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03 真夜中の出会い


 夜。手早く拠点を作って睡眠を取る。

 闇結界を使えるようになって、作業が随分と楽になったね。

 これひとつで、魔獣への警戒は充分とも言える。

 ただ、あくまで接近を察知できるだけ。


 魔獣除けの偽リンゴと落とし穴、これくらいは可能な限り設置しておきたい。

 もっとも、偽リンゴは未だに効果があるのか未確定だけどね。

 だから栽培目的も兼ねてる。

 破魔効果を抜いた食べられるリンゴへの改造も、手法は確立できた。

 あちこちに生えていれば、そこの種から簡単に食料が確保できる。

 なるべく荷物は無しで動けるようにしておきたいからね。


 いまはポーチひとつで持ち歩ける分だけにしてる。

 余った果実とかは、森の中に何ヶ所かに分けて隠してあるよ。

 元は人型だった根っ子も、幾つか芽が出たのが残ってる。

 ちょっと危険なイモだけど、育てて増やしておくべきかね。

 そのうちに品種改良を成功させれば、安定した食料源になりそうだ。

 ジャガイモみたいなのが出来れば最高なんだけどなあ。


 ただ、そろそろ本格的な拠点の製作に挑戦したいところでもあるね。

 土木系魔術や錬金術のおかげで、土壁くらいは作れるようになった。

 建築知識なんて持ってないけど、家くらいは作れそう。

 だけど一番の問題は、大きな物を作ると目立つのが―――、


《行為経験値が一定に達しました。『自動感知』スキルが上昇しました》


 んん? 何かが結界に入ってきた。

 大小二体の反応? 人間くらいの大きさかな?

 とりあえず、『加護』を発動。

 木枝の上から近づいて様子を窺う。


 と、また別の反応もあった。

 今度はもっと大きな、はっきりと分かる相手だ。

 ゴロゴロと転がってくる、アルマジロだ。

 ただし、大きさは地球の熊よりも大きい。

 一旦、闇結界を切る。木々の間からでも人影が確認できた。

 え? 人?


 なんか半裸の母子二人がアルマジロに追われてるっぽいんだけど。

 半裸っていうか、下半身は服を着ていない。

 ちゃんと上半身には綺麗なシャツを着てるのにね。

 それ以外は葉っぱで一部を隠してるだけだ。

 あ、いや、それも違う。

 隠してるというか、下半身は植物になってる。


 アレだ、アルラウネってやつだね。

 『鑑定』すると、魔獣に分類されているのは分かった。

 『鑑定知識』には種族名っぽいのも表示されてるんだけど、相変わらず読めない。

 音声付きで読んでもらうと、アルリムとかアルリューネとか聞こえる。

 まあ、アルラウネでいいか。


 それにしても、若い母親と幼女? もしかして姉妹?

 ああいう人型魔獣もいるんだねえ。

 そういえば巨人や亀オークも、一応は人型だった。

 怖いのと臭いので親近感湧かなかったから、枠外に追いやってたよ。


 と、のんびり観察してる場合じゃないかな。

 幼女を庇って、母ラウネがアルマジロに弾き飛ばされる。

 うわ、痛そう。

 アイツの回転突撃って、実は棘付きなんだよね。

 直撃は避けた母ラウネだけど、背中が大きく裂かれていた。

 悲鳴を上げて幼女が駆け寄るけど、もう母ラウネは立ち上がるのも難しそうだ。


 アルマジロの方は、太い木に当たって止まり、振り返る。

 のっしのっしとアルマジロが歩いていく。

 母子アルラウネに迫る。

 仕方ないね。この森は弱肉強食だから。

 弱いと生き残れない。狩られて、食べられるしかない。

 だから―――、


 『凍結の魔眼』、発動!

 アルマジロの全身が凍りつく。

 その頭上へ降りて、貫通針と吸収でトドメ。

 いや、凍りついた時点で終わってたけど、念の為にね。

 吸収され尽くしたアルマジロは死体も残さず、バラバラと氷だけが地面に散らばった。


 その様子を、母子アルラウネは呆然として眺めていた。

 さて、どうしようか?

 鑑定では魔獣となってた二人だけど、言葉は喋れるらしい。

 追い詰められてる時に、母子で何やら遣り取りはしてた。

 音の響きからして、銀子が話してた言葉と同じっぽいんだよね。

 共通言語っていうものかな?


 まあ、言葉が喋れるから何だって話もあるんだけど。

 人攫いとか冒険者とか、危険な相手はいるからね。

 だけど、目の前にいる二人は怯えて震えているだけだ。

 互いを守るように抱き合ってる。

 こうなると、ボクだって襲うつもりはないし―――、


《行為経験値が一定に達しました。『魅了耐性』スキルが上昇しました》


 なにこれ? 魅了攻撃を受けてるってこと?

 あ、夜で見え難かったけど、辺りに粉が舞ってる。

 もしかして花粉?

 このアルラウネ母子からの攻撃? それとも自動で撒いてるとか?

 どっちでもいいや。

 幸い、『加護』でほとんど防がれてるので害はない。

 だけど相手が攻撃してきたのは確かだ。


 ふぅん。そっちがその気なら、こっちにも考えがあるよ。

 誰に攻撃したのか教えてあげよう。

 『大治の魔眼』、発動。

 淡い光が母アルラウネを包んで、傷を癒していく。

 ついでに幼女アルラウネにも掛けておこう。

 これでボクが危険な魔獣じゃないって分かったはずだ。


 呆然としてる二人に背を向けて、ボクは立ち去る。

 もう夜だしね。眠い。

 何処でも好きな所に行くといいよ。







 朝。例の母子アルラウネはいなくなっていた。

 他に取り立てて変わったことがないのを確認しつつ、リンゴで朝食を済ませる。


 それにしても、あの二人は何してたんだろうね?

 夜中なのに探索?

 そもそも危険な森の中を出歩くようなタイプには見えなかった。

 魔獣だからって戦闘力があるとは限らないからね。

 ボクだって最初は酷いものだったし。

 まあ、話を聞こうにも言葉が分からないか。

 意思疎通の問題も、いつか解決したいんだけどねえ。


 とりあえず、今日の行動から始めよう。

 まずは例の亀オーク拠点をもう一度見てみるつもりだ。

 あそこの丘の南の方には、どうやら湖があるみたいだった。

 昨日はオークとの一戦もあったから、遠目での確認のみだったけどね。


 その湖を目指そうと思う。

 新しい植物とか、拠点を作るのに向いてる土地とかあるかも知れないね。

 ちなみに―――、

 母子アルラウネも、どうやらそっちへ向かってるみたいだった。


 別段、気にしてる訳じゃないよ。

 ただ、草むらに、二人が進んでいったような跡を見つけただけ。

 逃げてきたのも南からだったね。

 何かしらの事情でここらまで来て、アルマジロに追われて、それでまた引き返していったってところかな?


 あくまで推測だけどね。

 広い森だし、もう会うこともないはず。

 同じ方向に進んでるからって、偶然バッタリとか、そうそう有り得ない。

 ないよね?

 幼女絡みのトラブルを引き寄せるとか?

 そんな才能は要らないよ。



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