。

 心外だなあ。

 ボクはただの毛玉で、ちょっと黒くて毛触りがいいだけなのに。

 別段、威圧してる訳でも……、


 あ、そういえば『威圧』スキルなんてものもあったね。

 これも原因だったりする?

 これまで気にしてなかったけど、『威圧』しないように意識してみよう。

 お、何名か安堵したみたいな顔をしてる。

 気の所為かな? まあ、どう思われてても構わないか。

 少なくとも喧嘩しようって雰囲気ではないからね。


 それよりも、クイーンラウネが何やらずっと語り続けているのが問題だ。

 ボクに向けて。真剣な様子で。

 うん。何言ってるのかさっぱり分からない。

 日本語でOKって言い返したいけど、ボクの方はまともな声すら出せない。

 どうしたものかね?、とか考えていると、控えていたアルラウネが前に出てきた。


 ん? よく見ると、前にも会った母ラウネだ。

 その手には幾つかの品を抱えている。

 ボクに向けて差し出されたのは、大きな布に乗せられた瑞々しい果実。

 それと、白赤緑の三色の布。同じ色の糸玉もある。


 え? もしかして、貰っちゃっていいの?

 どうやって手に入れたのか知らないけど、美味しそうな果物ばかりだ。

 なにより、布と糸は嬉しい。

 編み物ができるよ。

 しかもけっこう上質っぽい。

 この体だと手触りを確かめられないけど、絹糸っぽいよ。

 いいの? 貰っちゃうよ? いいよね?


 ってことで、早速布と糸玉を手に取る。

 いや、手は無いんだけどね。『支配』の魔力糸を伸ばせば同じように扱える。

 毛針を何本か抜いて編み物開始。

 うん。やっぱり上質な布と糸だね。

 久しぶりにまともな物に触った気がする。

 自作の黒毛糸とか草糸なんかとは、滑りも艶もまるで別物だよ。


 何を編もうか迷ったけど、基本の花飾りにしておく。

 赤と白の布で花弁を作って、緑の葉っぱも添えていく。

 ちまちま、ちまちまと縫っていく。

 単純作業だけど懐かしい。

 やっぱり、こうしてのんびりと過ごす時間って大切だよねえ。

 サバイバルでささくれ立った心が和んでいくよ。


《行為経験値が一定に達しました。『裁縫』スキルが上昇しました》

《行為経験値が一定に達しました。『細工』スキルが上昇しました》


 と、システムメッセージが流れて我に返った。

 周りに目を向けると、もう陽が紅く染まり始めてる。

 確か、編み物を始めた時は昼過ぎだったはず。


 うわぁ、随分と没頭しちゃってた。

 自分のうっかり具合に驚きだ。

 でもそれ以上に、まだアルラウネたちがいたことに驚愕だよ。

 未だに跪いたような姿勢で、控えめにボクの方を窺ってる。

 あ、だけど寝ちゃってる子も発見。

 隣の子に肘で突つかれて、慌てて顔を上げた。

 ボクと目が合う。

 居眠りしてた子は小さな悲鳴を上げて、地面に額を擦りつけた。


 いや、泣くほど慌てなくても怒ったりしないよ。

 同じ状況に置かれたら、ボクならこっそり抜け出してるし。

 むしろこれで、アウラウネたちに敵意が無いのは完全に証明されたね。

 隙だらけのボクを襲いもせず、ずっと待っていたくらいだから。


 ついでだ。花細工も上手く出来たし、プレゼントしよう。

 適当な木枝も持ってきて、ちょこちょこっと削る。

 『八万針』にある黒染針と潤滑針から、謎の液体を投下。

 そこに削った枝を漬けて、簡単に磨いて、簪の完成。

 花細工を付けて、母ラウネの長い髪に刺してあげる。

 うん。なかなか似合ってる。

 我ながら、良い出来だね。


 アルラウネたちの反応は驚きが大きいみたいだけど、そう悪くもなさそうだ。

 母ラウネも嬉しそうに頬を緩めて、頭を下げた。

 そうしてまたクイーンが何やら語り掛けてきて、一礼すると去っていく。


 ん~……まあ、友好関係が築けたってことでいいのかな?

 言葉が通じないながらの接触としては上出来でしょ。

 なるべくなら、アルラウネとは仲良くしたいね。

 どういう経緯か知らないけど、上質な糸や布が手に入るみたいだし。

 必要って訳じゃないけど、貰えるなら嬉しい。

 その内、ボクが着れる服も作ってみようかな。

 毛玉だからデザインに悩むところだけどね。

 下手な服にすると、視界が塞がれちゃう。だけどベルトとかならいいかも。

 こう、丸い体に回して、相撲廻しみたいに飾り付けるとか……。

 いまひとつ、かなあ。


 一瞬、神社にあるような注連縄が頭を掠めた。

 邪悪なナニカを封印するような。

 って、ボクは邪悪じゃないけどね。

 カルマは下がり続けてるけど、善良な毛玉だよ。





 ◇ ◇ ◇



 アルラウネたちが挨拶に来てから、十日余り―――。

 拠点の建築は順調に進んでいた。

 さすがにまだ、お城と言えるほどの建物は建てられていない。

 だけどボクの屋敷は完成した。


 外壁は頑丈な作りで、赤茶色の煉瓦みたいに染めてある。

 『赤染針』とか『掘削針』とかあったから、それで細工をしておいた。

 簡素ではあるけど、一応、二階建ての屋敷としてそれなりに見えるデザインだ。

 最初はそれこそ、ダンボールハウスを大きくしたようなのでも構わないと思ってたんだけどね。

 でもボクって、意外と凝り性だったらしい。

 一旦出来上がったのを見て、どうにも不満が抑えきれなかった。

 あと、一回崩れちゃったからね。

 強化の魔術が切れて。


 そう、土壁は魔術で頑丈さを上げておいたから。

 その効果が切れれば、重さに耐え切れなくなって崩れるのは当然だった。

 よく考えれば気づけたはずなのに、盲点だったね。

 昼間だったから無事だったけど、夜中だったらボクも潰されてたかも。


 で、その反省を活かして、ふたつの新技術を取り入れた。

 ひとつは、土壁の硬度そのものを上げること。

 分子構造とかを意識してね。

 でも生憎、ボクは専門的な知識なんて持っていない。

 規則正しい分子構造なら硬いんじゃない?、という程度の知識しかない。

 硬いけど折れ易いとか、切れ易いとか、そういう問題もあるみたいだよね。


 だけどまあ、そこは魔法が存在する世界だ。

 ともかくも試してみた。

 なるべく単純で、規則正しく、カーボンナノチューブみたいな構造を意識しながらね。

 土の分子を魔力で操って、組み替えて固めていくイメージで。

 材料は幾らでもあるので、何度も試行錯誤を繰り返した。

 『錬金術』スキルがかなりの速度で上がっていったね。

 そうして作られていく土壁は、徐々に黒く、硬く、それでいて適度な重さへと変わっていった。


 うん。魔法って凄い。

 貫通針の上位にある『徹甲針』でも、まったく傷つかない壁が完成しちゃった。

 たぶんこれ、魚竜の水流カッターでも跳ね返せるんじゃない?

 大量に魔力を使うので量産は難しいけどね。

 それでも屋敷の外壁分は確保できた。


 次に取り掛かった新技術は、魔術の”永続化”だ。

 ほら、魔法のアイテムとかあるし。

 そういう手法もないかなーと、こちらもあれこれと試してみた。

 ”永続”ってイメージが掴み難いから苦労したけどね。

 大きなヒントになったのは、アルラウネから貰った布だ。


 この布、最初は気づかなかったけど、とある魔術が掛けられていた。

 切っ掛けは、貰った果物を齧ってる時だった。

 葡萄みたいのがあって、喜んで食べてたんだよね。

 でも、うっかり汁を飛ばして汚しちゃって。

 洗っても落ち難いかな~、って落胆してたら、軽く触っただけで綺麗になった。

 どうやら、清潔になる術式が組み込まれてたっぽい。

 ちょっとの魔力を流すと、術式が光って反応する。

 アルラウネさん、意外と凄い技術を持っていましたよ。


 で、その術式を参考に、”永続化”に成功しました。

 これで土壁の強度はさらに上がるし、魔法に対する抵抗力も付加できる。

 本当に永続かどうか、どれだけ効果が続くのか、実際のところは時間を置いてみないと分からないんだけどね。


 ともあれ、拠点を作る技術は揃った。

 重い物を運ぶ浮遊術式も、何度か失敗した後で完成したからね。

 そうして最初に言ったように、ボクの屋敷も出来上がった。

 ようやく安眠できる場所を確保だ。

 城壁も築いていけば、さらに安心度は増していく。

 だけど―――、


「Θγυερ Γψτοτκη?」


 何故か、ボクの後には母ラウネが付いてきてる。

 まるで従者みたいに。

 幼ラウネも一緒で、こっちは従者見習いみたいな感じだ。

 おまけに、他のアルラウネたちも引っ越してきた。

 ボクが作った屋敷から、歩いて三十秒くらいの所に。


 百体余りのアルラウネたちがいて、ボクが近づくと笑顔で頭を下げてくれる。

 手を振ってくる子もいる。

 つまりは、だ。

 どうやらボクは、彼女たちに懐かれてしまったらしい。



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