05 毛玉vs魚竜②
《行為経験値が一定に達しました。『高速魔』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『土木系魔術』スキルが上昇しました》
あ、あぶなぁー……。
死ぬかと思った。
短い毛玉生で生命の危機は何度も覚えたけど、こうも短い間に連続ってのは初めてだよ。
巨大魚竜のミサイルアタックに対して、ボクは逃げるのも防ぐのも不可能だった。
だから隠れた。
潜ったとも言うね。地面の中に。
毎日のように拠点作りで穴を掘ってたのが役に立った。
急いで土木系魔術を発動させて、ボクの真下に縦穴を作ったワケだ。
後は、そこに飛び込むだけ。
かなりの深さだったけど躊躇してる暇なんてなかった。
『空中機動』もあるから、着地の心配はせずに済んだけどね。
そうして地面を味方につけた。
ボクには無理でも、大地の壁がミサイルアタックを防いでくれた。
地中貫通弾じゃなくてよかったよ。
さすがに凄い衝撃が伝わってきて、生きた心地がしなかったけどねえ。
生き埋めにされたし。
でも、埋められた状態でも魔術は発動できる。
さっさと脱出するとしよう。
折角生き延びたのに、窒息なんて嫌だよ。
ってことで、横穴を掘って戦略的撤退。
あの巨大魚竜と戦う?
ないない。アレは手出ししちゃいけない類の化け物だよ。
『死毒の魔眼』さえ効かないんだもん。
威圧感だけでも、圧倒的な強者だって分かる。
推測だけど、戦闘力にしたら一万は軽く越えてるんじゃないかな?
あ、そういえば湖から出てきた時に、咄嗟に『鑑定』だけはしたんだよね。
後で『鑑定知識』にも目を通しておこう。
それにしても、地面の中だと方向がいまひとつ分からない。
もしも湖側に出ちゃったら、自爆的に水攻めを受けることになっちゃうね。
なので、少し慎重に掘り進めていく。
まあたぶん、木の根が多い方向に進んでいけば大丈夫でしょ。
湖の畔辺りは、樹木が少なくて拓けた感じになってたからね。
地中の様子を探るためにも、五感を研ぎ澄ませながら進もう。
そう思った矢先だ。
《行為経験値が一定に達しました。『危機感知』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『五感制御』スキルが上昇しました》
咄嗟に飛び退く。
と言っても、狭い穴の中だから短い距離だけどね。
それでも真っ二つになるのは避けられた。
《行為経験値が一定に達しました。『衝撃耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『打撃耐性』スキルが上昇しました》
《条件が満たされました。『打撃大耐性』スキルが解放されます》
穴の天井から水が噴き出した。
いや、これきっと巨大魚竜のブレスだよね。
直撃は避けられたけど、衝撃で吹っ飛ばされたよ。
掘ってた穴もけっこうな規模で崩れた。
マズイ。地下にいるのに、巨大魚竜には感知されてるみたいだ。
そうでなければ、こんな正確な攻撃はしてこない。
というか、ブレスを吐いてくる意味がないよね。
確実に、ボクのことを狙ってる。
どうやって? 音? あるいは魔力感知?
だったら、何もせずに潜んでいれば―――。
なんて考えたのは一瞬だけで、ボクはすぐにまた横穴を掘る。
慎重に、なんて考えずに、一気に遠くまで。
隠れていても、無事で済むかどうか分からない。
それに、空気だって長くはもたないと思う。
だからボクは急いで逃げる作戦へと切り替えた。
横穴で斜め上方を目指す。一気に地上を目指すと、登る時に動きが鈍るからね。
《行為経験値が一定に達しました。『高速魔』スキルが上昇しました》
いまのボクなら、かなり素早く広い穴も掘れる。
地下を駆けながら魔術発動。なるべく単調な動きにならないようにも気を配る。
また水流ブレスが降ってきた。
二発、三発と。こっちを追ってくるみたいに。
直撃したら終わりだけど、狙いが荒いのに助けられる。
だけど衝撃だけでも痛い。
ちょっと足を捻った。壁に叩きつけられて、副眼が幾つか潰された。
『自己再生』と『大治の魔眼』で応急処置をしておく。
ひとまず動きに支障はない。
痛みはあるけど、『激痛耐性』もあるので無視できる程度だ。
さらに穴を掘り進めて、ようやく地上から光が差した。
全力疾走で飛び出す。
直後、背後で長い首をもたげている巨大魚竜の姿が見えた。
ブレスを吐く直前の”溜め”の姿勢だ。
うん。分かってた。
やっぱり姿を現した瞬間を狙ってくるよね。
だからこっちも準備して”溜めて”おいたよ。
巨大魚竜が口を開く。
ボクも空中で身を捻りつつ、『万魔撃』を発動。
水流ブレスと、魔力ビームがぶつかり合う。
もしも最大威力の水流ブレスだったら、『万魔撃』も貫かれていた。
だけど、逃げている最中に分かった。
少しずつ威力が落ちている、と。
推測になるけど、体内の水を高圧縮して吐き出しているから、その水が少なくなると威力が落ちるんじゃないかな?
あるいは、単純に疲労したのか。
どちらにせよ、いまの水流ブレスは僅かながら威力が落ちていた。
『万魔撃』は拮抗―――いや、押し勝って、巨大魚竜の口内へ一撃を叩き込んだ。
《行為経験値が一定に達しました。『万魔撃』スキルが上昇しました》
さすがにこれは効いたらしい。
攻撃の瞬間には無防備になる、ってやつだね。
口から煙を上げながら、巨大魚竜は甲高い声を上げた。
だけど致命傷じゃない。
身じろぎしただけ。ほんの掠り傷程度だね。
この程度じゃ倒せないのは、ボクだって分かってるよ。
だから『闇裂の魔眼』発動。
巨体を闇で包み込む。
その闇の中では無数の斬撃が放たれるんだけど、きっと鱗で防がれるね。
だけど目的は目眩ましだ。すぐさまボクは逃げ出す。
辺りは湖畔から少し離れた森だ。
今度こそ身を隠せれば―――なんて考えは甘かった。
闇の中から巨大魚竜が飛び出してくる。
低空飛行して、木々を物ともせずに打ち倒すと、ボクの正面に降り立った。
甲高い、怒りを感じさせる吠え声が大気を震えさせた。
戦意を滾らせた眼光で、こちらを見据える。
《行為経験値が一定に達しました。『恐怖大耐性』スキルが大幅に上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『精神耐性』スキルが大幅に上昇しました》
相手は完全に殺る気だ。
その眼光だけでも、ボクにとっては凶器みたいなものだ。
今更ながら、圧倒的な力量差がひしひしと伝わってきた。
身が竦む。足もがくがくと震えた。
全身の毛が逆立っていたのは、けっして戦意を湧き上がらせたからじゃない。
本能が最大限の警告を発していたんだ。
逆らっても無駄。どうしようもない、と。
理性で考えても分かる。
頼みの綱である魔眼も、万魔撃も通用しない。
あの硬い鱗の前では、毛針だって当然のように弾かれる。
つまりは、打つ手が無い。
《行為経験値が一定に達しました。『恐怖大耐性』スキルが上昇しました》
《行為経験値が一定に達しました。『精神耐性』スキルが上昇しました》
はあ。仕方ないね。
この巨大魚竜は、絶対にボクを逃がすつもりがない。
逃げられない。殺される。
だったら、こっちが先に殺せばいい。
それしか生き延びる手段は無いんだから。
《行為経験値が一定に達しました。『極道』スキルが上昇しました》
巨大魚竜が一歩を踏み出そうとする。
でもそれより早く、ボクの方が前へと駆け出した。




