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08 我こそは封印を解かれし覇王


 おはようございます。

 地下深くの封印されし小部屋で目覚めた漆黒の毛玉です。

 そして魔眼です。

 魔獣ではなくて魔眼になりました。

 獣と眼、どちらが慶ばしいんでしょう?

 そんなささやかな疑問を覚えつつも、起き上がろうとしました。

 浮きました。


 うん。足が失くなってる。

 そしてどうやら、空中移動が自然とできるようになったみたいだ。

 魔獣ならぬ、魔眼種の特殊能力ってところかな。

 ほんの少しだけ魔力の消費はあるね。

 意識すると、体内で魔術式が発動されているのも感知できる。

 だけど人間だって歩けば筋肉や血液が動くからね。それと同じようなものだ。

 気に留めるほどの消費じゃない。


 素早さとしては、これまでより若干向上してるっぽい。

 ただ少し慣れは必要かな。やっぱり足が無いっていうのは違和感もある。

 まあそれを言ったら、この毛玉体そのものが違和感だらけだからね。

 なんとかなるでしょ。

 毛を操って、あれこれできるのは変わらない。

 いざとなったら、『変身』で足や手だけ生やすのに挑戦してもいい。

 むしろ重力の縛りから解放されて動き易くなったかも。


 それにしても、こうして足が失くなると……、

 完全に玉だねえ。分かってたけど、毛玉だ。

 眼を瞑ってたら、もう魔獣って認識されないんじゃない?

 人間の街にも平然と入っていけるかも。

 見張りの兵士も、毛玉だな、通ってよし、とか見逃してくれそう。

 まあさすがに、そこまで甘くはないだろうけどね。

 試してみるほど無謀でもないよ。


 さて、他に変わったところと言えば……、

 黒い毛並みは相変わらずだね。ふわふわで、艶もある。

 だけどよく刺さりそうだ。

 全身の大きさもほとんど変わっていないかな。

 バスケットボールより、ちょっと大きいくらいだ。

 ステータス面の変化も、まあ平常運転?

 戦闘力が上がって、社会生活力とカルマが下がってる。


 気になるのは、特性の『魔眼覇王』だね。

 覇者から覇王へとランクアップ。

 そっかぁ。

 ついにボク、王様になっちゃったか。

 しかもシステム神によるお墨付き。

 王権神授説を唱えても許されるね。

 暴君万歳。何でもアリだ。

 まあ、国民も国土も持っていないんだけどねえ。


 冗談はともかくとして、魔眼が強力になったのは確実だろうね。

 眼の内側に意識を向けて、刻まれている魔力回路を確かめてみる。

 以前にあった『死毒の魔眼』より、さらに複雑になっているみたいだ。

 『死毒の魔眼』は『死滅の魔眼』に。

 『混沌の魔眼』は『災禍の魔眼』に、其々が強化されてるね。


 効果はまだ分からない。

 それでも間違いなく頼れる武器になるはず。

 試したいところだし、そろそろこの地下から出ようかね。


 頭上へ向けて、魔術を組んで穴を掘る。

 開いた穴から一気に浮上。

 視界が開けた。

 そして、目が合った。

 半裸の女の人たち?が、一斉にボクを見て目を見開いていた。







 どうやら進化直後で、ボクも浮かれていたらしい。

 地上の気配を探るのを忘れてた。

 ともあれ、いまは囲まれた状況で―――女の人たち?がいっぱい。


 人の部分に疑問符が付くのは、彼女たちの下半身が植物になっているからだ。

 肌が緑色の子もいる。

 髪の先からツタや花が生えている子もいる。

 うん。アルラウネだね。

 以前に会った親子の仲間かな?

 だとすると、警戒しなくても大丈夫っぽい?


 とか思ったところで、アルラウネの一人が声を上げた。

 なんとなく悲鳴みたいな。

 同時に、身体から生えた植物が花粉を吹き出す。

 他のアルラウネも我に返ったような顔をして、一斉に花粉を飛ばしてきた。

 ボクへ向かって。魔術を使って風を操るアルラウネもいた。


 反射的に、ボクは『加護』で障壁を張る。

 花粉は障壁を傷つけられもせず、ボクにはまったく届いてこなかった。

 油断する訳じゃないけど、試しに受けてみてもよかったかもね。

 進化して、『精神無効』やら『全属性耐性』やらのスキルが解放された。

 アルラウネの花粉は魅了効果みたいだったし、たぶんボクには効かないでしょ。

 まあ、実験で自分を危険に晒すつもりはないけどね。

 もしかしたら毒の花粉とかもあるかも知れないし。


 だけど怖くないと、半ば確信もできる。

 アルラウネからは、巨大魚竜に感じた脅威みたいなものがまったく無い。

 亀オークや、もしかしたらミミズよりも弱いかも。

 アルマジロから必死になって逃げてたくらいだからねえ。


 それに、今もアルラウネたちは腰が引けてる。

 絶望したような表情をして、なにやら喚き散らしている子もいる。

 ん? 一人が植物になってる部分から何か伸ばしてきた。

 ハエトリグサみたいに牙を生やした植物だ。

 『八万針』で迎撃。

 爆裂効果を乗せた針は、あっさりとハエトリグサを砕き散らした。

 本体であるアルラウネの方も、悲痛な声を上げて倒れる。


 さて、どうしようか?

 相手は人間みたいで、知性もあるみたいだから、穏便に済ませたかったんだよね。

 でも向こうから攻撃してきたんだし、そろそろ反撃してもいいかな。

 新しくなった魔眼も試してみたい。

 まずは『災禍の魔眼』を―――と思った時、一体のアルラウネが駆け出してきた。


 んん? なんか見覚えがあるような?

 ああ、アルマジロに襲われてた母親アルラウネだ。

 後ろの方には幼女アルラウネの姿も見える。

 あと、大きなイモムシみたいな魔獣も控えてるね。


 で、その母ラウネは、いきなり土下座した。

 あるんだ。この世界にも、土下座って。

 謝っている、と解釈していいのかな?

 他のアルラウネたちは戸惑うばかりだけど、ひとまず攻撃の手は止まった。

 母ラウネは頭を下げたまま、何やら言葉を投げてくる。

 意味は分からない。

 だけど懸命な様子は伝わってくる。

 以前に会った時とは、ボクは微妙に姿が変わってるはずだけど、同じ相手だって分かったのかな?

 ともあれ、手出ししたのを謝ってるのは確かみたいだ。


 んん~……なんだか戦う雰囲気でもないね。

 無視してもいいけど、このまま攻撃しても後味が悪いことになりそうだ。

 幼ラウネも涙を溜めてこっちを見つめている。

 まあ、ボクの被害は無かったし。

 こっちから驚かせた事態でもあるし。

 魔眼の試し撃ちなら、他の標的でも構わないし。

 ひとまず休戦ってことでいいかな。


 その意志を示すために、ボクはハエトリグサを伸ばしてきたアルラウネへ目を向けた。

 『大治の魔眼』、発動。

 砕けた植物部分までは治らないけど、すぐに起き上がれるくらいには回復する。

 それを確認してから、ボクは高々と浮かび上がった。

 おお、やっぱり素早さが上がってる。

 今ならウミネコたちとも揃って飛べそうだよ。

 あっという間に森の上まで移動して、アルラウネたちを見下ろす。


 そのまま離れようとした。

 だけど、ふと気になるものが目に留まった。

 また別のアルラウネ集団だ。

 いや、仲間なのかな? さっきの場所からさほど離れてない。

 百人? 百体? ともかくそれくらいの数がいる。

 花畑と破壊跡があった場所だね。


 あ、もしかしてあの花畑って、アルラウネたちが育てていたとか?

 植物系の魔獣みたいだし、有り得そうだね。

 だけどそうなると、あの破壊跡は……、


 魚竜に追われて逃げ出したってところかな。

 夜の森で出会った親子は、逃げ出す最中ではぐれたと考えると辻褄が合う。

 それで、ボス魚竜がいなくなったのが分かって戻ってきた?

 ん~……正解か分からないけど、推測できるのはこんなところだね。

 でも、だとすると、魚竜が湖に来たのって最近なのかな?

 あるいは逆に、アルラウネたちがもっと遠くから移動してきて、暮らし始めたところで襲われた?

 まあ、細かな事情はどうでもいいか。

 知ったところで、ボクにはあんまり関係なさそうだしね。


 ただ、アルラウネたちが暮らせる場所だっていうのは重要だ。

 それだけ安全だって言えるんじゃない?

 さっきの遭遇でも分かったけど、アルラウネの戦闘力は高くない。

 魅了攻撃は嵌まると怖そうだけどね。

 人間型だけあって知恵は働くみたいだから、集団なら亀オークと互角くらい?

 いずれにしても、今のボクにとっては脅威じゃない相手だ。

 そんな彼女たちが暮らしていけるなら、近くに厄介な魔獣もいないはず。


 うん。好立地だよね。

 綺麗な湖があって、風景も好みだ。

 魚も獲れる。土も悪くないから果物とかも育てられる。

 そろそろボクも一箇所に落ち着きたい。


 作っちゃおうか、拠点を。

 折角だから大規模な―――お城とか、どうだろう?



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