04 飛べ、シルバー!
おはようございます。
空の上って想像以上に寒いんですね。
それと、夜の海は本当に真っ暗で怖かったです。
二度目の生で初めて知りました。
毛玉です。名前はまだありません。
ウミネコの背中にしがみ付いたまま、一晩が明けた。
海に出たウミネコの群れは、どうやら陸地に引き返すつもりはないらしい。
鳥の生態なんてよく知らないけど、こいつらは渡り鳥の仲間みたいだね。
いまは海の上に浮かんで羽根を休めている。
ボクも少しだけ眠ることは出来た。
とても落ち着いてはいられなかったけどね。
だって海の真ん中で、鳥の背に乗ってるだけの状態だよ。
タイタニックに乗ってたって、もう少しは安心できたと思う。
泥舟よりはマシっていう程度かな。
この毛玉体だと、とても泳げるとは思えない。
毛が水を吸って、あとは重さに引かれるまま海の底まで沈んじゃうだろうね。
もうウミネコに命を託すしかない。
何処かの陸地に着くまでは、しがみ付き続けるしかないね。
幸い、ボクの毛はそこそこに頑丈みたいだ。
魔力を通しているおかげかも知れない。
体自体が軽いのもあって、引き千切れる心配もひとまずは無さそう。
ウミネコの首や、背中の羽毛に雁字搦めにして、落ちないように出来た。
気掛かりだったのは、ウミネコが暴れないかどうかだったんだけどね。
そちらも、今のところは問題ない。
最初こそ、「何か変なのいるなー?」みたいに首を傾げていたウミネコも、すぐに慣れてくれた。
でも、他にも問題はたくさんあるんだよね。
その問題のおかげで、色々と分かってきたこともあるんだけどね。
-------------------------------
魔獣 ティニィ・ロウ・パサルリア LV:4 名前:なし
戦闘力:12
社会生活力:-100
カルマ:-110
特性:
魔獣種 :『毛針』『吸収』
魔導の才・極:『干渉』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・参:『器用』
称号:
『使い魔候補』
カスタマイズポイント:140
-------------------------------
まず、寒い。
空の上をけっこうな速度で飛んでるんだから、当り前と言えば当り前だけど。
どうやらボクの白毛には、防寒能力は期待できないみたいだね。
ただ、徐々に適応はしていっている気がする。
《行為経験値が一定に達しました。『水冷耐性』スキルが上昇しました》
こんなメッセージが、幾度か流れてきた。
体力も削られたからか、『生命力強化』や『耐久』なんてスキルも上昇してた。
だけど寒さに震える状態は続いているし、逞しくなった気もしない。
相変わらず、ステータスには表記されないスキルばかりだ。
推測になるけど、見えているスキルは、とりわけ得意なものなんじゃないかな?
ステータスで記されているのも『特性』。
つまりは、特に目立つ性質とか、特別な性能とか。
例えるなら、履歴書で書く長所とか資格みたいなものだね。
まあボクは人生も短かったから、履歴書も書いたことないんだけど。
ともあれ、このステータスだと自分の細かな能力までは把握できない。
でも特徴や長所なら分かる。
あくまで、システムを信じるなら、っていう条件は付くけどね。
まあいまは信頼して、自分の長所を伸ばしていくのが良策かな。
というか、そうしないと生き残れないと思う。
”特性”項目の左側にあるのは、自分の”才能”だっていうのも推測できるね。
その”才能”のおかげで、個別のスキルと相性が良く、使いこなせる、と。
うん。なんとなく理解できた。
それじゃあ、あらためてボク自身を分析してみると―――、
魔獣種で『毛針』を武器にしてて、
魔法が得意で、魔力によって色々なものに『干渉』できて、
英傑になれるほど成長が早くて?、
手芸が得意、そして初期戦闘力は2、と。
はあ。なんともバランス悪いねえ。
ゲーム的に言えば、魔法能力に全振りしちゃったみたいな。
表記はされてないけど、肉体関係のステータスはマイナスでもおかしくないよ。
だって自力だと満足に歩けもしないんだからね。
そこらへん、”カスタマイズポイント”とやらで何とか出来ないのかな?
このポイントって、やっぱり消費して自分を強化できるとかだよね。
スキルを取得できる? あるいは強化できる?
もしくは、自分の”才能”自体を変更できるのかな?
カスタマイズっていうくらいだし、自分自身を改造……?
才能を得られるなら、早い内の方がよさそうだけど……ちょっと試してみよう。
システムさん、音楽の才能って取れるー?
《『楽士の才』取得には、カスタマイズポイントが足りません》
むむ。まあ、ボクは音楽の成績でも『1』を取ったことがあるからね。
期待はしてなかったよ。
でも、とりあえず才能を選べるってのは分かった。
それじゃあ次だ。『手芸の才』を強化できるかな?
《『手芸の才・参』は『手芸の才・極』への強化が可能です》
《カスタマイズポイント:100が必要です。強化を行いますか?》
ほうほう。編み物職人にでもなれそうだね。
人じゃないけど。
ともかくも、才能の強化が可能なのも分かった。
あ、答えはノーで。次を試してみよう。
『毛針』スキルの強化って可能かな?
《スキル『毛針』は『剛毛針』への強化が可能です》
《カスタマイズポイント:40が必要です。強化を行いますか?》
剛毛って……。
毒針とか麻痺針とかじゃないんだ。硬くて強くなるってところかな。
まあいいや。こっちの答えもノーで。
とりあえずポイントは温存しておくけど、システムの概要は分かってきたね。
”才能”も”スキル”も、ポイントによって強化が可能。
ただし、才能の方がポイントは高くつく。
しかも才能の種類によって、必要なポイントも変わってくるのかな?
細かい部分は要検証だね。
ポイントも限られてるし、もう少し考えてから決断しても遅くはないはず。
とりわけスキルの方は、自力でも鍛えられるみたいだからね。
まずは魔法系かな。
『浮遊』なんてスキルもあるみたいだし、その内に自力で飛べるようになるかも。
あと、この体の特徴と言えば、眼がいいくらいかな。
全方位確認できるのは間違いなく長所だし、不意打ちとかに備えるにも……、
《行為経験値が一定に達しました。『五感強化』スキルが上昇しました》
五感、か。
少なくとも視力は、人間だった頃より優れてる。
でも、耳や鼻は何処にあるのか謎だね。
聴覚はある。触覚や嗅覚も。味覚は……あるのかな?
吸収以外での食事はしたことないし。
だけど空気の味くらいは感じられるから、たぶんあるんだろうね。
それにしても、五感”強化”って部分が気になるね。
周囲へ目を向けてはいたけど、別段、強化するようなことは……と、シルバーが起きたみたいだ。
あ、シルバーっていうのは、ボクが乗ってるウミネコのこと。
折角なので名前を付けてみた。
しばらくは一蓮托生の相棒だからね。
で、そのシルバーはきょろきょろと辺りを見回す。
他のウミネコたちも起き始めていた。
朝の狩り、じゃなくて漁を始める。
ウミネコって、海面に出てくる魚とかを獲るんだね。
海の中まで潜る種類じゃなくて助かったよ。
懸命に魚を獲る姿は、なかなかに可愛らしい。
くりくりとした目とか、首を振る仕草とか、鳥って愛嬌あるよね。
優しい感じもする。
横から魚を掠め取っても怒られないし。
嘴で摘み上げたところに毛針を刺して、『吸収』でね。
ちゅぅ~、っと。
さすがに全部は横取りしないよ。
シルバーにはしっかり飛んでもらわないといけないからね。
そうして旅の二日目が始まる。
ボクはしがみ付いてるだけなんだけどね。
頑張れ、シルバー。
ニャー。
うんうん。おまえも早く陸地に着きたいよね。
ニャー。
なるべく低く飛んでくれないかな。寒いのは苦手なんだよ。
ニャー。
だからね、もっと低く飛んでいいよー。
群れから離れたくないのは分かるけどさー。
ニャー。
寒い~! 寒いよ~!
ニャー。
……シルバーって、実はアホウドリだったりする?
…………。
なんでそこで黙るの!?
え? なに? もしかして、ボクの心の言葉が通じてる!?
ニャー。
……いや、まさかねえ。
偶然だよ、偶然。どこから見ても只のウミネコだしね。
ニャー。
《行為経験値が一定に達しました。『待機』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『水冷耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『生命力強化』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『魔力強化』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『器用』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『耐久』スキルが上昇しました》
地味にスキルを鍛えたり、魔法を試したりしながら、旅は順調に進んだ。
飛んでいる間に能力の検証をしたり、
シルバーと獲った魚の奪い合いをしたり、
自分でも毛針を伸ばして魚を獲れるようになったり、
たまに他のウミネコから啄ばまれそうになったり―――。
そう、順調だと思ってたんだ。
ボクはまだ自分の、この毛玉体の貧弱さを甘く見ていた。
たまに、後書きにステータスを載せていきます。
本文だとけっこう邪魔になる時もありますからね。
-------------------------------
魔獣 ティニィ・ロウ・パサルリア LV:4 名前:なし
戦闘力:18
社会生活力:-100
カルマ:-110
特性:
魔獣種 :『毛針』『吸収』
魔導の才・極:『干渉』『魔力強化』
英傑絶佳・従:『成長加速』
手芸の才・参:『器用』
称号:
『使い魔候補』
カスタマイズポイント:140
-------------------------------